その2
「……って感じかなぁ」
約一年前に転校してきた日の記憶を辿りながら話せば、一吹は興味深そうに頷いた。その後に何故か俺の肩をバシバシと叩き、大きな声で言う。
「いいよなぁ、お前最初に出会ったのがこころなのかよ!」
「そうだけど……一吹は違うの?」
「違ぇよ!ちくしょう、羨ましい……」
一吹はわざとらしく泣き真似をして、屋上のフェンスに寄り掛かった。
「ちなみに、誰に会ったか聞いてもいい?」
「いいけど、何も面白くねぇぞ」
「気になるから」
「……担任」
「すごい面白いじゃん」
ジト目でそう告げた一吹に思わず吹き出した。俺は夕凪に案内をして貰ったけれど、一吹は初っ端から担任に遭遇したわけだ。美人と初老の男性とでは、さすがに天と地の差がある気がする(なんて言ったら先生に怒られそうだけど)。
「目覚めたらさ、何か廊下で寝てるし……どこだ此処ってキョロキョロしてたらいきなり担任に声かけられて、遅刻ですよなんて言われたんだぜ?」
一吹は拗ねたような顔で言った。
……廊下で寝てたのってお前だったのか。
「まぁ、穏やかだから別に良くない?」
「どこが!繋も知ってるだろ?あの先生、笑顔で怒るタイプだからさ……めちゃくちゃ怖かったぞ、あの時」
「うん、なんとなく想像はできる」
担任の山岸先生は、聖人かと思うほど穏やかで優しさに満ち溢れた先生だけれど、怒ると怖い。静かに威圧してくる。笑顔を崩さないまま、短い言葉で淡々と説教をするタイプだ。クラスメイトは皆、先生の恐ろしさを知っているから、怒らせないように頑張っている。もっとも、あの先生が本気で怒ることは滅多にないのだが。
「あの時さ、いきなり廊下で寝てるし知らない人から担任だと言われてその後に遅刻だって叱られて……何がなんだか分からなかったな。だけど、そういや今日は寝坊して急いで学校に来たんだっけって思ったら、混乱も自然と落ち着いてさ、一瞬だけ知らない場所と人たちって思ったけど、よくよく考えたら俺はこの学校に入学したんだっけって思い出したんだよな」
「……そうなの?」
「おう。今思い出したけど、俺はこの学校に入学してない。転校なんて手続きもした覚えないし……やっぱおかしいよな」
俺は頷いた。
やはりこの学校には何かしら秘密がありそうだ。俺は流されやすい人間だから、一吹が疑問を抱いたことによって、この学校や世界には大きな秘密が隠されているのではないかと、段々と思い始めてしまっている。その先入観が引き起こした一種の妄想かもしれないが、思い返すと可笑しな点ばかりだ。
「二人して何の話をしているの?」
不意に声をかけられ、二人してビクリと肩を揺らした。ぼけっと空を見ながら会話をしていたせいか、屋上の扉が開いたことに気が付かなかった。
「よっす、こころ」
「こんにちは。今日も元気そうね」
「おうよ!ちっと面白い話してたからな」
長い髪を揺らしながら近づいてくる夕凪は、相変わらず出会った時みたいに綺麗なままだ。変わったことといえば、右腕に生徒会の腕章をつけるようになったことくらいだ。蝶のヘアピンも、長い睫毛も、左目の下にある泣き黒子も変化なし。
だが、どこか一線を引いたような、遠い存在だと思っていた感覚は消えた。今や普通の友人として、こうして休み時間に会話をする仲だ。
「面白い話ね。私も混ぜてくれない?」
「いいよ。夕凪も興味あるんだね」
「面白いって言われたら尚更気になるわよ。隣、失礼するわ」
「どうぞ」
俺は広げていた荷物を片付け、スペースを開ける。夕凪は、スカートが皺にならないように丁寧に座った。
「それで、何の話をしていたの?」
「此処に来た時の話だよ。一吹が聞きたいって言ったから」
「出会った時?屋上で繋くんが寝ていたアレね」
「それは忘れて……」
「ふふ、忘れないわよ」
夕凪は悪戯に笑う。頼むからみっともない俺のことは忘れてくれと心の中で願うが、彼女は記憶力が良さそうだし絶対に忘れないだろうな。
