プロローグ
私立桜川高校、1―A組にて私、神樹ラビは人生最大と言っても過言ではない窮地に立たされていた……。
たまにできる完璧な形の卵焼き(お手製)を気分よく頬張っている私の前には、すごく真面目な顔をした人物がいた……。
「神樹ラビさん、結婚を前提に私と付き合ってほしい!」
「ブッッッッッッ―――‼」
あまりに唐突な一言に、思わず米粒を吹き出す。
わ、私の聞き間違い……?
今、付き合ってほしいって……。
しかも結婚前提⁉
いや、聞き間違いだ、100%そうだ!
……。
え、なんでみんなそんな顔で私をみるの?
教室は昼飯を囲む生徒たちのざわつきで埋もれていたはずなのに、全ての視線が私に向けられた。
なるほど、どうやら聞き間違いではないらしい……。
ウソでしょ……。
「すまない、何か変なことを言ってしまったか」
「変なことしかないですよ! け、けけけ、結婚前提の付き合いって……‼」
「いや、私はいつだって本気だ。そうだ、よかったら連絡先を交換しないか?」
すごく真剣な表情なのに、急にとんでもないことを口走っているこの人は、二年生の先輩、サイレントクイーンの異名をもつ、甘条エナだ。
天衣無縫、彼女が歩いたとこは花が咲き、蝶が唄う。
そして背中からは、薔薇のオーラが放たれている。
凛とした佇まいに、引き締まった体系、そして私の心臓を貫くように向けられる切れ長の瞳も相まって、まるで氷の女王のようだ……。そして全生徒から注目の的になってる有名人でもある。
教師陣も困りごとがあればまっさきに彼女に事を頼む始末。
噂によれば下手な教師に代わって授業をしたり、まだ二年生なのに生徒会長を任されたとか……。
さすが、サイレントクイーンの名も伊達ではない。
そんな完璧超人がなぜ、冴えない凡人中の凡人である私のとこに⁉
「連絡先……⁉ そ、そんなこと急に言われても……え、え~~っ‼」
顔が熱い。
ここは南国か……? あまりに急なイベントに、脳がオーバーヒートを起こしている。
いや、平静を保つんだ神樹ラビ!
私立桜川高校1年生、好きなものはあんぱん! 嫌いな食べ物は茄子!
明日の予定は明日の予定は……。
冷静になるよう、別の事を考え始めた私を察したのか、先輩は―――。
「いや、ほんとにすまない。迷惑だったよね、急に」
「ふぇっ……?」
今までの勢いは何処へ。
シュンと下を向き、落ち込む甘条先輩。
「え……、い、いえ……こちらこそ、なんていうか、すみません……?」
そんな顔をされてはなんだか私が悪いように思ってしまい、反射的に謝ってしまった。
美人が困った顔をすると強制的に、させた私に全責任が降りかかってくる気がするのは何かの技なのか?
サイレントクイーン……いや、甘条先輩恐るべし。
というか、ほんとにどういう状況……。
告白……、そう、告白だよね、これっ⁉ さっきからクラス全員の視線がこっちに向いてるんですけど⁉ ただでさえ目立つのは好きじゃないのに、これ以上注目の眼差しを受けたら胃に穴が開きそうなんですけど!。
「いや言いたいことをしっかり言わなかったのは私の落ち度で、神樹さんを困らせてしまった。こういうことは率直に言わなければな……」
「えっ……?」
私、さっきから語彙力失ってるし、同じ反応ばっかしてる気がするけど許して……。
冷静さなんてとっくに失ってるから……!
「言いたいこと?」
と、私が逡巡していると、甘条先輩の綺麗な手が勢いよく私の手を包み込む。
「ちょ、甘条せんぱっ……! 顔近っ……!」
「神樹ラビさん、私はあなたのことが大好きだ! 付き合ってほしい!」
「っっっっっ――――――‼」
両手に広がる僅かな温もりと、込み上げてくる心身の不調になすすべなく私はその場で卒倒した。
ドタバタ百合ラブコメ、スタートです!




