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第48話 粉砕(ざまあ)

 怯えで腰を抜かしそうになっているセルヴィスを真正面から見据えながら、俺はニヤリと口元を吊り上げた。


「動かないなら、こっちからいくぜ?」

「ひ、やめ——」


 一気に身体の中から魔力を練り上げる。

 同時に、杖先が真紅に輝いた。


「アルデオ——!」


 まず俺が放ったのは火属性魔法——《アルデオ》。

 詠唱の言葉が口をつくと同時に、杖の先から真紅の炎が噴き上がる。

 それはセルヴィスに向かってまっすぐに飛んでいき、まるで怒りそのものをぶつけるような勢いで突き進んだ。


 セルヴィスは防衛魔法を展開しようとしたようだが、あまりにも遅すぎた。


「ぐぎゃああああああああッ!」


 ヤツの身体にアルデオの炎がまとわりつき、一瞬で全身が火に包まれる。

 転げ回ってジタバタするセルヴィスの姿は、まさに無様そのものだった。


「はっはっはー! 苦しいか!? だったら消火してやるよ!?」


 すかさず俺は杖を振るう。


「アクエル——!!」


 水属性魔法アクエルを発動。

 杖先が青白く光り、そこから水塊が勢いよく噴き上がった。

 その水は一直線にセルヴィスに向かって飛び、思いきり全身にぶつかる。

 セルヴィスは反応する間もなく、水圧に吹き飛ばされ、闘技場の壁際に激突。

 でも俺はそこで止めない。そのまま、水を容赦なく浴びせ続けた。これでもかというほどに。


「ごぼっ、やめ! 溺れ——! うぎゅ——」

「ほらほら、念願のお水だろ!? もっと味わえよ!? ほらほらほらほら——!」

「あぐ、ごぼっ、げぼっ!」


 まだまだ、こんなもんじゃ終わらせない。

 次だ。


「せっかくのお洋服が濡れちゃったなあ? 乾かしてやろう。ヴィント——!」


 詠唱したのは風魔法ヴィント

 魔力を風に変換し、風向きと風量を操る。

 すると地面から、渦を巻くようにして竜巻が立ち上がった。

 竜巻はうねりを上げながら、壁際まで追い詰められたセルヴィスのもとまで奔る。


「う、うぎゃあああああああ!?」


 竜巻に巻き上げられたセルヴィスの身体が、空中に放り投げられる。

 ゴミクズのように宙を舞い、ぐにゃりとした放物線を描いて、闘技場のど真ん中に叩きつけられた。

 へばりつくようにして倒れた姿は、まるで潰れたカエルだ。


 とうに心は折れたのだろう。

 立ち上がろうともしない。


 だが、まだだ。

 徹底的に、骨の髄まで恐怖を刻み込む。


「足元に注意しろよ?」

「あ!? ひ……! じ、地面が……!? 溶けて……!? 下がって……!!」


 もはや死に身体のセルヴィスに向かって、トドメとばかりに放ったのは土属性魔法——《グラディス》。

 呪文発動と同時に、セルヴィスが伏せていた地面がざらざらと音を立てて砂状に崩れ、まるで蟻地獄みたいにセルヴィスの身体をゆっくりと飲み込んでいく。


「……や、やめ……た、たす……助けて……」


 もがけばもがくほど、地中に飲まれていくセルヴィス。

 ついには首まで埋まり、顔だけが地面から突き出た状態になったところで、俺はようやく《グラディス》の発動を止めた。


 俺はゆっくりと歩を進め、地面から顔だけを出したセルヴィスのもとへと近づいていく。

 そして、恐怖と絶望で引きつったその情けない面を、薄ら笑いを浮かべながら、じっくりと見下ろした。


「どうだいセルヴィスさん? 俺の一般魔法コモンスペルは。自分で言うのもなんだけど、中々のもんだろう?」

「もうやめて……許して……」

「《ルークス》一つまともに使えないクズの俺がここまで成長できたのは——まあ、俺の隠れた才能とひたむきな努力がほぼすべてなんだけど、実は友達に支えられたってのも大きいんだよね。いやあ、持つべきものは友達だよ」


 そう言ったあと、笑顔から一転、殺意を込めてセルヴィスを睨む。


「それを、てめえは踏み躙った」


 軽く杖を振るって、再び蟻地獄を再開する。

 じわじわと、セルヴィスの顔が地中に埋まっていく。


「や、やめてえ! 呪文を解いてえ!!」

「そもそも、アンタと初めて会ったとき、確か俺、言った気がするんだよね。ブラッドレイ家の家訓——《《舐められたら殺す》》って」

「ひ……! やめ……やめ……」

「いいか。一度しか言わないからよく聞けよ?」


 俺は、じわじわと地面に沈んでいくセルヴィスの顔を無言で見下ろしながら、わざと感情を込めずに、静かに言い放った。


「今後一切、アシュレイに近づくな。当然、お前とアシュレイの縁談も無し。分かった?」

「わ、わかった……! 近づかない……! 二度と近づかないことを、約束する! 約束するから! 早く助けて……!!」


 セルヴィスの必死な懇願をよそに、俺は容赦なく魔法で地面を操作して、さらにヤツの頭を地中に沈めていく。


「な、なんで!? 約束するって言ってるのに……!! むぐ……がべ……!! つ、土が……! 息が……!!」


 ついにはその口、そして鼻まで地中に埋まってしまった。

 呼吸を失い、もがきながら苦しむ様子を見届けたあと、俺はそっと膝をついて、わずかに地表に残ったヤツの耳元に顔を寄せる。


「約束を破ったら、今度こそ、《《本当に殺す》》。お前がどこに逃げようと、どんな後ろ盾を立てようとも、地の果てまで追いかけて絶対に殺す。この世の地獄を味あわせてから殺す。ハッタリじゃなく、俺にはそれができる。そのことを、よおくその身体で味わっておけ……」

「……ッ! ッ! ッ!」

「それと当然だけど、今回のことで、アシュレイの実家に下手な嫌がらせとかしないこと。それをやっても殺すから。分かったな? 分かってくれるよな? セルヴィス・ギルモア?」


 顔の半分が土の中に埋まり、声すらだせなくなったセルヴィスは、それでも生きるために、自分の意思を俺に伝えようと、酸欠で赤黒く染まった頭を必死に縦に振っていた。


 それを見届けた俺は、立ち上がって杖を振るう。

 すると地面がふるりと震え、セルヴィスの埋まっていた足元が盛り上がった。

 地面が一気に押し上げられ、ヤツの身体が砂と一緒にズボッと地中から跳ね上がるようにして飛び出した。


「ッば…!! くはあッ!! ゲボ! がはっ!!」


 九死に一生を得たセルヴィスは、暫くの間、地面に手をついて、ぜえぜえと必死に息を吸い続けていた。


 その顔は土と涙と鼻水まみれでぐしゃぐしゃ。

 七三に整えられていた金髪は乱れきっている。

 俺の連続魔法を浴びて、ズタボロになった姿に、高貴な公爵貴族としての面影はなかった。

 

 やがてようやくひと心地ついたらしきセルヴィスは、怯えきった表情で俺のことを見つめて……。


「た、助けてーーーー! ママぁーーー!!」


 背を向けて、闘技場から、脱兎のごとく逃げ出すセルヴィス。

 俺はその無様な背中に向けて親指を下に立てながら、見送ってやった。


 そしてすべてを見届けたように、立会人のアレク先輩が声高らかに宣言した。


「決着だ——この決闘の勝者は、グレイ・ブラッドレイである!」




作品を読んでいただき、ありがとうございます!


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