「なぁ、こころ。お前はこの世界で生きてる理由とか世界の秘密だとか興味ないか?」
「え、いきなり本題に入るの……?」
「仲間増やしたいからな」
キラリと効果音でもつきそうなほど、一吹はキメ顔で言う。そんな漠然とした言い方で、夕凪の好奇心をくすぐれるだろうか。
「それはまた随分と規模の大きい話ね。どうしてそんなことに興味を持ったの?」
「そりゃ、この世界が変だと感じたからさ」
「具体的に」
「青空しか見れないとか、街の外に出たらいつの間にか家に帰ってきちまうとか……転校のこととか?」
どこか真面目な雰囲気を醸し出した夕凪に、指を一つずつ折り曲げながら一吹が答える。それを聞いた夕凪は、顎に手を当てて難しそうな顔をした。
「なるほど。確かに気になることばかりよね」
「だろ!?やっぱこころも変だと思うよな!?」
「変……とはまた違うけれど、気にはなるわ」
「じゃあさ、こころもオレたちと一緒に世界の秘密を探りに行かねぇ?」
「……いいわね。楽しそうじゃない」
その返事に俺は目を丸くする。
夕凪は、こういう類の話は興味ないとばかり思っていた。まさか、即答するだなんて。
彼女もそれなりに、この世界について疑問を抱いたことがあったのだろうか。出会った時は、それが世界の常識だなんてことをよく言っていたのに。
俺は未だに、彼女のことがよく分からなかった。
「繋くんも、気になっているの?」
「……まぁ、それなりに。恥ずかしい話、今まで感じていた世界への違和感を、ついさっき思い出したんだけどね」
「今まで忘れていたの?」
「不思議なことにね」
「でもまぁ、よくある話よ。この学校には面白いことが転がっているから、些細な疑問なんてあっという間に消えてしまうもの」
夕凪は大きな目を少しだけ細めた。
そういうものなのだろうか。これほどスケールの大きい疑問ならば、そう簡単に忘れることはないはずなのだが……。
「ところで一吹くん。世界の秘密って、何かしら検討はついているの?さっきあげた事柄には、全て何か不思議な力が働いているだとか思っているのよね?」
「もちろん!」
「そうだったのか……一吹はその世界の秘密とやらが、どんなものだと思っているの?」
「この世界が檻みたいなもので、オレたちみんなを閉じ込めてデスゲームをさせるとか!」
「……マジか」
「あとは、この世界を監視してる秘密結社があって、オレたちはソイツ等の実験体とかね!」
「……」
思わずズッコケそうになる。隣の夕凪の表情を窺うが、同じように複雑そうな表情で笑っていた。
それは漫画の読みすぎだろう。
そうツッコみたくもなるが、もしも本当にそうならば面白い。自分がその立場には置かれたくないが、その展開を想像する分にはワクワクする。
「可能性は無きにしも非ずってところね。調査をしてみる価値はあるんじゃないかしら」
「だよな!よし、じゃあ早速行くか!」
「もう行くの?」
「当たり前だろ!繋は行かねぇの?」
「いや、一応気にはなるから着いていくけど……」
「じゃあ決まりな。今日はこれから調査だ!そうと決まれば、あずと雅も誘いに行くか!」
一吹は天高く手を伸ばすと、やる気に満ち溢れた声で俺を見る。このハイテンションな男に巻き込まれるのが、もう二人ほど増えるらしい。果たしてあの二人はこの些細な好奇心から生まれた調査目的に興味を持ってくれるだろうか。
「さぁさぁ、今日は授業はサボりだ!」
「そうなるわね。早めに移動しないと、二人を引き止められないわよ?」
「そうだったな。じゃ、走れー!」
校舎内への扉をビシッと指さすと、一吹は陽気に駆け出した。風のように去っていく彼の後を、俺達も追う。
「夕凪、君は生徒会なのに授業サボってもいいの?」
校内にこだます昼休み終了の鐘を聞きながら問う。
「生徒会だからってサボっちゃいけないなんてルールないでしょう?」
「いや、そもそも授業サボること自体が本来はいけないことなんだけど……まぁ、確かにそんなルールはない」
「でしょう?それに、たまにはこうして楽しいことだけをするのも悪くないじゃない」
