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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
vs.格闘家エリュプ

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91/136

3

「弱者であることは認めます。ですが……」


 クミンは澄ました顔でふっと笑う。


「うちを倒すのは容易かもしれませんが、あなたはこの空間に閉じ込められている身なわけです。ここから抜け出すことができなければ、どの道オレガノ様に会うことは叶いませんよ」


 クミンの言葉に今度はエリュプがため息交じりに苦笑する。


「閉じ込めている? これでか? 大方結界を張った地下の施設といったとこだろうが、この程度で有利を語るとは片腹痛いな」


 エリュプが拳を握り力を込める。それと共に急速に魔力が高まっていくのが目の前にいるクミンはもちろん、エリュプの魔力を数値として測りモニターで監視しているローリエたちにも伝わってくる。


「先日見せた魔力の解放がくるわね」


「ええ、今後のダンジョンの耐久性を測るのにいい機会です。ついでに魔力を消費してくれると嬉しいんですけど」


 アンジェリカとローリエが言葉を交わす後ろでは、オレガノが不安そうな表情でクミンを見ている。その左右に護衛として立つナツメグとフェネルは、画面の向こうにいるクミンはもちろんだが、離れた場所で影に隠れ震えているモナルダを心配そうに見ている。


 エリュプの膨れ上がる魔力を前にして冷静を装うクミンだが、内心は穏やかではない。もしもエリュプが自分に向け魔力を放てば一瞬で自分が負けることは火を見るよりも明らかである。


 エリュプの存在を捕捉してから数週間の言動、各地を襲ったときの記録、ウェスティー戦の記録。これらを分析した結果、弱い者には興味を示さず必ず己の圧倒的な力を見せつける。


 弱い者が恐れおののく姿にほくそ笑む、自分の力を誇示するタイプであると結論づけられた。なによりも自らを戒める鎖の存在が、自分の強さに酔っている証拠である。


 サフランをはじめとした偵察部隊と多くの魔族たちによる観察、遺留品の収集や聞き込みによって導き出された結論は今、拳を真上に振り上げたエリュプの姿によって証明される。


 エリュプが溜めた魔力はダンジョンの天井を突き破り地表をも貫き、外の世界に飛び出し空へと昇り破裂する。


 日も落ちてすっかり暗くなった夜空に打ち上がった魔力の花火が、一瞬だけ闇を光で彩る。


「どうだ。これでも力を押えているんだぞ。お前ごときが相手にならないのが分かったか」


 天井に空いた穴からわずかに見える外の世界の下で、頬に流れる汗を拭うこともできないクミンを見てニンマリと笑う。


「自分に挑戦状を送ってきたんだ。魔王オレガノは戦闘力に自信があるのだろう? さあ今すぐに呼べ!」


 圧をかけるエリュプに対し黙って刀を抜くクミンを見てエリュプが鼻で笑う。


「無駄なのが分からないのか。それとも、お前を痛めつければ来てくれるのか?」


 パキパキと手の骨を鳴らしてニタアっと笑みを浮かべるエリュプに、無言のまま刀を構えるクミンはじっと睨む。


 そのときだった、上空が一瞬チカっと赤く光ったかと思うと、エリュプが開けた穴を真っ赤な炎が走り抜けエリュプの頭から降りそそぐ。


「上空からの攻撃だと!」


 両手を上げ頭上の炎を受け止めるエリュプを見て、クミンが刀を鞘に戻すと4本のナイフを取り出しエリュプ目がけ投げる。


 4本のナイフはそれぞれが円を描きながら、持ち手についている糸を絡めエリュプの胸に先端を重ねて当たる。クミンが腕を広げ糸の絡みを強引に解くと、赤く光った4本のナイフが一つの巨大なドリルの先端となってエリュプを貫こうと高速回転を始める。


 両手で勢いを増す上空の炎を受け止めるエリュプにクミンの攻撃を受けることはできないが、それでも膨大な魔力を体の表面に張り耐えてみせる。

 クミンの攻撃によって僅かに削れ、飛び散り輝くエリュプの魔力の破片を瞳に映すクミンだが、その顔には焦りの表情が見て取れる。


「上空からの攻撃はなかなかの力を感じるが、お前ごときでは自分に傷一つつけることは敵わん。お前の方が先に魔力が尽きるぞ」


「爆ぜろ!」


 鼻で笑うエリュプの言葉を無視し、クミンが4本のナイフを爆発させると同時に壁から砲弾の球が発射される。


「今さらそんな攻撃が自分に効くわけがないだろう!」


 ややキレ気味に言葉を放ったエリュプに、砲弾の球は当たる前に表面にヒビが入り空中で弾けると鎖で作られたネットがエリュプに襲いかかる。


「こんなもので身動きを封じれるわけがっ⁉」


 言い切る前に上空からの攻撃を受け止めるエリュプの両手が突然炎に包まれてしまう。


「なんだこれはっ⁉ ちっ呪縛の鎖か」


 その言葉を放った瞬間、勢いを増した炎がエリュプを包んで押しつぶす。地面が焼け焦げるほどの炎が吹き上がるのを後方に下がったクミンは見つめながら、いつでも動けるように刀を抜き構えている。


 炎の中でゆらりと影が立ち上がった、それを見計らったタイミングで上空から炎の球が高速で落ち破裂する。


 劫火と呼ぶにふさわしい炎が広がる真上に、赤い軌跡を引きながら急降下してきたシラントロが真っ赤に燃える槍を振り下ろす。


「ほう、この攻撃で腕の1つも落とせないとは、なかなか強いな」


「何者だ」


 槍の先端を腕に刺し、血を流したまま突然現れたシラントロを見るエリュプはどこか興奮した様子で尋ねる。


「名乗ってやろう。私の名は魔王シラントロだ」


「シラントロだと? 東の魔王がなぜここにいるかは知らんが自分にも運が向いてきた! お前は俺を楽しませてくれるんだろうな!」


 鼻息を荒くするエリュプが叫んだとき壁が開き、一斉にガーゴイルの鳥たちが飛び立つ。

 そのときを狙ってクミンが細長い針のような武器を投げる。それはエリュプを刺すわけではなく、エリュプを縛る鎖と網の間を縫って飛んでいく。


 飛んできた針が壁に当たって跳ね返ると、それをガーゴイルがくわえエリュプに周りを飛びながら糸を巻き付けていく。


 無数のガーゴイルが飛び交い、糸で鎖と網を編んでいく。


 それが自分の動きを封じるためだと気づきつつも、目の前にいるシラントロの攻撃を受けることに集中するため無視せざるを得ない。


「注意散漫だな」


 ニヤリと笑ったシラントロが槍を高速で突き出すと、それを素手で掴んだエリュプの手元で爆発させる。クミンが見せる爆発とは比べ物にならない凄まじい威力にエリュプが体勢を崩した瞬間、シラントロの体を炎が包む。


 炎が弾けるとドラゴンが現れ、同時に巨大な拳でエリュプを殴る。


 壁まで吹き飛ばされたエリュプ目がけ、翼を広げ追いかけたシラントロの拳が降りそそぐ。


 シラントロの凄まじい連撃は壁を破壊しながらエリュプに繰り出され続ける。

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