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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
南の空に降る雪

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3

 北の大地に隕石が落ちた日、一つの光が南へと向かって飛んでいく。


 炎がたぎる山々の中腹にある城のバルコニーで真っ赤なスリットの入ったチャイナドレスに、赤き鎧をまとう女性は小麦色の肌の頬にあるピンクの唇で指を噛む。


 空を切り裂き飛んでいく光を黄金色の瞳に映し、オレンジの長い髪をかきあげた女性は呟く。


「ノルデン、逝ってしまったか……。せめて安らかにあれと祈ってやろう」


 女性は手を組んで目を静かにつぶる。


 ***


 大地に穏やかに流れる水は大地を、植物を潤し、敷いてはそこに生きる生命たちを潤す。


 町の中だけでなく巨大な城の中にも流れる水は潤いだけでなく癒しをも与えてくれる。


 玉座に座る白髪で白く長い髭が特徴の老人は、長い眉毛の下に隠れている目をのぞかせると、髭で見えない口を動かし呟く。


「お前ほどの男が消えるか。なんでも力で強引に解決するめんどくさいヤツだったが、酒の趣味だけは合ったからのぉ。どれっ」


 老人は玉座から立ち上がると腰を叩く。慌てて駆け寄ってきた男女の部下に老人は歩みを進めつつ、長い髭を擦りながら声をかける。


「酒を用意してくれ。銘柄は『氷河の一滴』だ」


「「はっ!」」


 鋭く歯切れのいい返事をする男女の部下は老人の希望する酒を探すため下がる。


「魔王を倒す勇者とは、いやはや迷惑なことだのぉ。わしがこの不毛の地だった西の大地を潤すにどれだけの労力を割いたと思っておる。まったく英雄ごっこはやめてほしいものよ……おっといかんいかん、どうも最近愚痴っぽいのぉ。まだ3,000年しか生きておらんのだからしっかりせんといかんの」


 腰を叩きながら老人は城の中を流れる水の上に架けられた橋の上を歩き進む。


 ***


 庭にある丸テーブルと椅子のセットの椅子に座って、ぽけーっと空を眺めていたオレガノ顔面にサフランが着地する。


「どうしたんだボケーとしてよ」


「うーむ、なんじゃろな。なんかこう、胸がざわざわするのじゃ」


 サフランに尋ねられたオレガノは神妙な面持ちで自分の胸を押える。


「食い過ぎじゃねえのか? さっきもクミンに黙ってパンとマカロン食ってただろ」


「なんと見ておったのじゃな! これは余とサフランとの二人の秘密なのじゃぞ」


「なんで俺は食べてねえのに二人の秘密になるんだよ」


「余がクミンに怒られるからじゃ」


 口止めを願うオレガノに呆れたサフランが首をすくめたとき、オレガノが椅子から飛び降り空を眺める。勢いよく飛び降りたせいで倒れた椅子を気にすることなく、オレガノはじっと空を見つめる。


「どうした? なにか空にあるのか?」


「……来るのじゃ」


「は? 来るってなにがだよ?」


 サフランが問いかけるが、オレガノは答えることなく右手をそっと空に向ける。


 次の瞬間、真昼の青空に流れ星が走ったかと思うと眩い光が真っ直ぐオレガノ目がけ落ちてくる。慌てふためくサフランとは対照的に落ち着いた様子のオレガノは、落ちてきた光を右手で受ける。


「おおおお、おい! 大丈夫かよ」


 右手から眩い光を放っているオレガノを見てサフランが驚き震える声で尋ねる。


「な、なにがあったのですか⁉」


 眩い光と轟音に慌てて集まってきたクミンはパスタが入ったままのフライパンを手に持ち、ローリエは長い髪を束ね手には、ほうきをもったままである。


 そんな二人と一羽にオレガノは右手をそっとおろすと、掌でゆっくりと回転する雪の結晶の形をした水晶を見せる。


「なんですかそれ? ものすごい魔力を感じますけど」


「『魔王の真核』じゃ……北の魔王ノルデンが逝ってしまったようじゃ」


 オレガノの答えにクミンたちが目を大きく見開く。


「たくさん喧嘩したが、悪いヤツじゃなかったのじゃ。最後に一目見ておきたかったのじゃ……」


 目を細めて物悲しそうに雪の結晶を見るオレガノにかける言葉が思いつかないクミンたちが黙っていると、オレガノは手を握り雪の結晶を握りしめる。

 パキンと甲高い音と共にキラキラと光の粒に変わった雪の結晶は、オレガノの体の周りを囲んでゆっくりと回る。


 キラキラと瞬く光からこぼれる小さな光の粒は雪のようで、降りそそぐ光でオレガノを包む。


 一つの光の粒がオレガノに触れると、スッと消えていく。それを皮切りに次々とオレガノに触れた光の粒は消えて、やがてなくなってしまう。


 一連の出来事を見ていたクミンたちの目の前でオレガノは静かに自分の胸に手を当てる。


「まさか余に託すとは思わなかったのじゃ。そうじゃのぉ……ふむぅ」


 目をつぶり大きく息を吐いたオレガノは、顔を上げつつゆっくり目を開くとクミンたちを瞳に映して微笑む。その微笑む姿はいつもの元気なオレガノではなく、どこか儚く、いつもとは違う雰囲気をまとうオレガノの姿にクミンたちの間に緊張が走る。


「お腹空いたのじゃ」


「は? この流れで最初に出てくる言葉がそれですか?」


 想像していた言葉と違ったのかクミンがキレ気味に発言する。


「だってお腹空いたのじゃ。それに今はなにも思いつかんのじゃ、食べてから考えるのじゃ」


「あーはいはい、それじゃあ作りますから、もう少し待っててくださいよ」


 パスタが入ったままのフライパンを乱暴に振り回しながら、呆れた顔のクミンは家へと戻って行く。


「え、えーと……私も手伝います!」


 オロオロとしていたローリエだが、ほうきを手に持ったまま慌ててクミンのあとを追いかける。そんな二人の背中を見送るオレガノが口を開く。


「サフラン」


「なんだ?」


 目を合わせずに言葉を交わすオレガノとテーブルに立つサフランの表情はいつもとは違い真剣である。


「余がつまみ食いしてたことは内緒じゃぞ」


 サフランがズッコケる。


「お前なぁ……まあいいや。俺は先に行くから椅子を元に戻しとけよ」


 ニシシと笑うオレガノを見て肩をすくめ翼を挙げて呆れたポーズをしたサフランは、飛び立つとクミンたちのあとを追う。


 クミンたちがいなくなり、一人になったオレガノは上を向くと小さく震える唇を動かす。


「余に……今の余になにができるじゃろうか。ノルデン……お前になにかしてやれるじゃろうか」


 オレガノは乱暴に服の袖で目を擦る。

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