第22話 みなごろし
体が光って変化を始めた。
あ、ちょっ、進化中の攻撃はダメでしょ!
飛来した手斧を回避しようとしたが、体が動かない。
当たる――えっ!?
バリアのような謎の力によって防がれ、手斧が戻っていった。
……ゲーム的な仕様……か?
わからないがこれで安心だ。
進化も終わり、光が収まった。
ピコン。
〈身体のダメージ及び状態異常を全てリセットし、進化が完了しました〉
〈あなたは種族:クレイジーキャットから、種族:ワンダーキャットになりました〉
〈それに伴い、新たなスキルとアビリティを習得しました〉
〈スキル【不思議の国】を習得しました〉
〈アビリティ【スマイル】を習得しました〉
〈アビリティ【即死無効】を習得しました〉
ふむ?
外見を確認してる暇はないけど、レベルは?
ステータス!
名前:クレイ(仮)
種族名:ワンダーキャット
レベル:30
スキル:【ネコパンチ】、【ドランクブレス】、【狂気の瞳】、【不思議の国】
アビリティ:【人語理解】、【酒豪】、【毒耐性・大】、【美化・小】、【精神耐性・大】、【悪食】、【野生の勘】、【スマイル】、【即死無効】
レベル30……これなら勝てる! はず。
飛来した手斧を回避し、すぐ近くまで来ていた男にこっちから近づく。レベルが進化したお陰か前よりずっと速い。
くらえっ! 【ネコパンチ】!
飛び掛かって爪を出した前足でぶん殴りにいく。男は俺の速度に追いつけず、頬に当たって数歩よろめいた。
むっ、耐えた!
再び飛び掛かって【ネコパンチ】。
「――【岩殻】」
頬と口から血を流している男が呟き、黄土色のオーラが圧縮されて鎧のようになった。そのせいで威力を大きく軽減され、顔面を殴ったのに一歩動いただけになった。
手斧が男の手に戻り、反撃に動いた。
「【ドッペルウェポン】」
スキルの名前だろう言葉を呟き、男の傍に分身だろう半透明の手斧が二本、宙に浮いた状態で出現した。そのまま手に持っている手斧が振るわれ、俺が回避すれば遅れて分身の手斧が動き、俺に飛来する。
レベルが上がって影響から動体視力もしっかり良くなっているので、俺は空中で足を使って分身の手斧を弾いて防いだ。
連続で手斧が振るわれ、分身も含めて四連撃が延々と振るわれる。手斧が一本投げられても片方で両手分の働きをするので隙がない。
「――ならば!」
埒が明かないと踏んだのか、男が構えた。
大技か?
それとも搦め手か?
距離を取って回避する為に意識を集中。
「【ロックブラスト】!」
手斧が地面を擦りながら振るわれた。その瞬間に大量の土砂が津波のように襲い掛かってきた。
――避けられないっ!
面による攻撃で逃げ場所がなく、俺は大量のつぶてを浴びながら土砂と衝撃波によって吹っ飛ばされた。
うぐっ……全身が痛い。
広範囲攻撃で射程もあるとか、随分使い勝手がいいじゃん。今まで使わなかったのはなんでだ?
血と土で汚れた体を起こして男を見れば、息が上がっていた。
……なるほど。体力を消耗するからあんまり使えないのか。歳だな。
逆に言えばチャンスだ。
もう一発大技を撃たれないように横に動きながら接近。男は手斧を投げるがさっきよりも速度が落ちている。
これなら体力勝負でやれる! 【ネコパンチ】!
再び飛び掛かって攻撃。やはり一歩動くだけで耐えられてしまう。けれど確かにダメージが入っている。
【ネコパンチ】! 【ネコパンチ】! 【ネコパンチ】!
攻撃を回避しながら連続で殴れば、男の攻撃は徐々に精彩を欠き、動きそのものが鈍り始めた。
「くぅっ、【ロックブラスト】!」
残念、外れ!
もう一発大技を撃ってくるが、動きが鈍っている今、接近した状態であれば攻撃が広がる前に回避など容易い。
さぁ、倒れろ!
【ネコパンチ】! 【ネコパンチ】! 【ネコパンチ】!
「く――そ――」
執拗に顔面を狙った甲斐があり、男は最後に悪態を吐いて倒れた。発動していたスキルやオーラも消え、手斧が手から離れている。
……勝った?
……勝ったんだ。勝った! やった!
――でも、油断しちゃダメだ。トドメは刺しておかないと。
興奮して飛び跳ねたい気持ちを抑え、すぐさま男の首に牙を突き立て、肉を噛みちぎって殺した。
ピコン。
〈レベルがあがりました〉
「よし。あとは……生き残りの掃討だ」
俺は村の中を駆け回り、まだ殺せていない住人を殺して食べた。幾つかレベルが上がった。
それから家のドアを破壊したり窓から侵入して屋内をくまなく見て回り、息を殺して潜んでいた女子供や老人や臆病者を食べた。
ピコン。
〈レベルが上がりました〉
〈アビリティ【人化】を習得しました〉
「ほう、人化……」
大量に人間を食べるのが条件だったんだろうか?
まぁ、とにかく良かった。これ以上ネコとして生活していたら、人に戻れなくなりそうな気がしていたから。
でも、まだ人化はしないでおこう。後でじっくり堪能したいし。
家の見回りを続け、最後に残しておいた立派な家の中に入る。
閉まっているドアを破壊すれば集落の長の娘だろう、貴族の令嬢並みに綺麗な女性が短剣を両手で持って構えていた。
その手足はガタガタに震えているが、涙を浮かべる目は生きる意思がはっきりと感じられた。
……その心の強さに敬意を表して、安らかに死ぬといい。
「おやすみ」
【ドランクブレス】
「――あっ」
酒気を帯びた煙を吐けば、女は即座に眠って倒れた。
俺は女に対して一礼し、ガブリとその首筋を噛んで殺した。
ピコン。
〈アビリティ【美化・小】が【美化・中】になりました〉
「ふぅ。これにて殲滅完了。――お?」
一息ついたところで、この部屋に大きな鏡があった。
気になって覗き込んでみると、進化したことで変化した自分の体が映った。
体格は変わっていないが、体毛が紫と白の縞模様になっている。前より毛艶と毛並みが良くなっており、美しい顔はニヤニヤとした笑顔が貼り付いていた。
不気味な笑顔だ。
それよりもプランとマッド、結局来なかったな。探しに行くか……。




