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ことなる世界のあるきかた  作者: 幼女狐
第1章 異世界トコトコ
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第1話 はじめまして! 異世界トコトコ

 空は、どこまでも青く澄んでいました。


 ふわふわと浮かぶ白い雲。


 花をなでる、やわらかな風。


 そして、地面いっぱいに広がる、色とりどりの花畑。


 赤、青、黄色。


 まるで誰かが絵の具をこぼしたように、たくさんの花が風に合わせてゆらゆらと揺れています。


 そんな花畑の真ん中に。


 ぽんっ。


 軽快な音とともに、三人の旅人が現れました。


 桜色の髪を揺らして辺りを見回したのは、女の子のようにかわいらしい少年、ヒナ。


 少しつり上がった目元も、にっこり笑えば、とても優しい印象になります。


 その隣には、双子の小さな女の子。


 黒い髪に白い服をまとった幼い少女のリリ。


 白い髪に黒い服をまとった幼い少女のルル。


 ルルは目をきらきらと輝かせて、花畑を見渡しています。


 右を見て、左を見て、また右を見て。


 嬉しくて仕方がないのでしょう。小さな体をぴょんぴょんと弾ませています。


 一方、リリは興味がなさそうな顔で周りを見渡していました。


「素晴らしいです!!!!! 見渡す限りのお花畑です!!!!! しかも、見たことのない植物がたくさんあります!!!!!」


 嘘です。とても大きな声で喜んでいました。


 けれど、その顔はまったくの無表情。


 どうやら、表情だけはお休み中のようです。


 声だけを聞けば大はしゃぎしているのに、顔だけを見れば何を考えているのかわかりません。


 そんなリリとは正反対に、ルルの顔はころころと表情を変えています。


 にこにこ、きらきら。


 嬉しい気持ちが、小さな体からあふれ出しているようです。


 両手を大きく広げ、くるりと回ってみせます。


 とても楽しそうです。でも喋りません。


「ふたりとも楽しそうだね」


「はい!!!!! とても楽しいです!!!!!」


 リリは大きな声で、ルルは全身を使って楽しさを表現しています。


 こうして、三人の新しい異世界での観光が始まったのでした。


---


 「さて、どこに行こうか」


 ヒナが辺りを見回すと、花畑の向こうに細い道が続いていました。


 道はゆるやかな丘を越え、その先にある森へと伸びています。


「まずはあの道を歩いてみよう」


 ヒナの提案に、ルルはこくこくとうなずきました。


「賛成です!!! さあ、新しい発見がリリたちを待っています!!!」


 リリの隣には、いつの間にか一冊の本と一本のペンが浮かんでいました。


 本はひとりでに開き、ペンはさらさらと文字を書き始めます。


 リリの観察記録です。


 三人は花畑の中を歩き始めました。


 すると。


 もぞもぞ。


 足元の花が、小さく揺れました。


「……ん?」


 ヒナが足を止めます。


 花の陰から、何かが顔を出していました。


 それは、両手に収まりそうなほど小さな、ふわふわの生き物。


 丸い体に、ちょこんとついた短い足。


 そして、頭の上には小さな花のつぼみが一つ。


「かわいい……」


 ヒナがしゃがみ込むと、その生き物は不思議そうに首をかしげました。


 ルルも隣にしゃがみ、じっと見つめます。


 生き物は、二人を見上げました。


 そして。


 ぽんっ。


 頭の上のつぼみが、花開きました。


「あっ、お花が咲いた」


 ヒナが目を丸くします。


 ルルもびっくり。


 ぱちぱちと瞬きをしたあと、嬉しそうに両手を合わせました。


「咲きました!!!! 今、目の前で花が咲きましたよ!!!!」


 リリの声が花畑に響き渡ります。


「これは興味深いです!!!! 外部からの刺激に反応して開花するのでしょうか!!!!」


 リリは浮かんでいた本とペンをひょいとつかむと、ものすごい勢いで文字を書き始めました。


「どうだろうね。たまたまだったりして」


「その可能性もあります!!! これは継続して観察する必要がありますね!!!」


 リリが一歩近づきました。


 すると、小さな生き物はびくりと体を震わせます。


「もっと近くで観察させてください!!!!!」


 ぴょんっ。


 生き物は飛び跳ねると、花の間へ逃げ込んでしまいました。


「あ……」


 ヒナが小さく声を漏らします。


 ルルは逃げていった方向を見つめ、それからリリの袖をちょんちょんと引っ張りました。


 リリが振り向くと、ルルは口元に指を当てます。


 しーっ。


「……声が大きすぎたのでしょうか!!!」


「たぶんね」


 ヒナはくすりと笑いました。


 花畑の奥では、小さな花が一つ、ひょこりと揺れていました。


---


 花畑を抜けると、道の脇に小さな石がいくつも転がっていました。


 白い石。


 灰色の石。


 少し青みがかった石。


 どれも丸くて、ころころとした形をしています。


「この辺りは、丸い石が多いんだね」


 ヒナがそう言った、そのときです。


 ころん。


