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第40話 決闘の条件

「と、いうわけで……セルヴィスくんとの決闘条件が確定しました」


 ディアナイツから開けて数日後。


 俺はマギナ寮の自室にリオンとアシュレイを集め、アレク先輩を通じて受け取った決闘証書を、テーブルの上に広げて見せた。


「日時は一週間後のルナの()曜日、正午。場所は模擬演習だってよ。どうやら観衆を呼んで派手にやるつもりらしいぜ。公衆の面前でセルヴィスのクソ野郎を血祭りにあげられるなんて、腕がなるよな〜」


 俺はお気楽な口調でそう言うが、その決闘証書の内容に目を通したリオンとアシュレイは、揃って表情を曇らせる。


「グレイ……君は本気でこの条件で戦うつもりか……?」

「これって……そうとうグレイくんに不利な条件だよ」


 二人の反応も無理はない。

 セルヴィスが俺に突きつけてきた決闘の条件は三つだった。


 条件一、本決闘においては代理人を立てることができる。その人数は最大五人までとする。


 条件二、決闘中、アイテムの使用は禁ずる。


 条件三、本決闘において行使できる手段は、一般魔法コモンスペルに限り、固有魔法ユニークスペルの使用、その他物理的な攻撃の一切を禁ずる。


 ……以上。


「くっくっくっ……この期に及んで代理人戦とか。セルヴィスくんの他力本願ぶりもここまで極まると、逆に筋が通ってるよな」

「笑ってる場合じゃないよグレイくん……」


 リオンは声をひそめながら続ける。


「わざわざ向こうから代理人は五人までって指定してきたんだ。きっとセルヴィスは五人揃えるに決まってる」

「そりゃそーだろうな」

「そしたら、どうしたって連戦になるじゃん。その間、アイテムで魔力を回復することもできないわけだから……」

「俺の魔力量だと、十中八九、魔力切れになると」

「うん……そのうえ固有魔法(ユニークスペル)も禁じられてるんだ。そんなの一体どうやって……」


 リオンの声は段々と沈んでいき、最後には独り言のようにかすれて消えてしまった。


  アシュレイは視線を伏せたまましばらく黙っていたが、やがてふっと息を吐き、静かに顔を上げた。


「グレイ……今からでも遅くない。この決闘は辞退するべきだ」

「あん?」

「やはり、私とセルヴィスの問題に、君を巻き添えにすることはできない。こんな理不尽な条件で、君が命を賭ける必要なんて……」

「あのなあ、お前、この期に及んでまだそういうことを言うのかよ……」


 俺は深い溜め息をついてから、決闘証書を指で軽く叩く。


「俺の立場になって考えてみ? 全校生徒の前であれだけの啖呵たんかを切ったあと、やっぱり条件が悪すぎるので決闘できません、ごめんちゃい、なんて言えるか? 言えるわけねーだろ」


 俺がセルヴィスに言った数々の悪口が、まとめてブーメランになってしまう。

 悪いけど、恥ずかしくて、この学院にはいられねえ。


「この決闘はもう、俺ごとなんだ。相手に条件を投げた以上、どんなクソみたいなルールを突きつけられてもそれに付き合うしかないんだよ」

「じゃあ、どうするんだグレイ? リオンが言ったとおり、セルヴィスは間違いなく、代理人を五人用意するぞ。それも、かなりの手練れを。金と権力にものを言わせて。グレイに代理人を立てるアテはあるのか?」

「ん……まあ、強いて言うなら、リオンとアシュレイだけだな」

「残念ながら、決闘のしきたり上、私は代理人に立つことができない。今回の決闘の報酬に、私は組み込まれてしまっているからな」

「あ、そっか……そういうもんなのか」


 今回の決闘の結果……。

 俺が勝ったら、セルヴィスは金輪際アシュレイに近づかない。

 セルヴィスが勝ったら、俺は相手の言うことをなんでも聞く。

 そういうことになっている。


「もちろん、僕は手伝うからね!」


 リオンは飛び跳ねるように片手を上げて、そう言った。

 それでもアシュレイの表情は晴れない。


「リオンを代理人に立てたとしても、二対五。いずれにしても不利な状況は変わらない。どうするんだ、グレイ」

「そーねー……」


 俺は腕を組んで、天井を見上げた。


 正直、原作主人公であるリオンが手を貸してくれるなら、百人力ではある。


 なんせこいつは無限の魔力というチートスキル持ちだ。

 今は本人がそれをイマイチ自覚していないようだけれど、うまいこと俺が原作知識を活かしてリオンを覚醒させてやってから戦ってもらえば、それでジ・エンドな気がする。


 ただ、セルヴィスのクソ野郎は、ぜひとも俺自身の手で叩き潰したいところだ。

 大観衆の面前で、鼻っ柱をへし折って、嘲笑ったうえで、血祭りにあげる。


 それでこそ血濡れの(ブラッディ)ブラッドレイ。

 俺は悪役貴族としての本懐を遂げたい。


 そうなると俺が直接戦うのはマスト。


 固有魔法ユニークスペルが使えないとなると、戦う手段は一般魔法コモンスペルだけとなる。

 いくら杖を新調したとはいえ、連戦となったら、そもそもの俺の乏しい魔力量じゃ、ガス欠を起こすのは火を見るよりも明らかだ。


 なんかいい作戦は——


 いくつもの策が脳裏に浮かんでは消えていった。

 そして。


「よし、決まりだ」


 俺はパチンと指を鳴らした。


「なにかいい方法が思い浮かんだの?」


 リオンが身を乗り出す。


「とびっきりの作戦を思いついたぜ、名付けて——」


 俺は底意地の悪い笑顔を浮かべ、その作戦名と、続けて、作戦内容を二人に発表した。


 全貌を聞き終えた二人は、俺の悪意に染まった笑みに、引き気味な表情を見せる。


「グレイ、本当に君は……」

「性格、わっる……」

「はっはっはっ、最高の褒め言葉だぜ」


 そんな二人の反応に、俺は肩をゆらしながら笑う。


「しかし、グレイ。本当に()()()()()ができるのか?」

「ああ、理論上はいけるはずだ。あとは本番までにひたすら特訓だな」


 俺はそう言って、勢いよく立ち上がる。


「よし! そうと決まれば、さっそく特訓だ! 決闘まで一週間、時間はないぞ。すぐに演習場にいこうぜ!」


 呆れたように息をつくアシュレイと、どこかワクワクした様子のリオン。

 こうして俺たちは、本格的に決闘の準備を始めるのであった。


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