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ごくあく魔王 と あんさつメイド の た・て・な・お・し?  作者: 功野 涼し
甘い誘惑は罠でしかない

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24/136

3

 次の日の夕方過ぎ、二人はチューラ酒場の看板が掲げてある酒場の入り口をくぐる。薄暗い店内は既にまばらだが客が座って酒を飲んでおり、程々の賑わいを見せている。


 酒場には馴染のない小さな子供とメイドの組み合わせの登場に皆が注目する中、クミンはカウンターにいるマスターらしき男に近づく。


 マスターはクミンたちの存在に気がついているであろうに目を向けず、無表情でグラスを拭いている。


「すいません、こちらにラッハさんの紹介で来たんですが」


 クミンが声をかけるとマスターはチラッと目を向けクミンとオレガノを見る。


「あぁ……ラッハなら奥の個室にいる。個室はあっちの通路を通った先だ」


 マスターが指さす方を見た二人が再びマスターを見ると、マスターが小さく頷く。

 それを行ってもいい合図だと判断した二人は、奥へと向かう。


 狭い廊下を進むと突き当りの鉄のドアが現れる。


 クミンとオレガノは目を合わせて頷いたあと、クミンがドアをノックする。


「誰だ?」


 ドアの向こうからくぐもった声が聞こえてくる。


「ラッハさんの紹介で来たのですが」


 クミンが答えると、ドアの一部がスライドし、小さな穴から目だけが覗き見る。

 血走った目がギョロギョロと二人を見ると穴は塞がり、反対側からカチャンと音が響く。


「入れ」


 声に従いクミンが鉄のドアを押すと、ドアはゆっくりと開く。

 隙間から中へ入ると、口元を布で隠した目つきの悪い男が壁を背もたれにして椅子に座っていた。

 血走った目で二人を下から上まで凝視したあと、顎で奥へ行けと指示する。クミンとオレガノは目を合わせると、目つきの悪い男の指示に従って奥へと歩みを進める。


 一本道の廊下に沿って奥に行くと木の扉があり、それを開けると広い部屋が現れる。部屋の中には白いテーブルクロスがかけられた丸テーブルがいくつか並び、各テーブルにはメイドや執事姿の男女がおり二人が入って来て案内されると飲み物の希望を聞かれる。


「この中から選ぶのですか? えっとお金は?」


「はい、全て無料となっていますからご安心ください」


 メイド姿の女性に、にこやかに言われ同じくメイド姿のクミンは戸惑いながらもメニュー表を指さしオレンジジュースを二つ頼む。


 一口グラスに口をつけ、程よい酸味と果実の甘味に目を見開くクミンは隣で、同じく一口飲んで気に入ったのか一気に飲み干したオレガノが、グラスを掲げ「うまいのじゃ」と叫ぶ姿に額を押さえ神妙な顔をする。


 素早くやってきたメイドによって、おかわりのオレンジジュースがグラスにそそがれるのを、オレガノはキラキラした目で見つめる。


「お、遅れて申しわけありませんっ! ってうわわわっつ⁉」


 オレガノの隣に慌ただしく駆けてきた人物が止まれずにテーブルにぶつかった衝撃で、オレンジジュースが激しく揺れる。


 波立つオレンジジュースを見てあわあわするオレガノが、グラスを押さえてオレンジジュースを必死に守ると隣の人物を睨む。


「ごっ、ごめんなさい」


 ぶつかった勢いで乱れた青色の髪を揺らし、深々と頭を下げる少女は黒い瞳を揺らしながら少しオドオドした雰囲気でオレガノを見つめる。


「まあよい、余は寛大じゃから許してやるのじゃ。お前も飲み物を頼むといいのじゃ」


「はい、ありがとうございます。いただきます!」


 自分が御馳走するわけでもないのに、偉そうに少女に飲み物を注文させるオレガノを見たクミンが額を押えて首を横に振る。


「余の名前はオレガノなのじゃ。お前の名前はなんというのじゃ?」


「私はローリエといいます。あのっ、オレガノさんからどこか高貴な雰囲気を感じるんですけど、どこかのお嬢様なんですか?」


 ローリエの質問にクミンが割って入る。


「オレガノ様のお家の事情は少し複雑ですので、察していただけると幸いです」

 

 設定に沿って曖昧なことを言うクミンに、ローリエはハッとして口を押える。


「ご、ごめんなさい。深い事情があるのも知らずに聞いてしまって」


「い、いやそんなに憐れみの目で見ないで欲しいのじゃ。なんだか惨めになってきたのじゃ……」


 うるうると潤んだ瞳で見るローリエの視線に耐えれなくなったオレガノが、たまらず目を逸してしまう。


 ちょうどそのとき、部屋の奥にある扉が開き数人の男女が入ってくる。その中にはクミンたちをここに誘ったラッハの姿があった。

 ラッハは、クミンたちに気づくとふっと笑みを見せそのまま集団の流れに沿って会場にいる皆の前に横一列に並ぶ。


 真ん中に立つ初老の男性が一歩前に出ると、大げさな動きでお辞儀をし、頭を上げると会場にいる皆を、気味悪いくらいに満面な笑みを浮かべた顔を横に流し見ていく。


「皆様! 本日は『愛のギフト・コーアコア』の説明会に、よーこそいらっしゃいました! わたくし代表を務めていますコーアと申します。以後お見知り置きを!」


 コーアが両手を広げ声高らかに挨拶をすると、横に並んでいるラッハたちが拍手をする。それにつられてクミンたちも拍手をすると、コーアは満足そうに手を振り応える。


「それでは早速ですがお集まりいただいた皆さんには私たち『愛のギフト・コーアコア』の愛のギフト配りをお手伝いしてほしいのです! 愛を配り、そしてお金が手に入る! 良いことをして心も懐もホッカホカ! そんな素敵なお話をお教えいたします!」


 コーアが高らかに宣言するその内容がまだ理解できていない、クミンたちをはじめとした参加者がどよめくと、コーアは自身の左肩辺りで手をパンパンと叩く。


「詳しい説明は各テーブルに派遣しました担当者がいたしますので、よーく聞いてください」


 コーアが手を叩くとラッハたちが各テーブルに向かって散る。


 クミンたちがいるテーブルにやってきたラッハが、深々とお辞儀をするとわざとらしいくらいに優しく微笑む。

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