第1話「ゴミ拾い、今日も拾ってる」
「おい、ゴミ拾い。これも持っていけ」
ダンジョン帰りの冒険者が、壊れた腕輪を俺の足元へ放り投げた。
腕輪は石畳を転がり、俺の靴先に当たって止まる。
翠緑の宝石は割れ、金属の枠も大きく歪んでいた。
売れても銅貨1枚になるかどうかの廃品だ。
けれど俺には、その腕輪の奥に残っているものが見えていた。
魔法も、剣技も、魔道具も、力を形にするために術式を使う。
成功すれば、術式は火や風や斬撃になり、魔道具なら効果を発揮して役目を終える。
だが、本来の形になれず、役目を果たせなかった術式は、そこに残ることがある。
――それが『残式』だ。
この壊れた腕輪には、風を起こすはずだった術式の残りが、緑色の細い糸みたいに絡みついていた。
「おい、ルーカ。聞こえてんのかよ。お前の仕事だろ」
「……分かってる」
俺はしゃがんで壊れた腕輪を拾った。
指先で歪んだ金属をなぞると、内側に張りついていた緑の残式が少しずつ剥がれていく。
――《疾風・残具》を拾いました。
続けて、別の文字が浮かんだ。
――《廃品収納》に登録されました。
《廃品収納》は、職業『ゴミ拾い』に生えている数少ないスキルの1つだ。
壊れた物や捨てられた物だけをしまえる。
新品や誰かの持ち物は入らないが、廃品ならかなり入る。
最近になって、そこに少しだけ変化があった。
《小物拾い》を覚えてから、俺は壊れた魔道具の奥に残る小さな術式の名残まで見つけられるようになった。
割れた魔灯。
動かなくなった腕輪。
焦げた魔道具の部品。
そういう物に残った残式なら、何度か拾ったことがある。
ただし、取り出しても少しだけ名残が漏れるだけだ。
魔道具として使えるわけではない。
だから、この《疾風・残式》も、俺にとってはまた1つ増えたゴミだった。
冒険者たちは知らない。
彼らに見えているのは、壊れた腕輪を大事そうに拾う、レベル0の『ゴミ拾い』の少年だけだった。
「ほんと便利だよな、おまえの職業。戦えなくてもゴミだけはいくらでも拾えるんだろ?」
「ダンジョンの中で死なれても面倒だし、お前は一生入口だけ掃除してろよ」
大きな笑い声がギルド前の広場で沸き起こった。
俺は何も言い返せなかった。
言い返せるだけの結果が、まだ何もない。
この世界では、12歳になると1つの職業を授かる。
『剣士』なら剣技を伸ばせる。
『火術師』なら火の術式を育て、魔法を撃てる。
『鍛冶師』なら武器や魔道具を作れる。
職業は、その人間が伸ばせる道そのものだ。
だが、5年前に俺が授かった職業は『ゴミ拾い』だった。
5年間、ゴミを拾い続けた結果、今の俺のスキルツリーに並んだのは――
《小物拾い》:小さいゴミを見つけやすくなる
《回収》:ゴミの回収速度が速くなる
《分別》:ゴミを仕分ける
《汚物耐性》:不衛生なものへの耐性が上がる
《廃品収納》:ゴミだけをかなりの量しまえる
スキルこそ増えたが、どこを見ても戦う枝は伸びていない。
魔法を覚える枝も生えなかった。
生まれつき、魔力はある。
だが、使い道がない。
剣を振っても、魔力が乗らずただの素振り。
魔法を真似ても、指先で魔力が散る。
魔道具に魔力を流しても、起動する前に弾かれる。
その結果――俺は憧れの冒険者にはなれなかった。
今の仕事は、街とダンジョンの廃品回収だ。
壊れた魔灯を集める。
折れた剣を運ぶ。
工房の失敗作や廃棄品を回収する。
ダンジョンの入口に捨てられた装備や壊れた魔道具を片付ける。
朝から晩までゴミを拾って、それでも宿代と黒パン代を払えば、手元に残るのは銅貨数枚だった。
それでも俺は、今日もゴミを拾う。
誰かが捨てたものの中に、俺にしか見えない残式が残っていることを知っているから。




