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それなりに楽しいこともある日々を過ごしていたが、やはり世の中、楽しいことばかりはさせてくれない。
王都で暮らす人たちを暗くさせる話が立て続きに起きてしまったのだ。
一つは日常の中で耳にしなくも無い話であり、もう一つは日常を脅かされる不安と恐怖、そして他国への憎しみを募らせてしまう話である。
日常の中で耳にしなくも無い話は、この王都で子どもが殺されたと言う話である。
少し前に孤児院に行き、子どもたちと触れ合ってきたばかりのレッドたちには強く衝撃を受ける話であった。
子どもが殺されたとか、亡くなったと言う話は、このオルグラント王国でも事欠かない。
王都ならばまだ、生活にいくらかの余裕がある家は多く、国からの目が届きやすいと言うことがあるが、地方の村や町では生活に余裕が無く、子どもを殺してしまうと言うのがあるのである。
その他にも、片親を亡くしてしまった家庭が再婚をするが、その相手が子どもと接する距離に困って上手く接することが出来ず、子どもは子どもで自身の親を覚えているため、親が再婚した相手を親と思えなく、距離を取ってしまうのだ。
これが続いて決定的になれば、あまりにも自分に懐かない子どもが再婚した相手の家族の枠組みに入らなくなり、情を持てず、代わりに憎しみを持ってしまい、殺してしまったと言う話もある。
酷いのでは、再婚した相手との生活に子どもが邪魔になったとして、本当の親が殺してしまうと言う話もあったりするのだ。
そして、今回の話で言えば、そのいずれもが起きてしまった話となる。
先の戦争で亡くなってしまった者は多い。
お互いに支えあえる人と再婚でも出来て、それでまた生活していけるようになるのが一番であるが、再婚相手がそう簡単に見つかるわけもない。
併せて、他に頼れる身内などが居ない人も大勢居たのだ。
そして、豊穣祭が終わり、これから冬に近づいていく中で、やっと今の生活を振り返り、そんな悲しい行動を起こしてしまった人たちが出てしまったのである。
ある人は、このままでは冬を越せなく、孤児院にやるにもどこも一杯だと、子どもの先を悲観して。
ある人は、未亡人となった人と結婚したが、子どもは前の親を慕って自分に寄らず、避けられることに苛立って。
ある人は、亡くなった相手と不和になっていたため、新しい相手との生活に浸り、過去を切り離したくて。
先の戦争の傷跡は、賑やかに過ぎた豊穣祭をもってしても、癒すことなど出来なかったのだ。
一斉に起こった被害に、子を持つ親たちやその近隣に住んでいる人たちが教会に集まっていた。
レッドたちもここに参加していた。
行かずにはいられなかったのである。
しめやかに亡くなった子どもたちが埋葬されていく。
リベルテは、接点などまったく無い子どもたちであるにも関わらず、とても悲しそうに見送る。
レッドとてリベルテと同じ気持ちを持っているのだが、悲しむ以外の感情の方が強く渦巻いており、周り人たちと同じようには悲しめないでいた。
「皆さんのお心により、この亡くなられた方々も安らかに眠れることでしょう」
司祭が白さが際立つ服の袖をはためかせながら、如何にもらしいことを口にして死者を送る言葉とする。
レッドはこの司祭が、いや、教会自体が如何にも信頼出来ないのだ。
この世界で教会と言えば、キスト聖国の教えを信仰する者達のものを指す。
癒しの魔法を使える聖国の人間であるため、各国は他の国ほど入国を拒否し切れないでいる。
人々の生活の中で近くにあって、薬師の薬よりも早く確実に、そして大きな怪我すらもたちどころに治せるとあれば、跳ね除けるなんて出来るはずがない。
いざと言う時には、自分の治療をと願うものである。
キスト聖国の信者になれば、治療費も安く治療を請け負ってくれると言うことで、お金が無い人たちや早く治してもらいたい人たちを始め、多くの人がキスト教の信者になろうとする。
自国の人々が他国の信者になると言うのは、受け入れられるものでもないのだが、王家や貴族たちとしても、自分たちの万が一を考えると治癒できる可能性を排除するわけにはいかなくないのだ。
これがキスト聖国の司祭たちがのさばる一因となっている。
今の司祭を見れば分かるように、司祭たちは裕福な生活を送っている。
治療に多額の費用を請求し、よりお金を持っているだろう王家や貴族、商会の人間であれば、さらに跳ね上げて請求しているらしい。
それでも、怪我や病が治り、助かることを思えば、支払う人がほとんどとなる。
それが司祭たちの綺麗な服になり、必要とは思えない煌びやかな装飾品になり、司祭たちの腹の出た身体になっているのである。
同じく、人のために働いている孤児院の管理人とは、比べるまでもない羽振りと言える。
以前に王都で魔の薬を広げた男を捕まえた際に、バラまかれた毒によって警ら隊の多くに被害者が出ていた。
魔の薬について薬師にはまったく不明であり、その特効薬を作り出すことも出来ず、そのため、警ら隊の人たちの治癒は絶望的と思われていた。
レッドはたまたま出会っていた『神の玩具』であるマイが居たために、早くに復帰することが出来たが、他の人たちはそうも行かない。
キスト聖国の司祭たちに治療を依頼するしかなかったのだ。
国は治安のために働いた者たちであり、国に仕える者達に頼りになることを示さなくてはいけないこともあって、ちょうど聖国から向かってきた司祭たちの王都滞在を認めるしかなかったのである。
実に、聖国の司祭たちは王国にとって嫌な時機にオルグラント王国を訪れてきたとも言える。
葬式が終わり、人々がそれぞれの場所へと去っていく。
