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二人の男性がテーブル越しに言葉を交わす。そのテーブルの上には沢山の紙が束ねられており、紙には様々な植物や鉱石、武器などの絵と文章が描かれている。
「この希少金属を手に入れるのに苦労しましたぜ」
小太りの男が頬のこけた男に、布を開き包まれた金属を見せると、頬のこけた男は手袋をつけ金属を丁寧に鑑定する。
「本物っぽいな。本部に持って行き鑑定して貰ってから残りの金額は支払うから待っててくれ。それにしてもこれを手に入れるのに苦労しただろう? 手を煩わせてすまないな」
「なにボワッドさんの頼みなら断れないよ。なにせ、俺の夢物語みたいな外国との取引の話を真剣に聞いてくれて、さらに投資までしてくれた人なんだからよ」
小太りの男が鼻の下を指で擦りながらお礼を述べると、ボワッドと呼ばれた男はふっと笑う。
「俺は人を見極める術には自信があるんだが、貿易をすることはできない。取引の才能があるあんたを見つけることができただけで、この貿易が成功しているのはあんたの実力さ。感謝している」
「嬉しいこと言ってくれるね。おっとそうだ、次の取引まで2週間ほど開けるが5日後には次の品を決めていきたい。話し合いに参加できそうですかね?」
「ああ、必ず行く」
そう言ってボワッドは立ち上がるとテーブルをあとにし、建物の外へと出て行く。町中を歩き段々と人気のない場所へと向かい、やがて昼間でも薄暗い裏路地へと入る。
「止まりなさい」
壁に背をつけて寄りかかっている男性が声をかけると、ボワッドは気をつけの姿勢で止まる。その目は先ほどまで小太りの男と話していたときとは違い、どこか虚ろで視点が定まっていない。
壁に寄りかかっていた男が体を起こすと、影で見えづらかった顔にうっすらと光が当たり、ジンジャーの姿が露わになる。
「取引の品を見せてもらいましょうか」
「はい」
ボワッドはジンジャーに言われるがままに手に持っていた包みをジンジャーに差し出す。受け取ったジンジャーが包みを広げて姿を現した金属を見つめる。そしてそれを、右へ差し出すと、どこからか現れた女性の手が伸び金属を受け取り真剣に見つめる。
「間違いないわ、ヒヒイロカネよ」
ヒヒイロカネを見て満足そうな笑みを見せるアンジェリカの言葉を聞いて頷いたジンジャーが、指を鳴らすとボワッドは黙って頷き歩いてどこかへ行ってしまう。
「足がつかないように人間を操って貿易を行うのは正解ね。あなたを引き込んで正解だったわ」
「最初からそのつもりだったんじゃないんですか? それよりもお嬢様、こんなところまで出て来て会社の方は大丈夫なんですか?」
「あら? 私だって休暇の一つくらい取ってもいいじゃない。それにオレガノ本人にも推しであることを公表したことだし、これで堂々と今の可愛いオレガノに会えるってものでしょ」
アンジェリカの答えにジンジャーが頭を押える。
「まったく、影からオレガノ様を支える健気なお嬢様作戦とやらは、どこへ行かれたのですかね?」
「ふふふっ、流れが変われば自分の立ち位置も変えないと、欲しいものは手に入れれないわよ」
口を押さえて笑うアンジェリカを、ジト目で見るジンジャーが口を開く。
「ところでお嬢様は今のオレガノ様でも構わないのですか? 追っかけ時代の姿ではなくなってしまったわけじゃないですか?」
「そうね、前は見た目もカッコいいし生き様も好きだったけど、今のオレガノも可愛くて好きよ。一生懸命生きてる感じが健気で推せるじゃない?」
「そんなものですかね。まあ本人の本質は変わっていないようですけど。ただちょっと幼くなりすぎな気はしますが」
「そこも魅力よ。アンバランスな感じが可愛いじゃない」
笑顔で応えるアンジェリカに、ジンジャーは本日何度目かのため息をつく。
「それじゃ、私はオレガノに会ってくるから引き続きよろしくね」
手を振りながら去っていくアンジェリカの背をジンジャーはじっと見つめる。
「相変わらず自由な人だ。……本当はノルデン様がお亡くなりになってショックでしょうに。気丈に振る舞うその心中お察しいたします」
ジンジャーは静かに呟く。
***
外にいるクミンは素早く魚に串を刺し、それらを網の上に載せて焼き始める。パチパチと音をたて皮を縮めながら、焦げ色に変わっていく魚を監視するクミンの肩にサフランがとまる。
「カルダモンのおっさんから伝言だ。ダンジョン地下3、4、5階の建築8割完成。対勇者用のダンジョン建築場所が決まったそうだ」
「そう、ダンジョンの地下3階以降への誘導は上手くいきそう?」
「ローリエが言うには泉で引いた武器の試し斬りに行きたくなるように、難易度ギリギリのところを責めつつ罠のデーターと合わせて取っていくそうだ。まあ、ダンジョンのシステムについては社長から情報の提示があるから、対勇者用のデーター取りを兼ねてってことになるがな」
サフランの説明にクミンが頷き応える。
「準備は着々と進んでいるとして、あとは勇者自体のデーター収集、各地の魔王との連携、そしてどうやって分断しダンジョンに誘い込むか……まだまだ課題は多いってことね」
「ちげえね」
クミンとサフランが会話を交わす横を小さな影が駆け抜け、網の上の魚を両手に取って小躍りを始める。
「わーい! 今日は焼き魚なのじゃ~」
「こらっ! まだ焼けてませんから火から離したらダメです!」
小躍りするオレガノとそれを怒るクミンを見てサフランはため息をつく。
「まったく、この姿を見ても二人の魔王と勇者たちはオレガノって信じてくれやしないだろうな」
そのまま翼を広げると飛び去って行く。




