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ちょこちょこと見直して誤字・脱字等の修正をしておりますが、まだまだあって申し訳ありません……。
誤字報告ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
人が増えれば需要も増えるもので、その需要の対応に忙しさを増した商会や生産者たちから冒険者への依頼が増えていた。
おかげで、冒険者たちはみな嬉々として、稼ぎ時だと次々と依頼票を取っていく。
自分たちが望む依頼ばかりではないが、需要があるうちにと出されてくる依頼であれば、報酬が普段よりも高いものになっている。
文句ばかり言って依頼票を眺めるだけ、なんていう愚かなことをする冒険者などいるはずがないのだ。
だが、レッドは次々と捌けていく依頼票を横目に、依頼板の前から動かずに居た。
「レッド、どうしたんですか?」
リベルテがなかなか戻ってこないレッドが気になり、依頼板の前に来ていた。
「いや、な……。依頼がこう多く貼りだされてくるのはありがたいんだが、例年あった虫の討伐って、依頼がなかったなぁと思ってな」
冬が終わり、春を迎えて暖かくなってくると、冬眠していたモンスターたちが動き出す。
その中で、春を迎えて繁殖していた虫のモンスターたちが、一斉に餌を求めて動き出すのである。
広がる農地を守るため、人が暮らす場所を守るために、虫のモンスターたちが動いてくるだろう場所を広く防衛する仕事があるはずだった。
だが、先のアクネシア近郊で、人型のモンスターとの戦いがあったっきりで、すっかりと虫のモンスター討伐は見かけなかったのだ。
「そう言われれば、そうですね。今年は繁殖しなかったのでしょうか?」
リベルテたち多くの人たちにとって、大群の虫を相手にしなくて済むなどありがたいことで、依頼がなかったことにまったく気にしてこなかった。
だが、一部の暴れたい人たちにとっては、大暴れできる依頼だけに、無いことに疑問を覚えるものだった。
その一人がレッドであった。
レッドの言葉に返事をするにはするが、そんな依頼、無ければ無いで構わないと言うのが、リベルテの態度からわかる。
レッドはそれを横目に、仕方が無いか、と思った。
例年、稼ぎのために付き合ってはくれているが、無表情で戦うリベルテの姿はレッドにとっても怖いものだったからである。
「まぁ、あの依頼があれば稼げたんでな。無かったのは残念だが……、そこだけじゃないんだ」
レッドは虫のモンスター相手に暴れたかったと言う理由だけで気にしていたわけじゃない、とリベルテを見て言う。
リベルテは幾分か胡散臭そうに見たものの、しばらくして真剣な表情になる。
「繁殖しなかった原因がある、と言うことですか?」
「何も無くて、例年、大量発生してたやつらがしなくなる、なんてあり得ないだろ? 来年以降も大量発生しないってなると、それはそれで稼ぎとしては残念だが……、それはいい。だが、今年だけだった場合、どうなる? 来年あたりに揺り戻しが来たら? 虫を大量に倒しまわる強いモンスターだとかそんな理由があったなら? 気にならないか?」
リベルテがほっそりとした顎に手を当て、思案に入る。
リベルテたちにすれば、大きな何かが起こったとしても、個人で対応出来ることなどない。
大きな問題の対応は、国が考えることだからだ。
だからと言って、何も考えなくていい、しなくていい、なんて言うものでもない。
とりわけ、何か起きた場合に、真っ先に影響を受けるのは、ただ暮らしているだけの自分たちになるからだ。
「あの人型のモンスターたちが食料としていた、と言うのはどうでしょうか? それであれば、今年が少ないことの説明になりそうですが?」
リベルテは可能性として、あの呼び出されたモンスターたちを挙げた。
人と同じように二足で立つモンスターであるが、他のモンスターより人に近い。
それがあの虫たちを食べている姿を想像してしまい、レッドは思わず吐きそうになって手で口を押さえる。
そんなレッドの反応を見て、リベルテも自分で言った事を詳細に想像してしまい、そっと顔を青ざめさせていた。
「……気持ち悪いが、無くは無いな。俺たちも食べられるものがまともに無かったら、そうしなきゃいけなくなるのかもしれないしな……」