夕凪はどことなくこの状況を楽しんでいるようだった。彼女はいわば優等生。授業をサボることなど言語道断だと思っていたが、そうでもないらしい。意外と子供っぽいのだろうか。夕凪の印象が、少しだけ変わった気がする。
しばらくして、五限の授業開始の鐘が鳴った。昼休みに聞こえていた賑やかな声は、今は聞こえない。どの部屋も静寂に満ちていた。
そんな中、俺たちは三年の教室がある北校舎に居た。三階にある、社会科資料室。滅多に使われない教室だ。もはや空き教室に近いこの場所は、秘密の会議をするにはもってこいだろう。
「授業サボってまで呼び出すって、そんな大事なことでもあんの?」
行儀悪く机に腰掛けた北原雅が、赤茶色の髪の毛先を弄りながら言う。ハスキーな声は、少しだけ苛立っているように聞こえた。
「まぁまぁそんな怒るなって!」
「アンタに呼び出されたから余計に腹立つ。ましてや、あずまで授業サボらせるとかふざけてんの?」
「だー!待て待て!殴ろうとするな!」
「み、雅ちゃん、暴力はダメだよ……!」
「分かってるよ、あず。ったく、あずに感謝しろよクソ一吹」
「は、はいぃ……」
北原の背後に隠れるようにして立っている『あず』こと東屋優芽が、おどおどしながら北原を止める。二人の賑やかな声にかき消されそうなその声を聞き、北原が大人しくなった。
「……で、本題は何?いつメンしか居ないし、そんなに大事な内容とは思えないけど」
北原が腕を組みながら、短めのスカートから覗く足を組んだ。
この場に居るのは、一吹、北原、あず、夕凪、俺の五人だ。知らず知らずのうちに意気投合した俺たちは、クラスは違えどこうしてよく五人で集まっている。
「本題はなぁ、この世界の秘密を一緒に探りに行かないかってヤツだ!」
「はぁ?」
「そ、そんな怖い顔で睨むなよ……こっちは真面目に話してんだ」
「いや、真面目ではなかったよ」
「繋はオレの味方してくれよ!」
慌てて俺に縋る一吹を適当に流し、俺が代わりに答える。
「一吹がさ、この世界で俺たちが生きている理由とか世界の秘密が知りたいんだと。ほら、よくよく考えればこの世界って不思議なことが多いでしょ?」
俺が言うと、北原もあずも目を何度か瞬かせた後、控えめに頷いた。
「……確かに言われてみりゃそんな気もする」
「わ、私もそんな気がしてきた……」
「だから、それを調べに行こうって話。もちろん何か見つかるかもしれないし、何も見つからないかもしれない。俺もついさっきまで何の疑問も抱かず生活していたけど、こうやって改めて考えると気になってさ」
そう言いながら、扉に寄り掛かって皆の話を聞いている夕凪に視線を送れば、微笑を湛えたまま頷かれた。
「よければさ、北原とあずも協力してくれないかなって」
少しむくれた様子の一吹を押しのけて言えば、北原がしばし唸った後に口を開く。
「いいね、面白そうじゃん。一吹の提案ってのがアレだけど、世界の秘密を暴くっての何かカッコイイし」
「何でオレの提案だとダメなんだよ!」
「なんとなく」
「オレの扱い……」
「あずはどうする?一緒に行く?」
「雅ちゃんが行くなら……!私も、少しだけ気になるから」
あずがハーフアップの髪を揺らして頷いた。
話がとんとん拍子に進む。北原もあずも、多少なりともこの世界に疑問は抱いているらしい。
……なんだかワクワクしてきた。もし本当にこの世界に重大な秘密が眠っていたら、俺達が世紀の大発見をしたということになる。ニュースで大々的に取り上げられたりして。なんて妄想をしてみるが、注目の的になるのは御免だとその想像をかき消した。
「こころも一吹の誘いに乗ったのか?」
北原が振り返り、夕凪に訊ねた。
「えぇ、そうよ」
「へぇー。こころはこういうの興味ないかと思ってた」
「意外とこういうの好きなのよ。秘密を暴くって、いけないことをしているみたいでワクワクするじゃない?」
「お、おぉ……意外だな、こころ」
