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LAST GAME  作者: よむよみ
第七章 光の世界 テストプレイ編

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episode07

 七日目。


 私は今、とある街の視察に訪れている。

 新しく整備された道、その道に合わせて作られた街並み。

 以前来た時とは全く違う、とても立派な大都市になっている。

 震災で大きな被害を受けた街は、見事に復興していた。


 少数の護衛を引き連れ、ゆっくり歩く。

 にぎわってはいるけれど、混雑という程ではない。

 変装してお忍びで訪れているから、私が女王だということは気づかれていないみたい。


 道の両端には腰ぐらいの高さの棒がお行儀よく並んでいる。

 その棒は、近づくと手が現れて棒の先端にその手をつける。

 護衛隊長のケイは、いちいち敬礼を返している。見ていて微笑ましい。

 昼間はあまり目立たないけれど、足元を照らす機能もついてる。

 7色に光り輝いて、夜なのに虹みたいと評判らしい。

 長い道だったけれど、意外とあっさり目的の場所にたどり着く。

 道自体に歩行速度上昇のサポート魔法が自動起動している。

 サポート魔法の進化には目を見張るものがある。

 街の中心へと続くこの道は、最新魔法技術がふんだんに使われている。


 私は門番に軽く会釈をして正門を通り抜ける。

 門には幾何学的なデザインが施されていて、知性が感じられる。

 敷地内にはおそらくここの学生だろう、多くの人がゆったりと歩いていた。


 この街の発案者は私。簡単な計画は私が作った。

 けれど、大部分は皆の自由にさせた。

 多くの人が自由に思い思いの建物を建てていた。

 その割には住宅、商業、工業、バランスよく作られていると思う。


 そんな中で、街の中心のこの区画だけは何を作るか決めていた。

 この国の発展のために必要だと思った。

 それがこの大学だった。


 以前から考えてた。

 この国には、魔法、鍛冶、工芸、土木など多くの技術がある。

 どの技術もこの国で育った素晴らしい技術だ。

 けれど、それぞれの技術は個々の技術として発展しつくしていて、今は停滞を迎えている。

 でも…、立ち止まっていてはダメだ。そろそろ融合する時だ。

 そんな意図を込めて、新しい何かを作りたかった。

 それには、学校がいいと思った。

 そんな建物をこの街の中心に配置することにした。


 だから、大学と言っても、普通の大学とは違う。

 この大学の学生は、社会人が中心だ。


 経営者達は、こんな学校作らずとも勝手に集まるのだけれど、決まってコスト削減の話ばかりだ。

 税理士とつるんで節税や補助金の話をしたり、他の経営者を参考に人員削減してばっかりだ。

 この国のため、なんて考える経営者はほとんどいない。

 そして結局、稼いだお金は、海外への投資に消えていく。

 人件費の安い国で投資をした方がリターンは大きいと、彼らは知っている。


 でも、現場で働いている人たちは違うはずだ。

 純粋に技術を突き詰めたいと考えている人は多い。

 皆に技術や便利さを届けたいと思っている人は多い。

 農家やお店、お弁当屋だってそうだ。

 おいしいものを皆に届けたいと思っているはずだ。

 その思いはもしかしたらただの自己満足かもしれない。

 けれど、きっとこの国の未来に役立っている。

 そして、そんな人達を集めたら、きっともっと新しい何かが起こるに違いない。

 だから生徒は、働いている社会人を中心にした。


 そんな考えで作った大学、ぜひ一度この目で見てみたいと思ってた。

 市長からのせっかくの視察のお誘い、断るわけなかった。


 きまぐれに大きな講堂に入る。

 今は休み時間のようだ。学生たちがお話してた。


「当たり前の説明って難しいよな……」

「あー。わかる。

 俺らからしたら“1+1=2"ぐらい当たり前の事なのにな……。

 わかるように説明してくれって言われるのな」

「セキュリティーホールつぶすためのパッチ適用なんてやって当然なのにな……」

「挙句の果てに、システムを止める必要があるのは俺らの技術力が低いせいだって言われるんだぜ……」

 この世界でも、技術屋は肩身が狭いみたい。


 この学校には講堂の他にも、多くの施設がある。

 溶接したり、生産したりとこの学校の中で何でもできるようになっている。

 産業の数だけ、施設があると言っても過言ではない。

 多くの学生たちは気になる分野を見つけては見学している。

 社会人経験を積んだ人たちが他分野を見る目は、右も左もわからずにただ勉強していた頃とは目の輝きが違う。

