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【☆★おしらせ★☆】


あとがきに、

とても大切なお知らせが書いてあります。


最後まで読んでくださると嬉しいです。

 トーコの病院で働く医療スタッフは、トーコだけではない。


 天導協会を離れた聖女たちとも、共に治療を行っているのだ。


 そのうちの一人、聖女セラが「あの……トーコ先生」と相談にやってきた。


「どうしたんですか」


 カルテをまとめていたトーコが、セラに向く。


「実は、不可思議な症例を抱えていまして……」


「診ましょう。患者はどこに」


「あ、いえ……少し複雑で。とりあえず来ていただけますか」


 トーコとセラは、別の診察室へと足を運んだ。

 そこには、年若い青年が不安そうな顔で椅子に座っている。


 トーコが魔力視を開くと、青年の体に身体的な異常は見られない。しかし何か思い悩んでいるのか、体内の魔力が揺れ動いていた。


「実は……妻が、最近ずっと元気がなくて」


「セラ、カルテは」


 この青年の妻のカルテも、当然ある。村の住民たちは皆、ここで定期検診を受けていた。

 血液の数値に異常なし。持病もない。


「治療院に行こうと言っても、大げさにすることはないと言って聞かないんです」


「熱もなければ、食中毒でもないようで」とセラが付け加えた。


「なんとなく体が怠いそうで……。美味しいものを食べれば元気になるかと思って色々試しているんですが、全然良くならなくて」


 患者が自己判断で来院しないというケースはある。しかし話を聞く限り、深刻な状況であることは確かだ。


 それに。


「……セラ、カルテをきちんと読みましたか」


「はい。直近の数値はきちんと……」


「数値だけを診ていると、見えないものがあります」


「それは……どういう」


「往診へ行きます。ついてきてください」



    ◇



 トーコはセラを連れ、青年とともに彼の家へやってきた。


 部屋に入ると、女性が布団の傍でぐったりしていた。


「治癒魔法をかけますか。それとも……」


「必要ありません」


 トーコは女性のもとへ向かった。


「こんにちは」


「……こんにちは」


 明らかに元気のない女性に、トーコが静かに話しかける。


「お茶を……」


「大丈夫です。それより」


 トーコが言った。


「赤ちゃんを、見せていただけますか」


「あか……ちゃん……?」


 セラが首を傾げた。トーコは女性と一緒に、隣の部屋へ向かった。


 ふすまを開けると、ベビーベッドの上で赤ん坊が眠っていた。


「赤ちゃんがいたんですね……」


「ええ。カルテは直近だけでなく、最初から通して読みましょう、セラ」


 カルテは通院歴が長くなるほど量が膨大になり、遡るのが大変になる。だからセラは直近の数値しか確認していなかった。


 しかしトーコが診ていたのは、そのカルテの厚みだった。

 そこにはきちんと、当院での出産とその後の入院が記録されていたのだ。


 ふすまを閉じて、部屋を離れる。


「最近、気分がひどく落ち込んだり、訳もなく涙が出たりしませんか」


「……します……!」


 やはり、とトーコが頷く。


「それと……赤ちゃんを可愛いと思えない、ということはありませんか」


「な……何を言ってるんですか、先生。そんなはずが……おれたちの子供ですよ」


 トーコは目で、旦那を制した。今は黙っていてほしい、と。


 女性はうつむき、小さく震えていた。しかしトーコの目には、図星をつかれて心が揺れていることが映っていた。


「奥様は、産後うつにかかっています」


「さんご……うつ……?」


 旦那が首を傾げた。初めて聞く言葉だろう。


 精神疾患という概念が、この世界では名前すらついていないのだから、無理もない。もっと医療知識が広まってくれれば、苦しむ患者が減るのに。


 トーコは女性を見て、穏やかに言った。


「大丈夫。あなたは、心の病気にかかっているのです」


「心の……病気?」


「ええ。子供を産んだお母さんの体では、赤ちゃんを守ろうとする脳の働きが急激に変わります。そこへ、慣れない育児、睡眠不足、相談できる人がいない孤独感が重なると、心が病気にかかってしまうことがあるんです」


「病気……」


 ぽろぽろと、女性が涙を流した。


「そうです。これは、病気なんです」


「わ、わたし……辛くて……子供が可愛いと思えないなんて、誰にも言えなくて……親にも、旦那にも……こんなふうに思うわたしは、なんてだめな母親だって……ずっと辛くて……」


 うっ、うっ、と嗚咽が漏れた。


 トーコはゆっくりと、女性の肩に手を当てた。


「大丈夫。あなたが悪いわけではないんです。まずは旦那さんやご両親に相談して、育児を手伝ってもらいましょう。そして、できる限り十分な睡眠を取るようにしてください」


 旦那がトーコの言葉を聞き、涙をこぼしながら妻に近づいた。


「ごめん……おれが馬鹿だった。育児は妻がするものだと、おまえだけに負担をかけてしまっていた。ごめんよ……」


「でも……あなたは外で仕事があるし。育児は女の仕事だって……」


「何を言ってるんだ。これは、家族の問題だ。皆で協力しよう。おれも実家の母に声をかけてみる。みんなで、この子を育てていこう」


 二人が涙ながらに抱き合った。


 トーコは静かに息を吐いた。


 一方、セラが小さく頭を下げた。


「すみませんでした……。体の病気や怪我を治すことばかりに目が向いていました。治癒師失格です……」


 トーコはセラを責めなかった。


「そうですね。ただ、これで次からは、心の病気かもしれないという視点が増えたでしょう。次から気をつければ良いのです」


「先生……」


「それに、治癒師失格なんて言葉は、無紋の失格治癒師である私には言わないでください」


 トーコなりの、励ましだった。


 セラは、少し考えた。


 紋章も、奇跡の術も持たないトーコが、これだけ多くの患者を治してきている。きっと自分には計り知れないほどの挫折や失敗を、繰り返してきたのだろう。


 それでも彼女は、医師として患者に向き合い続けている。


 紋章の有無は関係ない。大切なのは、自分の役割を全うしようとする意志だ。


 ふてくされて落ち込むことは簡単だろう。だがそれで、どれだけの人が救えるというのか。

 無紋の先生が頑張っているのに、自分がうずくまってどうするのか。


「すみませんでした、先生。安易な道に逃げようとしていました。ちゃんと頑張ります。治癒師として、人を救います」


 トーコは「よく言いました」と言い、後輩の頭をそっと撫でた。

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