影勇者はギルドに入る
「承認しましたー。それではこれからよろしくね。シュウヤ君とエリナちゃんとレイティアちゃん。このギルドのことはこれからあそこで集団リンチを受けているギルド長に話してもらってね。」
と、金髪碧眼の受け付け、名前はフウ・ロードらしい。ウェイトレスの服装をしているが聞いてみるとここは酒場としても運営しているらしい。が、いつも若いのが戦りあっているから酒を飲む客は中々来ないらしい。
「とりあえず、あのリンチをしている方を退けるか。」
ギルド長の回りにいる五人へ向けての魔法陣を描く。
「《エア・シュート》」
空気砲と例えられる魔法を発動した。空気砲と違うところは威力だ。もちろん加減をしているため致死率は低い。加減しなかったらどうなるかは言うまでもない。口からモツをぶちまけるだろう。だがそうなるのは俺の魔力がヤバイからだ。
「「「うわっ」」」
三人が吹っ飛んだ。二人だけ耐えたのだ。残った一人は髪を方まで伸ばした黒髪の男、もう一人は坊主、黒髪の方は気づいた途端、右手を前に出すだけで止めた。いや、消した。そして坊主はシンプルに耐えたのだ。加減したとはいえ人間の域を越えているだろう。
「危ないなぁ、当たったらどうするんだよ。」
と、黒髪が言った。だが俺は逆に問いたい。あんたに魔法が当たるのかどうかを。
「中々の威力、天晴れだ。ワハハハハハハ!!」
坊主、あんたにはちゃんと当たっていたのかを聞きたい。もし当たっていたのなら化物と言わせてもらいたい。
「ちょっとそこのギルドマスターに聞きたいことがあるから、退いてくれない?」
俺の発言を聞いた二人は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「おうおうだったら力ずくで……」
『力ずく』と聞いてすぐに動いた。一瞬で坊主の前に移動し、本で読んだ通りに魔力を手に集めて思いっきり押す。すると坊主が吹っ飛んだ。
黒髪は何が起きたのかわからないと言いたげな顔をしている。だからといって容赦はしない。坊主ほど耐久力は無さそうだからそっと押す。が、黒髪は吹っ飛んだ。
「「「「…………………」」」」
このギルドにいた人全員が静まり返っている。ギルドマスターは白目を向いて気絶しているから静かなのだが
「あっちは使わなかったんだ?」
エリナが近寄って言ってくる。あっちというのは暗殺術だろう。そんなもの使うはずがない。折角の実践のチャンスだ。無にしたくない。
「当り前だろう。切り札は見せない主義だ。颯馬の時は颯馬が知っているから使った。っと、それよりも、このおっさん、もといギルドマスターを起こせ。」
「仕方ないなー。うひひひ、どうやって起こそうかなー?」
「普通に水でもぶっかけろ。」
「ぶっかけ…エッチだなあ。」
「うるさい。さっさとしろ。」
「はぁーい。《アクア・スプレッド》」
エリナの描いた魔法陣が発動する。激流がギルドマスターの顔にヒットし、ギルドマスターは起きたようだが息ができないらしく、暴れている。
「エリナ、早く止めてやってくれ。このままじゃあまた気絶、もしかしたら永遠の眠りにつくかもしれない。」
「えーと、それはヤバいかな………」
エリナが気づき、魔法を解除し、水が消えた。
「ごほっごほっごほっ、こ、殺す気か………」
「殺す気だったら今頃首が体から切り離されているよ。シュウヤにね」
エリナがこちらを横目で見ている反応を伺っているのだろう。だが無論無視。
「ギルドマスター、このギルドについての説明をしてもらいましょうか?」
「フウに聞いておらんのか。では説明しようかの。依頼はあの掲示板にあるのを適当にフウに渡せば受けれる。あ、掲示板は一階と二階にあるがまだ二階のは受けてはならん。ランクS以上が二階の依頼を受けていいことになっておる。そういえば主、名を聞いておらんかったの。名はなんというのじゃ?」
「シュウヤ・レイ・ムツラだ。こっちが契約精霊のレイティアだ。」
レイティアに流すと頷いただけで終わった。妙に恥ずかしがり屋なのだこいつは。
「私はエリナ・エル・ムツラでーす」
「…………………ふざけるな」
「ごめんごめん。エリナ・エル・オルスティアです。以後よろしく」
と、エリナが名前を言い終えるとギルドマスターがしゃべりだした
「ワシはクラウド・ヴァイス・ホルトイドじゃ。シュウヤにエリナ。まだランクが決まってないから試験をしようかの。奥についてくるといい。」
ギルドマスターの契約精霊はヴァイスという名みたいだ。
「シュウヤ、耳貸して」
エリナが背中をつんつんして言ってきた。それに仕方なく耳を近づけてやった。