 自分はこっちの方が向いているかも、とか、自分の仕事に活かせないかとか、様々な事を考えている。


 この大学ができてまだ間もないけれど、多くの新しい産業が生まれたという噂がある。

 それに、功績は技術面だけではなかった。


 通信機器の発達によりこの世界の輝かしいところばかり見て高望みしていた高嶺の花子さん達も、この国の平均を知って身近な気の合う人とくっつき始めたみたいだ。

 恋愛と言えば青春。青春と言えば学校なのだ。

 それに…、この国の平均的な人たちだって、悪くないでしょ。


 授業風景を見ていてふと思う。

 この国には多くの人たちがいる。

 手先が器用な人、体力のある人、頭脳労働が得意な人、おしゃべりが得意な人、料理が得意な人。

 いろいろな人が活躍できるように、さらに業種を増やし続ける事が大事なんだと思った。

 成長する産業に人をどんどんつぎ込むのではなく、国全体として生産性が上がればいい。

 国づくりってきっと、人、物、金を配分して生産力の向上を目指すことなんだ。



 市長に招かれて、この大学一高い建物の最上階に訪れた。

 この街全体を一望できる。

 短期間で作られたというのに、立派な街だ。

 この大学を中心に、街全体が作られているように感じる。

 街のデザインが統一されていると、こうも落ち着くものなのかと、屋上に来て改めて感じた。


 少しだけ、不格好なところがある。

 急造の都市だから多少は仕方がない。

 でも、そんな不格好なところも、私には、

「俺にはもっとやれる」

「私だってもっとできる」

「もっと仕事をよこせ……」と、そんな風に聞こえる。

 不謹慎かもしれないけれど……、いえ、間違いなく不謹慎なのだけれど、次の大震災が待ち遠しい。

 残念ながら新しい都市を作るという需要はそんなに高くない。

 次の街の建築まで、しばらく、お待ちください。


「こんな素晴らしい都市を計画するなんて、さすが女王様ですな」

 市長の声に私は、復興の際に復興担当に手渡した一枚の青写真を思い出す。

 青写真といっても白紙にペンで書きなぐったものだ。

 街の中心に正六角形が描かれ、その頂点から道路が六方に伸びている。

 矢印で正六角形を示して“学校!”左上にまとめるように“こんな感じ!”と書いた。

 そんな一枚ぺらの紙を、恭しく「お願い!」と、言葉にハートマークを付けて上目遣いで渡した。


 ……わたし、そんな大層な計画はしていない……

 あんな雑な計画を、こんなにきちんと形にしてくれた皆の方が素晴らしいに決まっている。

 嫌味かしらと思って、市長の目を見るも、心の底から尊敬のまなざしって感じ。

 私は当然という風を装って、意味深に頷いて見せた。



 とても感慨深いひと時だった。

 城に戻っていつもの報告書確認の時間になっても、時々、目を閉じて思い出す。

 でも、そんな時に限って必ず、大臣が現れる。

「少し財政状況が悪いようですな」新しい報告書を机に置いた。


 私は、報告書を手に取り貿易の項目を確認する。輸入が増えて、輸出が減っている。

 原因はすぐにピンときた。

 地震の際にお金を配りすぎた。国内消費が急増し、その分国内に回され、輸出量が減っている。

 それに、魔道具の普及も、輸入が増えてしまう一因になっている。

 魔道具に使うための一部の鉱石は、この国ではとうとう見つからず、輸入に頼っていた。


 地震対応に伴う国内消費の増加は、一時的なものだし、きっとほっといても自然と解消される。

 でも、輸入量の増加に対しては、早急に輸出量を増やす必要がありそうだ。

 輸出を増やすためには国内の生産力を高める必要がある。

 そのためには、と考えを思いめぐらせる。

 第一に、生産業に対する減税が思い浮かぶ。

 減税すれば、その分投資が増えて生産力が高まるはずだ。

 そして、生産力が高まれば、国内、国外に対して売れるものを作るに違いない。


「消費が過熱しているのですから、増税すればいいのですよ」

 大臣はそうぶっきらぼうに言うけれど、私は違うと思った。


 このゲームにも銀行業は存在する。

 お金を配った際に、お金がその数倍にも増えることがある。

 信用創造ってやつだ。

 だから、お金を配ることに対してはとても慎重になるべきだ。


 でも、同じように、お金を回収することに対しても慎重になる必要があるはずだ。

 信用創造でお金が増えていたら、お金を回収するとその数倍ものお金が消えることになる可能性がある。

 平等に税を徴収する税制が存在する以上、特定の業種からお金が失われるようなことがあってはならない。

 特に、国と民間比に対しては、敏感になっておく必要がある。

