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幾度目かわからないシラントロの拳が放たれとき、エリュプの拳とシラントロの拳がぶつかる。巨大なドラゴンの拳とエリュプの人間の拳がぶつかり均衡を保もっている。
「これだけやっても致命傷にもならないとはな」
「いや、結構体には響いた。いい、いいぞ! 自分と戦うに相応しい」
壁に埋まったままニンマリと笑ったエリュプが振るった拳とシラントロの拳がぶつかる。
「むぅっ⁉」
巨大な拳が押され、思わず唸ってしまうシラントロの巨体が後ろに下がる。弾かれた勢いで逸れた上半身を戻す勢いを利用して、シラントロが拳を振るうとエリュプも対抗する。
互いが拳をぶつけ合い、ぶつかる度に空気が弾け衝撃波がダンジョン全体を揺らす。
押され負け徐々に後ろに下がっていくシラントロが大きく後ろによろけたとき、エリュプが蹴りを放つ。
1人の人間が蹴りだけで巨大なドラゴンを吹き飛ばす。信じられない光景を前にしてガーゴイルたちやモナルダが驚きの表情を見せる。
吹き飛ばされたシラントロが体を炎で包み、人間の姿に戻りつつ足で地面を削りブレーキをかけながら魔力を溜める槍を振りかぶる。
「私の最強の技を受けるがいい」
「いいだろうこい!」
魔力を槍に集中させたシラントロが大きく一歩踏み出すと、一瞬にして地面に炎の線が引かれシラントロが突き出した槍の先端がエリュプの額にほんのわずか刺さる。
「今のは完全に捉えきれなかったぞ! いい! さすが魔王だ! 本気を出すに相応しい。くはっはっはっはっは!」
額に槍を刺したまま血走った目で笑い出すエリュプを見て、冷や汗を流すシラントロが槍を持つ手に力を入れる。
槍から吹き上がる炎をものともせず頭で押すエリュプが体に力を入れたとき、天井から無数の矢が降りそそぐ。
「今さらそんなもので!」
煩わしそうに手で矢を払ったとき、背後から忍び寄った影がエリュプの右のわき腹に太くて短い槍を突き立てる。
槍はエリュプのわき腹に突き刺さると太い本体の側を展開し、展開部分に生えている針をエリュプの体に突き立てガッチリと自身を固定する。
針の部分から急速に成長した体内に寄生する植物の根が張られ内側からも固定すると、エリュプの魔力を吸い出し展開してできた穴から虹色に光る魔力を放出し始める。
「ぐっ⁉」
一瞬よろけるエリュプだが、額に刺さる槍を振り切りながら背後にいたクミンを蹴って吹き飛ばす。
壁に激しく叩きつけられたクミンが苦しそうな表情をしながらも、わき腹を押えエリュプを見てニヤリと笑う。
それと同時に大きく翼を広げたモナルダが、空中からエリュプ目がけカギを投げつける。体に当たって砕けるカギの破片が放つ光にエリュプが包まれその場から強制的に転送され消えてしまう。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか」
壁に寄りかかってお腹の辺りを押え座っていたクミンは、シラントロが差し伸べた手を握って立ち上がる。
「しかしとんでもないヤツだな。私の攻撃がほぼ効いていないぞ」
「ええ、だからこそ弱体化させる必要があります」
「さっきのアンカーだったか。あれで押し切れるのか?」
シラントロの質問にクミンは首を横に振って応える。
「ですが、これで条件が1つ揃ったのでオレガノ様を呼ぶ準備ができました」
「リスポーンブロックを改良した、5分間だけオレガノを召喚できるってやつか。そこで一気に叩くしかないわけだな」
「はい、そのタイミングまでちょっと休憩を」
よろけるクミンをモナルダが支える。
「ありがと。モナルダ、初めてでもいい動きできてたよ。第三階層に移動させるタイミングも完璧だった」
褒められ少し恥ずかしそうに、ほんのり赤くなった頬をかくモナルダを見てクミンが微笑む。
「クミン様、ローリエ様より伝言です。対象は無事に第三層に転送完了。魔力濃度が規定値に近づいたら連絡するとのことです。それとこれを」
転送され飛んできて、クミンの肩にとまった鳩型のガーゴイルが報告を終えると、耳掛けタイプのイヤホンを取り出す。
「初手で壊れちゃったから助かった。さすがローリエ、抜け目ない」
そう言って受け取ったイヤホンを右耳にかけると、ガーゴイルが壁に投影した映像に目をやる。
***
転送されたエリュプが地面に転がるがすぐに、反動をつけ起き上がると周囲を見渡す。
「雑魚が数で押し寄せたところで倒せると思うな」
エリュプを囲む数百にも及ぶ鎧姿の騎士たち。その中身はがらんどうで何も入っていない、呪われた鎧や動く鎧などの呼称があるが、この世界では一般的にリビングアーマーと呼ばれている魔物である。
リビングアーマーそれぞれが持つ武器を構えると一斉にエリュプ目がけ攻撃を始める。
エリュプが鎖を引き、先端についている鉄球で大量のリビングアーマーたちを一瞬にして鉄くずに変えていく。
それでも次々に湧き出てくるリビングアーマーが迫ってくる中、リビングアーマーを押しのけて2体の巨大なドラゴンがやってくる。
四つん這いで走り背中に半透明な膜の張った翼を持つドラゴンは、身体中に電流をまとっている。
額から伸びるナイフのような形状をした角を持つそれはサンダードラゴンと呼ばれ、名前の通り雷を操るドラゴンである。
半透明な膜が張った翼に電流が走り、キラキラと輝いたかと思うと、大きく開いた口からバチバチと電撃が放たれる。
「まさかっ!?」
自分めがけ電撃が飛んでくるかと思いエリュプが身構えたとき、電撃は周囲を取り囲む鉄の鎧でできたリビングアーマーたちを介して全方向からエリュプを襲う。
普通の人間であれば即死であろう電撃を浴びてなお、歯を食いしばって耐えるエリュプがサンダードラゴンを睨む。
「魔力低下量10パーセント」
管制室にいるスタッフの報告にローリエが無言で頷く。
「ダンジョンに入って計測した上限値から10パーセント低下でこの魔力量……本来の力を考えると底が知れませんね」
「ええ、呪縛の鎖がなければ恐ろしいことになっているのは間違いないわね」
ローリエとアンジェリカが言葉を交わす。
「間違いなくサンダードラゴンでは押さえきれません。ダンジョン内の魔力濃度が規定値に達し次第、オレガノ様の出撃をお願いします」
ローリエの言葉にナツメグとフェネルの間に立つ、リスポーンブロックを持ったオレガノが緊張した面持ちで大きく頷く。