眩しい笑顔で言う夕凪に半ばドン引きした様子の北原。分かる、と心の中で何度も俺は頷く。
だが、正直なところ夕凪がいれば心強い。博識で誰よりも冷静に物事を見ている彼女なら、ありもしない世界の秘密すら暴いてみせそうだ。そう勝手に想像しておきながら、俺は彼女に微笑み返した。
「ふっふっふー。さすがにこれは本格的になってきたなぁ!」
「まさか全員がノッてくれるとは思わなかったよね」
「繋のお蔭だぜホント!お前が居ると上手く進む!お礼にオレがハグしてやろう!」
「結構です」
男にハグされても嬉しくない。飛びついてきた一吹を片手で軽くガードした。
「つれねぇなぁ……。んじゃ、まぁこれでメンバーが揃ったってことで!」
「ほ、他には誘わないの?」
「あずは誰か誘いたいヤツいるの?」
俯きがちに言ったあずに訊ねれば、「そうじゃないけど……」と目を逸らしてそのまま黙り込んだ。
「やめときなって、あず。誘ったところでアタシら以外、このこと調べようとしないだろ?」
「北原、それどういう意味?」
「ん?いやぁ、あのさ。転校してきたばっかの時とか、慣れてきた頃とかにさ、何度かこの学校に何か隠された秘密があるんじゃないかって思ったんだよね」
「雅もオレと同レベルじゃん」
「お前は黙ってて」
「はい……」
冷めた目で睨まれた一吹は青い顔で萎縮した。仕切り直すように北原が咳払いをする。
「なんか、強引に止められたんだよね。強引にって言い方はアレかもしれないけど、誰も誘いにはノッてくれなかったよ」
「え、そうなの?」
「あぁ。そんなの調べなくていいじゃんとか、下手に調べない方がいいよって止めてきたぞ。必死に止めるっていうか、何か知られたくないことがあるみたいに笑顔で引き止めてきた」
「なるほど……」
「今思えば、あの時もうちょい追究しときゃよかったな」
北原は頭をガシガシと掻いて悔しそうな顔をした。
急に話が飛躍したな、と俺は思う。もしや、学校ぐるみで何か隠蔽していることがあるのかもしれない。触れてはいけない秘密とやらの可能性が、少しだけ見えてきた。
「俄然やる気出てきたな。おっしゃ、オレたちは今から秘密を暴く勇敢なチームだ!一緒に行動するからには、まずチーム名が必要だな!」
一吹が再び元気を取り戻し、部屋の隅に置かれていたホワイトボードを引っ張ってくる。置かれていたマーカーを手に取ると、掠れた黒色のペンで何かを大きく書いた。
「オレたちは今から、チーム・コンパス!」
「ダッサ」
「センスなさすぎか」
「コ、コンパス……?」
「あら、結構いいじゃない」
「お前らもう少しいい反応しろよ!」
得意げに『チーム・コンパス』と書いた一吹に対し、見ていた俺達四人は即座にそう反応した。夕凪を除く三人は、否定か困った反応しかしていない。そもそも何故コンパスなのかが分からない。
「でも由来が気になるわね」
俺が聞きたかったことを、夕凪が自然に訊ねてくれた。ナイスだ夕凪。
「オレらの苗字には方角が入っているだろ?だから、方位磁針ってことでコンパス!」
「あらあら、意外と安直ね。でも悲しいわ。私だけ方角が入っていないもの」
見るからにしゅんとした様子の夕凪に、安心しろと一吹が自らの胸を叩いた。
「こころって、感じで書くと中心の『シン』だろ?オレたち四人の中心……つまりこころは方位磁針の針だ!」
なるほど。
これには少し納得した。一吹にしては上手く名付けたものだと、素直に感心する。
「それは嬉しいわね。いい名前じゃない」
「だろ?ふふん、オレは天才の一吹様だからな!」
「その一言がなければ完璧だった」
「繋の言う通りだな」
「私もそう思います……」
あずにまで言われたら終わりだろ。内心そうツッコんでいると、さすがの一吹もそれは理解しているようで、見るからにショックを受けていた。
「チーム名を決めたら、次はリーダーかしら?」と乗り気の夕凪が一吹の代わりにペンを取った。
「繋でいいんじゃね?」
「え、オレは!?」
「一吹は論外」
「私も西条くんでいいかなぁと……」