 平等、公平に徴収しているように見えて、内需に頼っている民間だけからお金を巻き上げる事につながりかねない。

 生産力はあるのに、労働力は余っているのに、それを支える消費者がいなくなってしまうのでは経済がどんどん縮小してしまう。

 欲しいものがあるのに買えない、生産できるのに売れない、そんな状況が起こってしまっては意味が無い。

 きっと物々交換の方がましだったと言われてしまう資本主義の典型だ。


 私の国は、世界一の半導体の生産力を誇る。

 新しい魔法技術だからね、私の国でほぼ独占している。

 せっかくの生産力、まずは国内での消費を考えたい。

 増税のせいでだれも魔道具を買えず、結局海外に売ってばかりになってしまってはもったいない。

 現実世界のように、大成功を収めた企業が国内に一つもないのは非常に残念な事だ。

 そんなんでは、国産の半導体が泣いてしまう。国内の消費動向に対しては注視する必要がある。

 国を誇る生産力、まずは国内で消費されるよう、お金を広く普及させる必要があるはずだ。

 私は、増税は却下し、生産業に対する一時的な減税を決めた。


 私は、机の隅に置いていた図面に目を落とす。

 街の視察の帰りに市長から頂いたものだ。

 この街を作る際、皆で計画を出し合ったらしい。

 その最終選考に残った3つの計画のうち、実際に使われなかった図面を頂いていた。


 二つの図面を机に広げ確認する。

 私の何気ない正六角形という思い付き(落書き)が、二つの図面に見事に具現化されていた。

 樹木にあふれ自然と調和している街並み。――実際に住んでみたい!

 合理的に計算された幾何学模様が妙に大学とマッチしている。――なんか頭良くなった気分!

 どちらも、今日実際に見た街と比べても、全然見劣りしていない。

 最終的には、最新の魔法技術を駆使した計画が採用されたのだけれど、どちらも立派な図面だった。


「この図面……、しまっておくにはもったいないわね……。

 売れないかしら……」私は思わずつぶやいた。



 私はログオフした後、しばらくの間、パソコンを眺めていた。

 思ったより順調に進んでいる。

 むしろ、うまくいきすぎている。

 開発者目線だと別の気がかりが気になってくる。


 ゲームの最終盤になると全てが余る。お金も物も。

 どのゲームにも起こる事だと思う。

 そして、全てを集めようとするカンスト勢が現れる。


 装備品やステータスはラスボスに合わせて調整されている。

 これはゲームだからね。最後が盛り上がるようにしたい。

 せっかくいい曲を作っていても、ラスボスがあっさり倒されてしまったら、聞けなくなってしまう。

 気分が高まる曲に、強そうな見た目、そして、実際に苦戦するからこそ、ラスボスなのだ。


 どうしてもゲーム内の研究は上限を迎えることになる。

 そして、ゲームとしてやることが無くなってしまう。

 結果、どのプレイヤーもアイテム集めやレベル上げをすることになる。

 お金が余って全ての物が安くなるかと言うとそうでもない。

 物が余って消費が減った結果、生産者も減っていく。

 特に消耗品や日持ちのしない食糧などは、逆に高くなっていく。

 そして皆、自給自足可能な冒険者に転職していく。


 ……。もしかして、現実世界でも起きるのかしら。

 ふと想像してしまう。

 生産性が向上し、物があふれた世界。

 欲しい物がどんなものでも簡単に手に入る世界。

 生産しても物があふれているから売れない。

 売れるのは食品や日用品ばかり。

 利益を確保するために、生活必需品の値段だけは高騰していく。

 効率化が進んでいて新規参入は難しい。

 そんな世界……、きっと労働者には地獄だ……。


 もし、そんな世界になったら、どうすればいいのだろう??


 私は、机の上のパソコンに目を戻した。

 そっか、私たちにはゲームがあるじゃない。

 ゲームの世界には限界があるけれど、ゲームを作る私たちに限りは無い。

 いくらでも、新しいゲームを作り続ける事が出来る。


 歴史上、文化の花が咲き誇る時がある。

 絵画や石膏、屏風など多くの芸術作品が生み出されてきた。

 いづれも戦争の合間の平和な時だったに違いない。

 世界が平和だと労働力は余る。その余力が文化を形作る。

 犯罪より、戦争より、よっぽど生産的だ。文化的だ。

 それに、私たちの想像力、創造力は無限大なんだから。


 皆がもっと、文化に、そして、ゲームに夢中になればいい。

 そんなゲームが作りたい。


 本当はもっと別の文化でもいいのだけれど、私は今、ゲームを作っているからね。

 ゲームを推したいな。


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