「このクラウド・ヴァイス・ホルトイドって人、この国の今の魔術術式のほとんどを編み出した天才魔術研究者だよ。術師としてもかなりの実力で世界で最も強い十人の中にいる。国から公爵の位をもらえるのを蹴ったすごい人だよ」
エリナの言葉が聞こえているのかギルドマスターの後ろ姿が少し照れくさそうにしていた。
「でも、今の年齢って三十ちょいぐらいだった気がするけど、すごい老けてる。」
もし、今エリナが言った年齢が本当にそうなのであればおかしすぎる。見た目は五十過ぎくらいなのだ。それが三十ちょいだと本当におかしい。
「それはヴァイスとの契約のせいじゃな。ヴァイスが本気を出すためにワシの寿命を与えたのじゃ。ワシが契約しているのは精霊ではなく悪魔だからのう。まあ神と契約するよりはましだがの。」
「そりゃそうだな。というか神がいるのかどうかが怪しいしな。って悪魔? 魔族じゃねえか。何やってんだよ」
「正確には魔族を追われた魔族じゃがの。っとついた」
と、案内されてついた場所は闘技場だ。
「ここで何をやるんだ?」
聞いてみるとギルドマスターはよくぞ聞いてくれたとでも言いたげな顔になり…
「よくぞ聞いてくれた」
と言った。ああ分かってたともそう言うってことはな
「ここでのう。ちとワシと勝負してもらおう。王国の宮廷魔導師が今どのくらい強いのか見たいしの。まずはエリナからワシと勝負じゃ」
ギルドマスターの宮廷魔導師という言葉にエリナが眉を潜め、承諾した。
「頑張れ。ヴァイスという契約しているやつには気を付けろ。魔族を追われて生きてんだからクソ強いぞ。」
と一応言ってやったら
「心配してくれるの? 嬉しいなぁ。でも、頑張っても負けると思うよ。この人は本当に強いから」
と返してきた。心配などしてないんだがな。と思ったところで勝負が始まった。
二人とも、契約している精霊やら悪魔やらを召喚した。両方のを見て俺は驚いた。まずエリナの方の精霊? はエルドラゴという名のドラゴンだ。めちゃくちゃでかい。だがそれよりも驚いたのはギルドマスターの方だ。
ギルドマスターの悪魔は少女だった。今は呑気に欠伸をしている。
「ふぁあぁ。久し振りの呼び出しねクラウド。状況は最近よくある勝負でいいかな? というか何あのドラゴン、あの子のドラゴン? ということはシグマティス竜騎士国の人かな」
などといって緊張感が全くない。本当に悪魔なのだろうか。が、その疑問はすぐに解決した。
「ドラゴン相手なら本気出そうかな」
と言って魔力が放出された。あぁ、こいつは正真正銘の悪魔だ。そう思えるほど禍々しいよ。
「っ…」
エリナも驚いている。というか蹴落とされている。
「二人とも精霊魔装しないのか?」
「ごめん…精霊魔装出来ないんだ。練習してるけど全くダメなんだ」
と、エリナが申し訳なさそうな顔で返してくる。
「シュウヤ、悪魔を装備するには対価を払わなければならん。このヴァイスには寿命を渡さねばならない。さすがに渡したくないしの。いや、魔装をせんでも勝てるし大丈夫じゃ」
………舐めてやがるな。
「エリナ、遠慮はいらねえ。ぶっ潰せ。」
その言葉にエリナは苦笑した。ま、なぜ苦笑なのかは分かる。自分にはとても勝てないと思ったのだろう。
「さて始めようか」
ギルドマスターはどこからか杖を出した。今のも魔法だろうか。
そうして戦いが始まった
終わるのはすぐだった。ヴァイスとかいう悪魔にエルドラゴとかいうドラゴンが開始直後に蹴り飛ばされ、消えた。エリナ自身もクラウドの魔法を良い感じに相殺していたが結局相殺しきれなくなり、やられた。
「ギルドマスターはチートだな。いや、ヴァイスとかいう悪魔の方がチートだな。ま、次は俺だ。レイティア、ヴァイスを押さえれるか?」
と、先程から黙って見ていたレイティアに聞いた。
「魔力を全力で使って良いなら楽勝よ。」
「上出来だ。減るものじゃねえからガンガン使え」
「ということは魔装はなし?」
「当たり前だ。この機会にギルドマスターの魔法を覚える。作戦をまとめると、ヴァイスをレイティアが押さえる。その間に俺はギルドマスターと魔法を撃ち合う。いいな?」
「了解。シュウヤ、キツくなったら言ってね。魔力を取る良減らすから」
「は、要らぬ心配だ。ケケ、魔力を吹き出す方法もヴァイスのお陰でわかったし、ギルドマスター、あんたは俺たちに負ける。」
「やってみるといい。じゃなくて、やってみるといいの。」
やはりギルドマスターは元が若いはずだから喋り方があやふやだ。
「ふん、生意気な人間ね。ボコボコにしてあげる」
生意気なのはお前だチビと言い返したい。だがそうすると間違えなく俺が標的にされる。だから言わない。
「いくぞ」
言うと同時に魔法陣を展開させ、俺とギルドマスターの勝負が始まった