まだレッドの顔色は悪いままであり、想像してしまった光景の衝撃は大きすぎるようであった。
「ただ、そうなりますと、来年は異常繁殖される可能性がありますね」
切り替えが早いのか、切捨てるのが早いのか、リベルテは普段の表情に戻っており、レッドが考えていた心配ごとに賛同した。
たいていの生き物がそうであるのだが、自分たちの仲間がその数を大きく減らしたり、自分たちが死の危険を覚えると、種を残そうとする。
オルグラント王国でも、先の帝国戦、アクネシア戦で亡くなった人、大きな怪我を負った人が多い。直接、オルグラント王国内に侵略されたわけではないが、王都や近くの村、町では結婚する人が多くなっていたのである。
生きているモノがそう言うものであれば、一度で大量に繁殖できる虫のモンスターなどでは凄まじいことになるだろう。
例年、入ってこないように食い止めるのが目的で殲滅しないのは、モンスター相手で危険だからと言う事もあるが、下手に逃すと翌年に大繁殖される恐れがあることと、殲滅することによって恩恵を受けている森の環境が変わってしまうことを警戒してである。
オルグラント王国が今の広さになる前、一度、領地の安全確保のために、と虫のモンスターを殲滅させようと軍を動かしたことがあるらしい。
その年はそれで虫のモンスターから被害を受けることは無く、安全な年となって良かったのだが、翌年に、数を倍増した虫の大群に襲われることとなったのである。
虫を殲滅したはずであったが、生き残りがいたらしく、それが種を増やそうと大繁殖させたらしかった。
倍増した虫を防ぎきるのは難しく、近くにあった村、農地が壊滅に近い事態に陥ったと記録に残されている。
軍を季節を跨いでなお動かし続け、なんとか森へ追い散らすことができたそうなのだが、長く動かすことになった戦費、大きな被害を受けた畑の補償、建て直しに、王国が頭を抱えただろうことは想像に難くないのだ。
国にとって残しておきたくない失態の記録であるが、戒めを含めてか、記録に残していることを考えれば、再度、虫の大量繁殖されたらどれだけの被害を受けることになるのかわかるものである。
「やっぱり……そう考えるよなぁ。後でギルマスに言うだけ言っておくか」
一冒険者の言葉を国が取り上げることは無いだろうが、国が要請して就いてもらったギルマスの言葉であれば、聞いてくれるかもしれない。
そんな考えから出た言葉である。
リベルテはその言葉に頷きながらも、失ったものの大きさが痛いと感じていた。
リベルテたちは城に伝手を持っていたのである。
しかし、人なのだから、その伝手が永久に残るものではない。
相手が居なくなってしまったら、それで伝手は途切れて無くなってしまうものなのだ。
「さてと……、それじゃあ、対応を決めたところで。仕事を選ぶか」
改めて依頼板を見るレッドであったが、多く貼り出されていたはずの依頼票は、すっかりとその数を減っており、レッドたちがやりやすい依頼や稼ぎが良かった依頼は見当たらなくなっていた。
「……あ~、すまん。ちょっと余計なことを考えすぎてたな」
「いえ……」
レッドが申し訳無さそうに謝り、リベルテも仕方が無いことだと首を横に振る。
誰かが考えておかなければいけないことで、誰かが考えるだろうと放置して、何も考えなくて良い話ではなかったからである。
来年あたりで起きるかもしれない事態に対して、準備をすると言うのは大事なことだ。
心構えを必要とするものであれば、早くから時間が取れる方が誰だって望ましいのだ。
「そんじゃあ、これにしとくか」
レッドが依頼票を一つ取り、受付に持っていく。
リベルテもその後を追ってついて行くのだが、受付が終わった後に受けた依頼内容を見て、レッドの頭を反射的に殴ってしまった。
「何するんだよっ!」
殴られたレッドは当然、リベルテの抗議する。
だが、リベルテの表情はより険しかった。
「馬鹿ですか! なんて依頼を取ってるんですか!! ゲンチアナとアルニカの採取なんて!」
リベルテはレッドが受けた依頼内容について、レッドを叱責する。
「普通の採取だろ? どっちも薬に使えるものだからな。薬師ギルドも数が必要なんだろ」
何もおかしいことは無い、普通の採取依頼だとレッドは口にするが、リベルテは額に手を当てて、ため息をつく。
「……なんだよ?」
「……ゲンチアナもアルニカも、今ではそう簡単に手に入れにくいものなんですよ」
