第47話 種明かし
時間は決闘前、寮の部屋で、アシュレイやリオンと一緒に作戦会議をしてたときまで遡る。
セルヴィスの提示した決闘条件の中で、ヤツを叩き潰す秘策を俺は練っていた。
いくつもの策が脳裏に浮かんでは消えてゆき、そして——
「よし、決まりだ」
俺はパチンと指を鳴らした。
「なにかいい方法が思い浮かんだの?」
リオンが身を乗り出す。
「とびっきりの作戦を思いついたぜ、名付けて——」
俺は少しだけ勿体つけてから、その作戦名を二人に発表した。
「魔力同調作戦! これしかねえ!」
「インタ……リンク……?」
アシュレイはそのフレーズに聞き覚えがないらしく、首をかしげている。
一方のリオンは、ハッとしたような表情を浮かべた。
俺は二人の反応にニヤリと笑ってから、作戦の内容説明に入る。
「インタリンク……端的に言うと、魔力を同調するってことだ」
「魔力の同調……?」
「アシュレイ。魔法ってのはさ、普通、自分の身体の奥から魔力を引っ張ってきて、それを自分の魔力回路につないで、魔法として発動するもんだろ?」
「ああ、そうだが」
「インタリンクは、自分の魔力じゃなくて、他者の魔力を魔力回路と接続するんだ。分かりやすく言うと、《《他人の魔力をリソースにして、魔法を発動する》》ってわけ」
「……そんなことが本当にできるのか?」
アシュレイの瞳が驚きに見開かれる。
出来る、と俺は確信を持ってうなずいた。
なぜなら、魔力同調は、原作ゲー『アルカナクラウン』に組み込まれていたゲームシステムだからだ。
原作ゲーにおいて、インタリンクは、別名「絆システム」と呼ばれていた。
要は仲間キャラとの好感度を一定上げると、戦闘時のボーナスが色々と発生するという、RPGなんかではありがちなシステムの一つだ。
好感度を上げると、仲間のMPを使って魔法を発動できるというわけだ。
ゲーム内だと敵と戦う上で、わりと使用が必須となるこのシステム。特に終盤に登場するようなボスキャラ相手には、このインタリンクを活用して、いかに立ち回るかが攻略の鍵となる。
原作ゲームにおいて、インタリンクは、そんな基本システムの一つなのだ。
「というわけで、このインタリンクを使ってだな……」
「——僕の魔力を、グレイくんの魔力回路に接続するんだね」
俺の言葉の続きを、リオンが引き継いだ。
俺はリオンの顔を見つめて、そしてうなずく。
「ああ、お前の持つ無限の魔力を借りれば、たとえ100人相手だって楽勝だぜ」
俺の言葉にリオンは照れたような微笑を浮かべたが、すぐに表情を引き締めた。
「でもグレイくん。インタリンクにはリスクもあるよ」
「なに?」
「魔法回路との適合率が低い場合、出力が不安定になったり、逆に暴走状態になったりする危険がある。そもそも他人の魔力を無理やり自分の身体の中に流し込むんだ。身体にすっごい負荷がかかると思うよ……」
「……やけに詳しいんだな」
俺が指摘すると、リオンははっと我に返ったように、慌てて顔の前で手を振った。
「あ、や……! 違うよ! む、昔、本で読んだんだよ! 魔法の理論書に少しだけのってたことがあって!」
「ああ、そうなのか」
やけにインタリンクに詳しいリオンの反応に、少しだけ違和感を抱きつつも、俺は話を前に進めることにした。
「まあ、多少のリスクはしょうがない。そうでもしないと俺の乏しい魔力量じゃ、流石に五人抜きは厳しいからな」
「あとは……そもそも論だけど……インタリンクのためには、使用者同士が強い絆で結ばれていないといけないんだよ? 僕とグレイくんで、ちゃんとできるかな」
「そりゃ大丈夫だろ」
「え?」
俺は人差し指を立てて、自分の顔とリオンの顔を、交互に指差す。
「俺とお前は、マブだからな」
「なっ、えっ……!」
俺のその言葉に、みるみるうちにリオンの頬が赤くなっていった。
リオンはぷいっとそっぽを向く。
「わ、分かったよ……! そこまでいうなら、試してみよう!」
「よし、早速、修練場でインタリンクの実践練習だ。本番まで一週間あるからな。みっちり特訓しようぜ」
俺がそう言って、席から立ち上がったそのとき。
「グレイ……ひとつだけ疑問があるのだが」
アシュレイが、ふと眉間に皺を寄せ、真剣な眼差しで口を開いた。
「疑問? 何だよ」
「インタリンクを駆使して、リオンの魔力を借りてグレイが戦う……それなら、最初からリオンを代理人に立てて戦った方がシンプルじゃないか?」
アシュレイが口にしたのはそもそも論の疑問だった。
その言葉にリオンも「あ、確かに」と同意する。
確かにそれはある意味正論かもしれない。
でも、俺は首を横にふる。
「それじゃダメだ」
「なぜ?」
「リオンは優しすぎるんだよ」
「……優しすぎる?」
俺は口元に邪悪な笑顔を浮かべつつ、言葉を続ける。