「私も賛成よ」
「……まぁ、別にいいけどよぉ」
全員の視線が俺に向けられる。あまりに話の進みが早いから理解できていなかったが、ワンテンポ遅れて言葉の意味を理解する。
「俺、リーダーって柄じゃないけど……」
「繋なら大丈夫じゃね?確かに人前に立つようなタイプじゃないけど、皆のことよく気遣えるしちょうどいいと思うけど」
「北原……」
「ま、仕方ねぇ。リーダーの座は繋に譲るとするか。繋、どうだ?」
一吹が仕方ないと溜息を吐きながら問う。
言い出しっぺの一吹がリーダーじゃなくて良いのだろうか。確かに彼がリーダーだと頼りない部分もあるけれど、俺よりは行動力があるし、リーダーシップもあると思うのだが……。
全員が俺で良いと言っている以上、特別断る理由もなかった。
「分かった。それでいい」
「決まりね」
夕凪がチーム・コンパスと書かれた下に、『リーダー・繋』と整った字で書いた。半ば司会のようなポジションにいる夕凪の方がリーダーらしい気もするが、それはあえて口にしないでおく。
「じゃあ早速だけど……どこを調査しようか」
「やっぱ校長室とかだろ!機密資料とかありそうだしな!」
一番に答えたのは一吹だ。
「いきなりハードル高そうだから、後回しの方がいいんじゃない?」
「む、リーダーが言うなら仕方ない……」
「生徒会室とかどうなんだ?あそこって限られた人間しか入れないだろ?」
そう言った北原に真っ先に反応したのは、生徒会に所属している夕凪だった。
「あそこには意外と何もないわよ?全部の場所を調べたわけじゃないけど、そんな重要そうな書類とかは見た事がないわね……」
「んー……じゃあまだ調べなくていいかな」と北原が頭を悩ませる。
「旧校舎とかはどうかな……?」
「意外と職員室とかもありそうだな!」
「そうねぇ……案外、普通に使っている教室とかも視野には入れた方がいいんじゃないかしら」
次々とアイデアが皆の口から吐き出されていく。ホワイトボードの空いているスペースに走り書きで場所をメモしていくが、候補が多すぎる。天明高校は無駄に広い。調査対象の部屋が多すぎるのだ。
全てを調べようと思えば、きっと何か月もかかりそうだ。そもそも目的がデカすぎて、どこをどう調べたらいいかも見当がつかない。
最初からこの調子で、世界の秘密なんてものに辿り着けるのだろうか。
「リーダー、どうするの?」
一通り場所の候補が出尽くしたところで、夕凪が俺を呼ぶ。
「うーん……とりあえず、放課後までに各自で場所の優先順位を決めるのはどうかな?三位くらいまで順位付けをして、全員の意見を合わせて一番順位が高かった所から調査しよう」
「だな。それが一番いい」
「ひとまずはこれで解散って感じ?」
「とりあえずはね。また放課後に集まろうと思うんだけどどう?」
俺は全員と目を合わせて問う。俺は特に部活動に所属していないが、他の四人は部活動に参加している。夕凪は部活動ではないにしろ、生徒会で忙しいかもしれない。
「サボるから問題ねぇ!」
「アタシは今日は部活ない日だから」
「私も先生が体調不良でいらっしゃらないから……」
「生徒会の活動日じゃないから大丈夫よ」
「オッケー。問題ありなのは一吹だけね」
「なんでだよ!」
漫才宛ら大声でツッコミを入れてくれたが、華麗にスルーしておく。後日顧問に怒られている一吹の様子が容易に想像できた。
「それじゃ、放課後また集まろう。いきなり巻き込んでごめんな」
「いいって。こういうのワクワクするしね」
「私も久しぶりに楽しみなこと増えた……!」
あずと北原が玩具を見つけた幼子みたいに無邪気に笑う。
どうやら、高校生というものは非日常や秘密という類のものが大好物らしい。それは俺も例外ではない。現に、秘密組織みたいに結成されたチーム・コンパスのリーダーになったことで、さらなる高揚感が体を襲っている。
果たして世界の秘密とやらは、本当に存在するのか。
不確かな存在を求めて、俺たちは日常を飛び出した。