「……なんでだ? どちらもよくある薬草だろ」
レッドの言葉にリベルテは頭が痛むのか抑えるように動く。
「よくある薬草ではありますが、ここ最近の需要に、かなり乱獲されているそうです。薬師ギルドも簡単に手に入らないことが分かっているから、これだけ高額な依頼になってるんですよ……」
リベルテが知らなかったのかと睨むような目で見れば、レッドの顔色が少しずつ悪くなっていく。
「……どこで取れそうか、情報はないのか?」
レッドが恐る恐る、リベルテに頼るように聞けば、またリベルテがため息を漏らす。
「可能性で見れば、シュルバーンの近くの山でしょうか? アルニカは少し高い場所に咲きますから。ゲンチアナも似たようなものですね」
リベルテの言葉に表情を明るくするレッド。
「なら、大丈夫そうだな! さすがリベルテ、頼りになるな!」
何度目になるかわからないため息を漏らしてしまうリベルテであったが、最後のため息は先ほどまでと少し違う。
どことなく仕方が無いな、やっぱり自分がついていないとな、という思いが含まれる優しいものであったのだ。
「はいはい。それでは早く行きましょう。またしばらく旅路になるんですから。あ~あ、また長く家を空けなきゃなんですね」
ついついと嫌味っぽくなってしまうのは仕方がいく。
分が悪いレッドは、機嫌を戻してもらおうと謝り続けるしかなかった。
シュルバーンまでは3日程であるが、馬を借りれば2日で着くことができる。
「ハッハー! こうして馬に乗って風を切るのもいいもんだよなっ!」
遠出というほどではないが、馬を借りての道のりは久々で、調子に乗って駆け過ぎてしまうレッド。
「あまり急かさないでください。ペースを考えてくださいよっ!」
リベルテの言葉を尻目に走らせるレッドであったが、道のりを半分超えたところで立ち止まっていた。
久々であるのに調子に乗ったことで、レッドは尻を痛めていたのである。
リベルテはそんなレッドは放っておき、馬を休息させる。
勢いよく走り続けた馬は疲れており、半日は休養が必要となってしまっていたのだ。
順当に行けば、二日目の陽が沈み始める前頃には付ける予定であったのだが、完全に陽が暮れてから着くことになってしまった。
その夜の宿では、リベルテがいつも以上に酒を飲み始め、レッドはそれを止めることが出来ず、小さくなっていた。
それから山に入って探すこと2日。
山に入ってすぐに見つかるなどと甘いことは無く、久々の山登りに息が上がってきてしまう。
「……この暑さもあって、結構キツイな」
レッドが首もとの汗を拭いながら、思わずこぼしてしまう。
「まだ幾分か涼しい時間から、動いているんですけどね。だいたいレッドが、この依頼を受けなければ……」
リベルテから返ってくる愚痴の方が多くなり、レッドは早く見つけて帰りたい思いでいっぱいになる。
「あ、あれか!?」
多年草と言うことがあり、目当てのゲンチアナが数本まとまって咲いていた。
「ん~、少し離れたところにあるのは、アルニカでしょうか? はぁ……。見つかってよかった」
ゲンチアナもアルニカも、どちらも鮮やかな黄色い花を咲かせており、二人は見つかったことに安堵の息を漏らす。
特にリベルテの不満を受け続けていたレッドの、見つかったことへの安堵感は大きかった。
さっそくと必要数を採ったレッドは、横目で花を見て微笑んでいるリベルテに気づく。
それにもまた、大きくホッとしてしまうレッドであった。
行きと同じ道を、今度は調子に乗らないように気をつけつつ戻るレッドと、その後をついていいくリベルテ。
需要に対して物が少なくなっていたことから、報酬は採取の依頼にしてはかなり高額になっていた。
ギルドに納品して報酬を貰った二人は、そのお金でいつもの酒場でお酒を楽しむ。
懐が温かいと、気分も大らかになるものだ。
レッドとリベルテはいつもより少し多めに酒を頼み、良い気分で料理を楽しんでいた。
しかし、家に戻ってベッドに横になった時にレッドは気づいてしまった。
折角のシュルバーンであったのに、依頼の品を探すことに考えすぎて、そんなことを思い出す余裕も無かったのだ。
「……シュルバーンの温泉、入ってくれば良かった……」
ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。