「俺はな、セルヴィスをギッタギタのグッチャグチャにしたいんだよ」
「は……?」
「アイツが泣こうが喚こうが、命乞いをしようが、八つ裂きにする。この手で直接な。でも、リオンは途中で絶対手加減するだろ? それじゃダメだ。血塗れのブラッドレイに楯突いたツケを……あのクズにはたっぷり払ってもらわねえとなあ。ひーっひっひっひ……!」
「グレイ、本当に君は……」
「性格、わっる……」
「はっはっはっ、最高の褒め言葉だぜ」
若干引きぎみの二人の反応に、俺は肩をゆらしながら笑った。
「とにかく作戦はこれで決まりだ。リオン、よろしく頼むぜ」
「……うん。わかったよ。力を合わせてセルヴィスと戦おう!」
……。
そして、時間は現在へと戻る。
「——ってわけで、僕ちんはずっとリオンくんの魔力を借りて戦ってたわけ。いやー魔力切れの演技をするのは苦労しましたよ」
俺はそう言いながら軽く屈伸運動。
それから、杖を持つ方の肩をぐるぐると回した。
「ふー、全身が疲労でカッチカチだ。実際、他人の魔力が自分の中に流れこむって、中々しんどいんだぜ? まあ、そのおかげで、魔力切れを起こしたと勘違いしてくれたみたいだけどな」
俺の態度の豹変に、呆気にとられたように固まっていたセルヴィス。やがてわなわなと、その身体が小刻みに震えだした。
「ふざ、ふざ……ふざけるな!! そんなのルール反則だろう!?」
弾かれるように立ち上がり、そのまま俺に背を向け、叫ぶセルヴィス。
「この男は、ずっと二体一で戦っていた! それを申告せずに!! これがルール違反でなくてなんだ!? 誇り高き決闘を、この男は汚した!!」
セルヴィスは俺を指差したまま、立会人のアレク先輩、そして観客席をぐるりと見渡しながら、大声でまくし立てた。
自分の主張を、どうにか正当化しようと必死だった。
俺は大きなため息を一つついてから、ゆっくりとヤツの主張を殺していく。
「セルヴィスくんさあ、《《今回の決闘のルールに二体一で戦ってはならないなんて、一言も書いてない》》だろ?」
俺はそう言って、今回の決闘の条件を、あらためてセルヴィスに伝える。
条件一、本決闘においては代理人を立てることができる。その人数は最大五人までとする。
条件二、決闘中、アイテムの使用は禁ずる。
条件三、本決闘において行使できる手段は、一般魔法に限り、固有魔法の使用、その他物理的な攻撃の一切を禁ずる。
……以上。
「魔力同調して戦うのは、この規約のどこに違反するわけ?」
「そ、それは……!」
「それに俺、戦う前にもちゃんと確認したよん?」
それは決闘前の、俺とセルヴィスが立てた代理人との間の小競り合いの中で交わされたやり取り。
その内容はこうだ。
『なんなら、五人一度にかかってきます? 五人もいたんじゃ一人ひとり相手にしてても、時間がかかってダルいでしょ? 確か決闘のルールに一人ずつ戦わないといけないなんてルールはなかったよね?』
『……あまり舐めるなよ小僧。貴様らこそ、二人同時にかかってきたらどうだ? まとめて潰してやる』
『やる気満々ですね』
セルヴィスは俺に指摘されて、そのやり取りを思い出したらしい。
バツの悪そうな表情で俺の顔を見つめる。
その額には、みるみるうちに、玉のような汗が吹き出ていった。
「そ、それとこれとは……話が、違う……!!」
「違わねーよ、バーカ。全部自分が設定したルールのくせに何言ってんだ」
セルヴィスの必死な言い訳に肩をすくめながら、俺はアレク先輩の方へ視線を移した。
「ねえ、アレク先輩。この人、往生際が悪そうなんで。立会人として、早いところ沙汰を下してくださいよ。今回の俺の行動に、ルール違反はありました?」
その確認の言葉に、アレク先輩は小さく笑ってから、ひと息ついたように口を開いた。
「……今のところ、グレイくんの行動に、ルール違反はない。魔力の供給も、代理人の支援も、この決闘においてはなんら禁止されていない。そのため、決闘は続行される」
「うそだっ……うそだうそだうそだあああッ!!」
活路を失って、わめき叫ぶセルヴィス。
その往生際の悪い姿に、観客席から容赦のないブーイングが飛ぶ。
「往生際が悪いぞ!」
「自分は代理人を五人も立てて戦っておいて、何いってんだ!」
「負けを認めろ!」
「く、クズ共があああああ……!」
俺は杖を肩に担ぎ、観客の声援を背に、一歩セルヴィスの前へ歩み出た。
「さあ、そろそろ白黒つけようぜ。セルヴィス」
「ぐ、うぐう……!?」
「安心しろ。ここからは正真正銘、俺とお前の一対一だ。誰にも邪魔はさせねえ」
恐怖で歪む宿敵の顔に向けて、俺は杖の先端をぴたりと向けた。
「ひっ——」
「俺がここまで努力して得た力で——お前を叩き潰してやるよ」
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