 一つの石が動きました。


「……あれ?」


 ころころ。


 石はゆっくりと道を転がっていきます。


 坂道ではありません。


 風が吹いたわけでもありません。


 それなのに、石は勝手に動いていました。


 ルルが目を輝かせます。


 石を追いかけ、しゃがみ込んで覗き込みました。


 すると。


 にょきっ。


 石の下から、小さな足が四本生えてきました。


「……!」


 ルルは驚いて、ぴょんと体を跳ねさせました。


 石には、小さな目もついています。


 どうやら、石ではなく生き物だったようです。


「今度は歩く石だね」


 ヒナが楽しそうに笑います。


「非常に興味深いです!!!! 外見は石に似ていますが、自分で移動していますね!!!!」


 リリが本を開き、忙しくペンを走らせていると、その生き物は短い足でとことこと歩き出しました。


 ところが、少し進んだところで足を引っ込めます。


 ころころころ。


 今度は転がり始めました。


 とことこ。


 ころころ。


 とことこ。


 ころころ。


 歩いたり、転がったり。


 なんとも忙しい生き物です。


 それを見ていたルルが、何かを思いついたように目を輝かせました。


 そして、両手を胸の前で丸くすると、その場でくるりと回ります。


 ころころ。


 もう一度、くるり。


 ころころ。


 どうやら、石の生き物の真似をしているようです。


「ふふ。ルルも転がるの?」


 ヒナが尋ねると、ルルは大きくうなずきました。


 すると、リリも二人の方を向きます。


「なるほど!!!!! 移動方法を実際に再現してみるのですね!!!!!」


 本とペンから手を離し、リリは体を丸めました。


「リリも試してみます!!!!!」


 ころん。


 ころころころ。


「あっ、リリ。そっちは坂に……」


 ヒナが言い終わるより早く、リリは坂を転がり始めました。


 ころころころころ。


 ころころころころころ。


 そして。


 ぽすんっ。


 坂の下に生えていた、大きな葉っぱの上に着地しました。


「…………」


 リリは仰向けのまま、しばらく動きません。


 しかし、本とペンは忙しそうに動いています。


 ヒナが慌てて駆け寄ります。


「リリ、大丈夫?」


「……問題ありません!!!!!」


 むくり。


 リリが起き上がりました。


 髪には、小さな葉っぱが一枚くっついています。


「ただし、人の体では、この移動方法はあまり効率的ではないようです!!!」


 ヒナは思わず笑ってしまいました。


 ルルも口元を押さえ、肩を揺らしています。


 その横を、石の生き物がころころと転がっていきました。


---


 しばらく歩くと、さらさらという水音が聞こえてきました。


 小さな小川です。


 透き通った水が、丸い石の間を流れています。


 ぴょんっ。


 小川から、小さな魚が飛び跳ねました。


 続いて、もう一匹。


 ぴょんっ。


 ぴょんっ。


 水面に小さな輪が広がります。


「魚が跳ねています!!! ヒナ、魚が跳ねていますよ!!!!」


 リリが興奮気味に眺めていると、今度は川辺の草むらから、丸っこい生き物が顔を出しました。


 カエルに似ています。


 けれど、普通のカエルよりもずっと丸く、足は短め。


 その生き物は、三人をちらりと見ました。


 そして。


 ぴょんっ。


 跳ねました。


 それを見ていたルルも、ぴょんっ。


 生き物がもう一度跳ねます。


 ぴょんっ。


 ルルも、ぴょんっ。


「ルル、楽しそうだね」


 ヒナが笑うと、ルルは満面の笑みで振り向きました。


 その間に、カエルのような生き物は草むらの奥へ消えていきます。


「ああ!!! 待ってください!!! まだ観察が終わっていません!!!」


 けれど、リリの声もなんのその。


 生き物はあっという間に姿を消してしまいました。


 リリはじっと草むらを見つめています。


 ルルも少し名残惜しそうに草むらを見つめていましたが、やがて二人ともヒナの隣へ戻ってきました。


「この世界には、不思議な生き物がたくさんいるね」


「はい!!!!! まだ見つけていない生き物も、きっとたくさんいるはずです!!!!!」


 リリは浮かんでいる本を眺め、満足そうにうなずきました。


 表情は、相変わらず変わりませんでしたが。


---


 小川に沿って歩いていくと、やがて小さな森に入りました。


 木々の間から、柔らかな光が差し込んでいます。


 葉っぱの隙間を風が通り抜けるたび、さらさらと心地よい音が響きました。


「気持ちのいい森だね」


 ヒナが深呼吸します。


 すると、頭の上から小さな鳴き声が聞こえてきました。


 ぴるる。


 ぴるるる。


 見上げると、枝の上に一羽の鳥がとまっています。


 丸い体に、短いくちばし。


 そして、頭の上には小さなキノコが生えていました。


「……キノコ?」


 ヒナが首をかしげます。


「鳥の頭にキノコが生えています!!!!!」


リリが興奮した声を上げました。


 鳥は三人を見下ろすと、ふるふると体を震わせました。


 すると。


 きらきら。


