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興奮を抑えきれない、そんな様子のカラミィーテは未だ爆発によって起きた土と氷の欠片が混ざる煙の中心にある影を見つめる。
「ここはあたしが、くじ引きで引いて当てたエリアだから、三人とも手出ししないでよ。したら許さないし」
ニマァっと笑うカラミィーテの言葉に眉をぴくっと上げながらもエリュプが一歩後ろに下がる。
「約束は守ろう。もしもカラミィーテが失敗したら、自分がやるから安心するがいい。どーんとやるといい」
「はあぁ~? 脳みそ腐ってんのかってんの。あたしが負けるなんてありえないし」
そう言いながらカラミィーテが杖に魔力を溜め始める。
「カラミィーテちゃん頑張って!」
「くじ引きで決まったときからカラミィーテの勝ちだったってわけか」
手を振って応援しながら後ろに下がるティフォンと、フッと笑いながらトルナードは剣で肩を叩きながら背を向けその場から離れていく。
「きゃはっ、じゃ~あ、まずはご挨拶ってね」
皆が離れたのを合図に、赤く輝く杖を振ると轟音と共に真っ赤な弾が空中に線を引き影に向かって飛んでいく。着弾する前に揺らぐ影が炎の弾を避け、大地から炎が吹き上がる。
ニンマリと笑うカラミィーテが杖を斜め上に向け、杖から燃え上がる炎の弾を連続で発射する。発射の風圧で帽子が飛ばないように左手で押さえながら、残った氷の壁を蹴り高速で移動する影に向かって次々と炎の弾を撃ち込んでいく。
「速い、はーやーい! きゃはっ、楽しいぃ~っ!」
抑えられない興奮を言葉にして発するカラミィーテが、帽子を押さえていた手を放すと指をパチンと鳴らす。氷の大地のあちらこちらで燃え盛っていた炎が一瞬にして凍り、巨大なつららとなって四方八方に伸びる。
思わぬ攻撃に影が動きを止めたとき、カラミィーテが杖を振る。
「アイスメイデン」
カラミィーテの言葉に反応した氷のつららが一気に成長し、氷がなくなった永久凍土に再び氷をもたらす。ただそれは壁ではなく、何者をも貫く意思を宿した氷の針地獄。
「もぉうおわりぃ~? なわけないよね? そんなダサいのやめてよ~」
氷の針地獄を見ながらケタケタ笑うカラミィーテの後方では、トルナードたちが縦横無尽に伸び、自分たちに向かってきた氷の針をそれぞれが払いながら迷惑そうに戦いの様子を見守っている。
氷の針が揺れる。
それと同時にカラミィーテの瞳が輝き舌なめずりをして歓喜の笑みを浮かべる。
カラミィーテが派手に砕け散る氷の針の欠片を杖で払ったとき、茶色い毛の生えた木の幹ほどもある太い腕が杖に当たり杖が吹き飛んでいく。
杖の無くなった手を見て、目を見開き驚くカラミィーテを黒い影が覆う。
「散っていた我の同胞の仇、死を持って償うがいい」
身の丈4メートルはあろうかという巨大な体は茶色い毛で覆われ、銀の胸当て左肩と両拳を守るガード、腰当てとすね当てを装備する。顔はゴリラに近くオールバックにした長い髪は肩まで伸び、特徴的な鋭い二本の牙が下顎から伸びている。
「ま、魔王……ノルデン……うそっ、あたしの杖が……」
先ほどまでの勢いが嘘のように顔面蒼白になったカラミィーテが、魔王ノルデンの名を呼び首を横に振って後退りする。
真っ赤な目を光らせ振り上げた拳の影がカラミィーテを覆い、怯えた表情に影を落とし絶望感が増した顔でカラミィーテが震える口を必死に開く。
「ご、ごめんなさい。調子に乗って魔族を沢山倒してしまいました。罪を償いますから、命だけは助けてください! お願いします!!」
「否」
目に涙を溜め必死に訴えるカラミィーテの顔面に、ノルデンの拳が無慈悲に振り下ろされる。
巨大な拳が放つ衝撃は凄まじく、空気をも振るわせる。だが、四方に散ったトルナードたちは微動だにせずじっと様子を窺っている。
「くっ、くっく……ぷっ、ぷはぁ! あはははははははっ!」
ノルデンの巨大な拳から笑い声が聞こえたかと思うと、拳がゆくっりと押し返されカラミィーテの姿が露わになる。
右手だけで軽々と巨大な拳を止めるカラミィーテは、左手でお腹を押さえて笑い始める。
「『否』だってぇ~だせえーの。変な喋り方しやがって、エリュプの親戚じゃねえかっての!」
ノルデンの拳を受けたままのカラミィーテに名前を言われ、眉をぴくっと動かすエリュプだが、そんなことはどうでもいいとカラミィーテはノルデンを狂気の溢れる瞳で見る。
「魔法使いの杖を奪ったら魔法が使えないとか、いつの時代に生きてんのさおっさんよ。年取って脳みそまでしわしわになってんじゃねえの?」
自分のこめかみを指でぐりぐりし、舌を出して挑発するカラミィーテに向かって遠く離れたティフォンが口元に手を当てて声を上げる。
「カラミィーテちゃーん、脳みそはしわが多い方が賢いのよ~!!」
「まじか⁉ じゃあつるつるが正解か。てなわけでおっさんの脳みそはつるつるだ」
