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人に会ったような気がした。
それは、小さな少年とその母親だったような気がした。
それは、やさしげな顔を向ける年老いた女性だったような気がした。
それは、はにかんだように笑う青年と手を繋だ少女だったような気がした。
それは、こちらをたしなめるように笑う男性と寄り添う女性だったような気がした。
ただ皆、道を指し示していた。
行くべき場所はあちらだと。
疑うことなく、そちらに向かって進んでいく。
かなり遠くまで進んでいると思うほど歩き続ける。
まだ距離があるように感じられるが、それでも足は止まらなかった。
あっちに行かないといけない気が背中を押すのだ。
待っている人が居るのだと。
不意に眩しさを感じて目を瞑る。
そして、レッドは目を開けた。
目を開けるとそこは自分の部屋だった。
自分の部屋のベッドに寝ていて、窓から眩しい光が差し込んでいた。
体を起こそうとして、体中の痛みに呻き声をあげてしまう。
「……レッド!? 気がついた……。よかった……」
ずっとレッドの側にいたのだろう。
少し顔色の悪いリベルテが、目を覚ましたレッドを見て大粒の涙をこぼす。
「……リベルテ」
何かを言ってやりたいが、言葉が思い浮かばない。
だから、頭を撫でるか抱きしめてやりたいとも思ったが、体が動かなくて、名前を呼ぶのが精一杯だった。
リベルテがベッドの側に寄ってレッドの手を取り、また泣き出す。
リベルテが落ち着くまで、レッドは見ているしか出来なかったが、窓から入り込んだ風が優しいものに感じられる。
この時間はとても優しいものだと、少しだけ温さを纏う風にレッドは思いを馳せていた。
「レッド。どうなったか覚えていますか?」
泣き止んだリベルテが、涙を拭いながら、レッドに問いかける。
「ソータと会った。あいつがこの騒動の主犯……だったんだと思う。あいつは、他の『神の玩具』の力を真似する力だったらしい。いつだかの煙を撒かれて……、『銃』ってのでも撃たれた」
レッドの記憶を確認することを含めた質問だったのだが、レッドの説明にリベルテは目を大きく見開いた。
あの場所でしていたことを聞いて、驚きが隠せないほどだったのだ。
「最後は力を失ったらしい。自分の煙で死んだよ……。それで俺も……。っ!? そうだ! あの煙はどうなった? どれだけ犠牲者が出た!?」
意識を失う前のことを思い出し、王都がどうなっているかと身を起こしてリベルテに聞こうとするが、体が上手く動かないことを忘れており、体を起こすことすら叶わなかった。
身じろぎ一つ、満足に出来ないことに愕然とする。
「落ち着いてください。煙ですが、私がレッドを発見した時にはありませんでしたよ? 空にでも舞い上がったのでしょうか? だとすれば、すぐさま煙の被害を受ける人は居ませんが、しばらく雨の日は出かけない方が良さそうですね。……心配も分かりますが、レッドは危ないところだったんですよ!? 以前に煙を吸っていて、おそらく、マイさんの力で治癒されたことで、いくらか耐えられるようになっていたのかもしれませんが……。本当に……」
レッドを落ち着かせるように、王都は大丈夫だと教えてくれたリベルテであったが、レッドのことを案じて、最後の方でまた目に涙を滲ませる。
「そ、そうか……。良かった。……それとすまない」
なんとか雰囲気を変えようと思いはしたが、何も思いつかず素直に謝るレッド。
ただ、どこがどう悪かったか理解は出来ていない。
しかし、心配かけてしまったからだとは理解していた。
なんとも形だけに近い謝罪に、眉をしかめるリベルテであったが、レッドがこうして目を開けて、話が出来るようになったことの方が嬉しいようで、すぐに機嫌を直してくれた。
「……今回の騒動に宰相が関わっていたそうです。信任したのは国王ですので、国王への批判の声が上がっているそうです。レッドは、……どうしますか?」
レッドがどうしたいのか。
自身の思うところはあるのだろうが、レッドの考えを尊重すると言葉を紡ぐリベルテ。
そんなリベルテに、レッドは一笑する。
「俺はただの冒険者だ。城で起きてることなんかわからないさ。……それにしても、しばらくは体が満足に動かせそうもないな。その間の稼ぎ、任せることになるのが情けないんだが、……頼っても良いか?」
「……ふふ。仕方ありませんね。私が居ないと生活できませんし」
お互いに顔を見合わせ笑い声を上げる。
「今日は、あのシチュー食いたいな」
「……珍しいですね。要望を言うなんて。でも良いですよ。作りますね」
「これからも側にいてくれ、ずっと」
「ええ、いいですよ。……って、えええぇ!?」
さらりと口にされた言葉に、つい流れで応えてしまい、うろたえるリベルテ。
そんなリベルテの姿を見て、レッドが笑い声を上げる。
リベルテはレッドがからかったのだと思い、少しむくれながら、そして逃げるように竈に向かってしまう。
レッドはリベルテの背中を見送り、ふと窓の外に目を向ける。
窓から見える王都の空は青く、そして高く広がっていた。
王都を襲った事件は、豊穣祭が終わった後の出来事であったから、遠くないうちに冬を迎えることになる。
寒さが厳しさを強めてくる中、住む家が無ければ凍死してしまう人たちが出てしまうことになる。
国と貴族と商会と、お金を持っている人たちがその資本を提供しあい、建物の復旧作業が喧騒をもって急ぎで進められていた。
先の戦争に続き、また犠牲者が多く出てしまったことで、その穴を塞ぐように冒険者への依頼が多く貼りだされている。
今、王都は被害にあった家々の建て直しで、忙しなく人が動き回っている。
失ったものへの悲しみと悔しさはあるが、オルグラント王国の王都で暮らす人たちの顔は決して暗いものばかりではなかった。
生きているのである。
また、始めていける。
また、やり直せる。
それはどんな職についていようと、変わらないことである。
大工たちが声を張り上げながら、手を動かしていく。
商会が物資の手配をし、店では品を売る声が聞こえる。
そして、その中に冒険者たちの姿が混じる。
依頼を受ければ、その報酬を得るために仕事をこなす。
王国で生きる冒険者の生活もまた、この国には必要な職であり、この国を、王都を下支えする一つの職なのである。
日常とまで細やかではないですが、冒険者の生活としての話を書き続けさせていただいています。
なので、まだまだこの先も書き続けさせていただこうと思っていますが、話としてはここで一旦の区切りになるかなと考えています。
ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。
これからも目を通していただけると嬉しく思います。




