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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
3+1で4なのじゃぞ

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 木で作られた『武器屋 アルムス』の看板が風に吹かれ、壁から伸びる鉄の棒にかけられた鉄同士が擦れキイキイと音をたてる。


 まだ開店していない店内は薄暗く、ランタンの明かりがぼんやりと周囲を照らしている。揺れる火の光に合わせて揺れる大きな影の持ち主であるジンジャーは、一枚の紙をじっと見つめる。


「なんですかこれは?」


 ジンジャーの見る紙には大きく『辞令』と書かれており、その下に並ぶ小さな文字には


 ━━ジンジャーを愛らしい魔王軍の四天王代理として任命する。以後『ジェントルマンな四天王代理・ジンジャー』と名乗られたし。P.S 私が本当の四天王!━━


 嬉しそうなデフォルメ調のアンジェリカのイラストと共に書かれた追伸の内容を読んだジンジャーは、ガックシと垂れる頭を右手で支えて大きなため息をつく。


「お嬢様は一体全体なにを考えているんでしょうか。自分はあくまでもオレガノ様を影から支援するんだとか言っていたでしょうに……それなのにオレガノ様の四天王になってどうするんですか。全然影から支援してないじゃないですか。それに、なんですかこの私の二つ名は。オレガノ様は行き当たりばったりで、適当極まりないから大変だと知り合いが嘆いていたのも納得ですよ」


 ジンジャーが呆れた表情で首を振っていると、まだ開いていない店のドアをノックする音が聞こえてくる。


 辞令の紙を丁寧に畳むと、ジンジャーは店のドアを開ける。


「ジンジャー!」


 元気よく手を挙げて挨拶するオレガノがぴょんと飛び跳ね、隣に立つクミンが会釈する。


「おはようなのじゃ! 話があるのじゃ」


 元気よく挨拶して返す間も与えず、自分の要件を話し始めるオレガノにジンジャーが手に持っていた辞令の紙を見せる。


「要件は『ジェントルマンな四天王代理・ジンジャー』についてでしょうか?」


「おぉ! もう話がいっておたっか、さすがアンジェリカなのじゃ。で、受けてくれるのかえ?」


 両手を握り、体をフリフリしながらキラキラした瞳で見上げる。そんなオレガノを見てジンジャーは苦笑する。


「受けるもなにも私はただの一社員ですし、社長命令となればやらないわけにはいかないのでお引き受けいたします」


 ジンジャーの答えにオレガノはぱぁっと明るい笑顔を見せ、クミンが胸を押さえ安堵のため息をつく。


「ジンジャーさんが加入してくれて助かります。戦闘面において不安が大きかったので本当に……」


「私は引退した身ですから、クミンさんのご期待に応えれるほど強くありませんよ」


「それでもです。これから勇者を討伐しないといけないかもしれないのに、戦闘力が異常に低い四天王に不安を感じていましたので、戦闘経験があるジンジャーさんの加入は嬉しいのです」


 クミンの言葉に事情を察したジンジャーは苦笑気味な笑顔を見せながら、オレガノとクミンを店の奥へと招き入れる。


「辞令とは別に今後の活動計画書も読ませていただきました。私もここでの生活も長いですからそれなりに人脈もありますし、海の向こうとの取引も何度か経験しています。投資をしつつ、取引相手を利用し今後のダンジョン生成において必要な素材を混ぜつつ貿易を行うことが私の当面の仕事でよろしいでしょうか?」


「さすがジンジャー、事務系でも隙がないのじゃ! ローリエと連携を取ってうまくやって欲しいのじゃ」


「承りました。この『ジェントルマンな四天王代理・ジンジャー』、魔王オレガノ様のため働かせていただきます」


 華麗なお辞儀を見せるジンジャーを見るクミンの顔には驚きの表情が見てとれる。


「喜んでおいてなんですが驚きました。断るまでいかなくとも、もう少し渋ると思っていました。それに二つ名についてもあっさり受け入れてしまうんですね」


「社長との付き合いも長いですし、オレガノ様の性格も少しは理解しているつもりです。これくらいで迷っていてはハヌマーン商会では生きていけませんよ」


「なるほど、ジンジャーさんも苦労されているというわけですね」


 そう言って笑顔を見せるジンジャーを、クミンが哀れみと感心の混ざった表情で頷く。

 その横でなぜか自慢気に胸を張るオレガノを見て、クミンは呆れた顔でため息をつく。


「ところで西と東の魔王への協力要請は終えているのですか?」


「抜かりないのじゃ! 余が手紙をしたためて送っておいたのじゃ。今頃届いておるはずじゃぞ」


 自信満々に語るオレガノに、クミンは不安の目を向ける。


(あの汚い字で伝わるのか不安で仕方がない……)


 胸にある不安が表にこぼれないように、クミンは胸を押さえ大きく息を吐いて自分を落ち着かせる。


 ***


「なんだこの汚い字は」


 呆れた声を出す女性のオレンジの瞳に映るのは、まさにミミズが這った言うに相応しい文字の羅列。


 瞳と手紙を持つ手を震わせるながら、文字を追っていた女性はオレンジ色の髪をなびかせ振り向くと、近くの従者に手紙を手渡す。


「消えた気配は感じてはいなかったから生きているとは思っていたが、まさかこのような汚い字で結託を申し込むとは、私をバカにしているのか?」


 憤慨する女性のオレンジ色の髪の毛が一瞬赤く輝きを増したかと思うと炎が上がる。それと同時に女性のオレンジの瞳の瞳孔が縦に細くなる。


「魔王シラントロ様!」


 慌てた様子で走ってきた紅色の鎧を装備する女性の兵に名前を呼ばれたシラントロは、髪と瞳を元のオレンジ色に戻し女性兵を見る。


「どうした?」


「西の魔王ウェスティーが勇者に対して宣戦布告したとの情報を得ました!」


「なんだと⁉ あのご老体はなにを考えている! ノルデンが一方的にやられたことは知っているであろうに。オレガノとの結託のことを抜きにしても単独で動くなど正気の沙汰か?」


 驚き、そして怒りを露わにするシラントロの髪と両肩に炎が上がる。威圧感のある炎に当てられ女性兵が思わず後ずさりするのを見たシラントロは咳ばらいをして自身を落ち着かせる。


「ウェスティーと連絡を取りたい。それとオレガノともだ! この汚い字の手紙の出所を調べてくれ」


「はっ!」


 シラントロの一声で伝達にきた女性兵だけでなく、周囲の兵たちも散っていく。


「まったくどいつもこいつも勝手に動く。さて、私はどうするべきか」


 曲げた人さし指で唇を押えシラントロは呟く。

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