カラミィーテとティフォンが言葉を交わしている間にも、ノルデンは拳に力を込め押しつぶそうとしているのは小刻みに震える体から見て取れる。
そんなノルデンを馬鹿にした目で見たカラミィーテが右手でノルデンの拳を押すと、バランスを崩したノルデン目がけカラミィーテが拳を振り抜く。
細い腕から放たれたとは信じられない衝撃は巨大なノルデンを吹き飛ばし、氷の針地獄へと叩きつける。
抉れた地面と衝撃で崩れた氷の針が散らばる大地で、ノルデンが体を震わせながら立ち上がる。
「おっと、逃がすわけないじゃん」
カラミィーテがパチンと指を鳴らすと周囲の氷が蛇に変化し、ノルデンの体と足に巻きついて動きを封じる。
「魔王オレガノだったっけ? この世界の魔王はつええって聞いたから念のため四人でやっちゃったから瞬殺しちゃったけど、結局あたし一人でやっても対して変わんねえの。ま、その辺の雑魚よりは楽しめたけどさ」
右手の人さし指をくいっと動かすと、遠くに飛ばされていた杖が飛んできてカラミィーテの手に収まる。
「さてさて、おっさんの両手だけは拘束してないわけよ。つまりなにが言いたいかってと、仮にも魔王って名乗るなら受け止めてみせてくれよってことなわけ! ぷふっ、睨んだってあんたに拒否権ないしー」
カラミィーテが杖を空に掲げる。
「メテオ」
ニンマリと笑ったカラミィーテの放った言葉と共に、彼女の足下に巨大な魔法陣が展開される。魔法陣に描かれた幾つもの文字が回転し文字の形を変えながら言葉を紡ぎ、高まっていく魔力が呼びよせる巨大な大岩は、空よりも遥か上から降り注ぎ全てを消し去る魔法の詠唱。
メテオの呪文を聞いてトルナードは舌打ちをし、ティフォンは困った表情で微笑み、エリュプは無言でその場から離脱する。
そして空に現れた巨大な岩をじっと見るノルデンは唯一自由な両手の拳を握りしめ、歯ぎしりをする。
「ここまでか……部下を逃がす時間は稼いだつもりだったが、まさかメテオとはな。出来るだけ遠くに逃げてくれよ……」
呟いたノルデンは近づいてくるメテオを鋭い眼光を宿した瞳で睨みつけるが、ふと口元を緩め笑う。
「なあオレガノ、貴様まだ生きてるんだろ。我ら魔王は仲は悪くとも互いの死を感知できるくらいの気心はある。我の次に強い貴様に託してやる。だからこのくそったれなガキどもに教えてやれ、魔王を馬鹿にするなよと」
ノルデンは自分の胸に手を当てると、体の中から出て来た氷の結晶のような美しい形の水晶を取り出す。
「我の『魔王の真核』をくれてやるんだオレガノ、どうにかしなかったらぶん殴ってやる。ついでにウェスティー、シラントロお前らも魔王を名乗るならコイツらをどうにかしろ!」
━━うおおおおおおおおおっ!!
ノルデンが雄叫びを上げ、自分の体や足に氷の蛇が食い込み肉が裂けるのも構わす強引に立ち上がると、落ちてくる巨大なメテオを両手で受け止める。メテオとノルデンがぶつかっ瞬間発した衝撃と一瞬の眩い光に紛れ、高速で光の球が空高く飛んでいく。
「わ~お! あたしの束縛を強引とはいえ外すとはさすが魔王じゃん。まっ、くそよえ~ってのは変わんねえけどさ!」
ノルデンの行動を見て嬉しそうに笑うカラミィーテの目の前で、ノルデンはメテオを受け止めたまま成す術なく押しつぶされていく。ノルデンを飲み込み、なおも勢い止まらないメテオは地面に食い込み大地を押し込み始める。
大地を震わせながら砕き地表に食い込んでいくメテオを見て、カラミィーテが狂気の混ざった満面の笑みを浮かべる。
「このまま全部壊してやろうかなぁ。ちまちまやるのは性に合わないんだよねぇ~」
北の大地をゆっくりとだけども確実に破壊し消し去っていくメテオを見て、ニマァっと至福の笑みを見せるカラミィーテが呟く。
そのときメテオの上に上空から稲妻と共にトルナードが落ち、立ち上がると鞘から剣を抜く。
強く握った剣の真っ白な刀身に電撃が走ると、黒い鎧に引かれた金色の線が輝き始め線を中心にして鎧がスライドし広がる。それと同時に黒い髪にもバチバチと電流が弾け、髪の毛が白く輝き始める。
自身が動く度、鋭く走る電撃をまとうトルナードが、剣を振り下ろすと足下のメテオをいとも簡単に切り裂く。
真っ二つになったかと思った一瞬、刹那で細切れに変わり果てこの世からメテオは消え去ってしまう。消え去ったメテオが抉った地面にいつの間にか立っていたティフォンが指先からあふれる光を大地に落とす。
「ヒーリング」
優しさに溢れた呪文の名前がティフォンの口からこぼれると、メテオによって抉れた大地が緑の光で満たされ、刹那の間に元の氷の大地へと戻る。
「カラミィーテちゃん、や・り・す・ぎ・よ」
指を振りながら注意するティフォンに対し、カラミィーテは舌を出して自分の額をコツンと叩く。
「てへっ、ごめんなさーい」
「もー可愛いから許しちゃうけど、次はダメよ~」
女子二人のやり取りを見てトルナードとエリュプが目を合わせ、肩をすくめながらため息をつく。