レッドたちもその場を離れて冒険者ギルドに向かうが、ギルドの中も暗く、そして憎しみや怒りが立ち込めていた。
例の異形のモンスターであるが、あれが性質が悪いことが判明したのだ。
腕に覚えのある者達が、アクネシア方面に作られている砦周辺で狩りをしていたのだが、その人たちに比べれば幾分か劣ってしまう者たちも狩りに行ってしまったのである。
これについては、ギルドも責を負うのだが、そのチームが悪かった。
そのチームは4人でチームを組んで向かっていたらしい。
もともと異形のモンスターの討伐に向かう気でいた2人は腕が確かな者だったのだが、2人では心許ないと判断して2名ほど募集し、そこに2名の新人が加わってしまったのだ。
ギルドとしては、腕が確かな者が2名いることと、加わった2名もちょっとした討伐を熟した実績を持っていたことから認めたのである。
しかし、その情報は正しくもあり、間違ってもいた。
異形のモンスターは二足で立つ、いわゆる人に近いモンスターである。
腕が確かだとした2名は、ボアやディアなどを多く討伐してきた者達だったのだ。
ボアなどのモンスターはずいぶんと手馴れており、苦労せずに討伐してきたためか、モンスターを舐めていたのだろうと、今となっては思える。
2名のベテランに連れ添われ、新人2名を含めた4人は意気揚々と向かったのだが、相手は知恵を持ち、先に向かっていた冒険者たちと戦い、生き残ってた個体が居たのだ。
人がするように草や葉で身を隠し、油断した所に武器を持って襲い掛かる。
ベテランのうちの1名が不意を突かれてあっさりと倒され、そして執拗に止めを刺されていたらしい。
確実に相手を殺すと言う殺意が表れていた。
もう1名のベテランは、その異様さに怯え、一人逃げ出してしまったのである。
これで残ったのは新人2人。そして男女だった。
当然、さきほどの2人に比べれば腕が立つわけではなく、あっさりとやられてしまう。
だが、ここで女性の方はもっと地獄であった。
先にやられたベテランと新人の男性の遺体を目の前で食べる場面を見せられ、そして自身は襲われたのだ。
砦に居た冒険者のチームが異様な形相で逃げ去っていく冒険者を目撃し、逃げ出してきたであろう方角に向かったことで、見つかった異形のモンスターたちは殲滅された。
辛うじて女性冒険者は息があったが、生きているとは言えない状況で、もう冒険者としてさえ生きられないだろうと言われている。
ギルドが今、責任を持ってその女性の身を預かり、世話をしている。
レッドとリベルテはギルマスに厳重な説明を受けた後、その女性の様子を見させてもらったが、五体は無事であるが、その目はどこも見ていなく、声をかけても反応が無かった。
ただ、あのモンスターたちや目の前で食われた冒険者に関連しそうな言葉には反応するが、それは悲鳴であり、拒絶でああった。
その女性をより壊してしまう反応のため、反応を確認するためでもそんな言葉は口に出せない。
女性を見させてもらった後、ギルマスからもう少し話を聞いたが、レッドは聞かなければよかったと後悔し、リベルテがかつて無いほど殺意を溢れさせていた。
「これはまずいな……」
リベルテの様相に漏らしたレッドの言葉は、異形のモンスターに対してではない。
あの異形のモンスターへの怒りはもちろんであるが、そんなモンスターを呼び出したとされる者と、それを使役しているアクネシアにも向かう。
モンスターとアクネシアに対しては、問題は無い。
元々、人が生活していく上でモンスターとは戦うことがあるし、アクネシアは長いの間、そして先の戦争も含めて戦い続けている国である。
だが、モンスターを呼び出した者に関しては、問題しかない。
もちろん、あのようなモンスターを呼び出したのだから、恨まれて何をされても仕方が無いものだ。
しかし、『神の玩具』と思われる相手である。
自身の身に危険が迫れば、あのモンスター以上にさらに凶悪な何かが呼び出されるのではないか。
レッドはそれを危惧しているのだ。
「最早、帝国ではなく、アクネシアを少しでも早くなんとかしないといけませんね」
オルグラント王国としては、グーリンデ王国と同盟が成った今、接する敵はアクネシア王国だけとなっている。
帝国とはまたいずれ戦うことになるのは間違いないが、先の戦争で双方とも大きな被害を受けているし、同盟を結んだグーリンデと、異形のモンスターをけしかけたアクネシアがあるのだ。
オルグラント王国を直接相手に動いてくるとは考えられなかった。
「だが、先の戦争の被害はまだ大きい。それに関する葬式。さっき立ち会ってきたばかりだろ」
「……それでも、このままではもっと被害が増えてしまいます。あんなものたちをこの世界にのさばらせてはいけません!」
同じ女性として思うところがあったのもあろうが、レッドには国全体の雰囲気でもあるように感じられた。
周りが熱くなりすぎているからこそ、一人だけ冷水を浴びせられたかのように、レッドは落ち着きを取り戻している。
元々相容れない敵国であるが、それでも誰かに仕向けられたかのように、アクネシアへ敵意が高められていくように感じられてた。
気にしすぎとも思えるが、どうしても頭から離れなくなっていた。
「怖いものだな」
自身の考えをまとめるために口にしたのだが、本当に怖ろしいものの影を感じてしまい、腕をさすってしまう。
「どうかしました?」
「いや、寒くなってきたな、ってな」
レッドが見上げた方角に見える山は、白みを帯びていた。
確かに、冬が近づいてきているのが、見えていた。
ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。