 頭のキノコから、細かな光の粒のようなものが舞い落ちてきました。


 それは木漏れ日の中をゆっくり漂い、やがて見えなくなりました。


 ルルが両手を伸ばします。


 光の粒を捕まえようとしているようです。


 けれど、粒は指の間をすり抜けていきました。


「胞子でしょうか!!!!! それとも別の何かでしょうか!!!!!」


 リリは真剣に観察を続けます。


 鳥はもう一度、ぴるる、と鳴きました。


 そして、ぱたぱたと翼を広げ、森の奥へ飛んでいきました。


「行っちゃったね」


 ヒナが言うと、ルルは少し名残惜しそうに手を振りました。


「残念ながら、あの粒の正体はわかりませんでした!!!」


 リリはそう報告すると、本に記録を書き加えます。


「でも、きれいだったね」


 ヒナの言葉に、ルルは大きくうなずきました。


---


 森の奥には、小さな泉がありました。


 水は透き通り、底に沈んだ色とりどりの小石までよく見えます。


 泉の周りには柔らかな草が生えていて、休憩するにはちょうどよさそうでした。


「ここでおやつにしようか」


 その言葉を聞いた瞬間、ルルの目がぱっと輝きました。


 ヒナがポーチに手を伸ばそうとすると、ルルがその手をそっと止めました。


 そして、自分のポーチを指さします。


「ルルが用意してくれるの? じゃあお願いしようかな」


 ルルは得意げに胸をぽんっと叩くと、ポーチから敷物と水筒、それからおやつの入ったかごを取り出しました。


 敷物を広げると、ルルはちょこんと座ります。


 さあ、どうぞ。


 手のひらを見せて、ヒナとリリにも座るよう促しました。


「お邪魔します」


 今日のおやつは、小さな焼き菓子。


 香ばしい匂いが辺りにふんわりと広がります。


「はい、リリ。ルルもどうぞ」


 ヒナが焼き菓子を渡すと、リリは両手で受け取りました。


「ありがとうございます!!!」


 その隣で、ルルはぷくっと頬を膨らませました。


 どうやら、お菓子も自分で配りたかったようです。


「ああ、ごめんね。それじゃあ、飲み物を用意してくれるかな?」


 ルルの顔がぱあっと輝きました。


 すぐにコップを三つ取り出し、飲み物を注ぎます。


 こぽこぽこぽ。


 こぽこぽこぽ。


 こぽこぽこぽ。


「ありがとう、ルル」


 ふんす。


 どういたしまして。


 そんな言葉が聞こえてきそうです。


「それでは、いただきましょう!!!」


 かぷ。


 リリの小さなひとくち。


「美味です!!! 大変美味ですよ!!!」


 その隣では、ルルが口を大きく開けて焼き菓子にかぶりついていました。


 ぱくり。


 もぐもぐ。


 にこにこ。


 ルルは頬に手を当てて、うっとり。


 とても幸せそうです。


 そして、かごからもう一つ。


 ぱくり。


「ふふ。ゆっくり食べてね」


 三人の休憩は、もう少し続きそうです。


---


 泉での休憩を終えた三人は、再び道を歩き始めました。


 森は次第にまばらになり、木々の向こうに明るい景色が広がっていきます。


 そして、最後の木立を抜けたとき。


「あっ」


 ヒナが足を止めました。


 目の前には、大きな町が広がっていました。


 色とりどりの屋根。


 曲がりくねった石畳の道。


 窓辺に飾られた花。


 遠くからは、人々の楽しそうな声が聞こえてきます。


 町の入口には、大きな看板が立っていました。


 そこには、丸みのある文字でこう書かれています。


『ようこそ! ツナギの町へ!』


「ツナギの町……」


 ヒナが看板を読み上げます。


「素敵な町です!!!!! 建物の形も、道の造りも、とても興味深いです!!!!!」


 リリはさっそく本を開き、ペンを走らせます。


 一方、ルルはというと。


 くんくん。


 鼻を動かしています。


 どうやら、町の方から何かいい匂いが漂ってくるようです。


 焼きたてのパンでしょうか。


 それとも、温かい料理でしょうか。


 ルルはヒナの袖をくいくいと引っ張りました。


 そして、町の中を指さします。


「うん。まずは何か食べに行こうか」


 ヒナが微笑むと、ルルは両手を上げて喜びました。


「リリも、この町の食文化には大変興味があります!!!!!」


 リリも大きな声で賛成します。


 三人は顔を見合わせました。


 そして、並んで町へと歩き始めます。


 花畑で出会った不思議な生き物。


 ころころ転がる小さな石。


 跳ねる魚に、キノコを頭に乗せた鳥。


 今日だけでも、たくさんの不思議に出会いました。


 けれど、三人の旅はまだ始まったばかり。


 ツナギの町には、どんな人たちが暮らしているのでしょう。


 どんな食べ物があって、どんな景色が待っているのでしょう。


 きっと、まだまだ知らないことがたくさんあります。


「さあ、行こうか」


 ヒナが微笑むと、リリは元気いっぱいに返事をして、ルルは嬉しそうにうなずきました。


 三人の足取りは、とても軽やかでした。


こうして、小さな旅人たちは、初めての町へと足を踏み入れたのでした。

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