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快楽魔女  作者: 紫ダンボール
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産まれる

まずは、閲覧感謝です。

訳あってvitaから投稿してます。


 

 天から降ってきたナニか。それは唐突に破壊を行い、結果運のない畜生が一匹焼け焦げる事となった。


 天災当時。


 この、得たいの知れないナニかが起こした破壊は小規模なものだったが、騒音を聞きつけ狩りから戻ってきたゴブリン共にとってはあまりに酷な事件だった。


 破壊の中心に横たわる、一匹のゴブリンの亡骸。 


 群で唯一のメスゴブリンだ。


 皆を愛し、愛されていた存在が訳も分からぬ内に死んでしまった。彼らを襲う衝撃たるや、どれほどのものか。だが、悲しみに暮れるひまなど、畜生なんぞにありはしない。


 ゴブリン共はメスの遺体を丁重に葬り、そそくさとその場を後にした。メスのいない群など全滅以外の未来がない。どこか、大きな群に加えてもらわなければならないのだ。生き残るのは難しい。ゴブリンは繁殖力だけが取り柄の最底辺最弱の魔物だし、雄だけの一団なぞ他の群からすれば厄介でしかない。ゴブリン社会に置いて、野郎の集団ほど無価値なものはないのだ


 結末は野垂れ死にか、強い魔物の餌か。たぶん、どちらか。彼らの行く末は雑魚宜しく、惨めなものだろう。


 そんな自分達を待ち受ける過酷な運命なんか知らぬ存ぜぬと、ゴブリン共は歩きだした。


 彼らは何も考えていない。今日の飯どうしよう。やべえ女いねえヤりてぇ。ゲッゲッゲヘヘヘッッ。こんな感じだ。


 それがゴブリン。これが彼ら。苦しいことなぞ考えない。ヤりたいを、ヤりたい時にやる。


 土の中のメスゴブリンも、同じだった。


 そして、今。


 魔王を勇者が討ってから、どれだけの季節が巡ったか。


 かつて、ド級の災難に見舞われたゴブリンの洞穴住居は、既に朽ち果てていた。


 ナニかの破壊によって、森には少し開けた場所が造られ、そのど真ん中に不幸なゴブリンの亡骸が埋められている。


 この日。森は、静かだった。


 森全体が、息を止めているようだ。


 鳥は囀ずらず、虫は鳴かず、獣と魔物は声を発することなくただじっとしている。


 聞こえるのは、葉の擦れる音だけ。


 異様だった。


 森が、死んでいる。そんな、とち狂った印象を持たれても仕方がないくらい、静かだった。


 どうしてこんなに静かなのか?


 良くは分からない。が、彼ら森の住民は一つだけ分かっている。感じている。


 ナニかが、産まれる。


 ナニかによって、ナニかが。


 未知が産まれるのだ。


 それを刺激しないよう、静かに見守っているのだ。


 やがて、変化が起こる。


 森の沈黙が破られたのは、太陽が真上に差し掛かったところだ。


 その小さな音源は、土を掻き分ける音。かつてナニかが落下し破壊した、窪みの中央。雑草が生い茂る緑の地盤から、それは這い出てきた。


 手。魔法や魔物が存在する世界だとしても、普通ではないと断言できる異形のモノ。


 指はしっかり五本。が、関節がなければ爪もない。色は生気を感じさせない真っ白で、滑らかな皮膚には皺が一切なかった。


 白い手はさ迷うように空気を握り、地面に掌を当てるとぐっと力を込める。


 ずるずると、手の続きが現れた。肘。肩。何れも線が細く、皺がない。同じように出てきたもう片方の腕が土をほじくり返し、ようやくといった感じで頭が地面から露出した。


 手と同様、白の顔。


 寒気すら感じる白。眼球に相当するものは無く、代わりにぽっかりと黒のまん丸穴が二つ空いている。半開きの口からは鋸状の牙が生え、舌はどギツイ血の色だ。


 上半身、下半身と大地から抜け出す。やや控え目な膨らみを持つ、乳房と思われる部位には突起がない。下半身も似たようなもので、股の間には生殖器が見受けられなかった。


 犬のように頭を振る。長い黒髪が揺れる。光沢など一切ない、深い黒。


 白の身体。つるつるの皮膚。黒の目と髪。


 完全な、異形だ。


 「うが、げええ」


 いきなり咳き込む。口内に土が詰まっていた。何度か土を吐き出し、腕で口元を拭う。ふらふらと一歩、さらに一歩と足を動かし、止まった。はっとして空を見る。


 「たいよー」


 太陽を見上げる。どこか怯えた声音で呟くが、青空に浮かぶ光源は『いつもどおり』一つ。


 「あ~…」


 安心し、吐息。両の膝が地に落ちた。


 瞬間、吠えた。


 「ウギャアアアアアアアアアアアアア!!」


 空気の爆発。


 顔の面積からは考え付かないほどに大きく開かれた口から、絶叫がぶちまけられた。


 その叫びは、森を、世界を震撼させた。


 世界中、至るところで鳥は落ち、魚は水面に浮かび、魔物共は全身を緊張させる。


 絶叫は衝撃波を撒き散らし、森の木々を薙ぎ倒した。荒れ狂う砂ぼこりの中、しかし当の本人はというと、


 「…うわあああああぁぁん」

 

 世界の騒動など知ったこっちゃなく、ただただ感情を抑えきれず泣いているだけだった。


 


 


 


 

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