第27話 杖選び……からの、新ヒロイン!?
アシュレイの先導に従って、いくつもの店を通り過ぎたあと、やがてとある店先の前で俺たちは立ち止まった。
その店は、大通りから一本外れた裏路地にひっそりと佇んでいた。
木造の外観は古びていて、その立地も含め、正直なところ、あまり繁盛してそうな雰囲気ではない。
だが、扉の隙間からはわずかに魔力が漏れ出している気配を感じた。
扉の上に掲げられた木製看板には、魔法陣の刻印と共に、かすれた金文字で「杖工房モルガナ」と書かれている。
「……随分と渋い店構えだな」
「見た目で判断するな。こう見えて、この店は王宮魔導士たちも利用する名店だ。私もここで自分の杖を買ったんだ」
「名店ねえ、でもあんまり高いモンだと、手が出ないぞ」
「まあまあ、とにかく中に入ってみよう」
そう言ってアシュレイは扉を押し開き、中に入っていく。
その後に俺も続いた。
「うわ……こりゃすげえな」
一歩店内に足を踏み入れた瞬間、鼻をつく木の匂いと共に、魔力の気配が肌を撫でた。
狭い店内に規則的に並べられた陳列棚には、大小異なる様々な杖が陳列されている。
天井からは魔法灯が柔らかく灯り、淡い金色の光が室内を仄暗く照らしていた。
「なに、杖ってこんなに種類あんの?」
俺はしげしげと棚に並ぶ杖を眺めた。
細長いもの、先端に宝石が埋め込まれたもの、枝の形をそのまま生かしたもの、片手で振れる大きさのものから、身の丈もあるような大きな杖まで——デザインも大きさもバラバラ。
どれもこれも個性的である。
「悪いアシュレイ。多すぎて選べる気がしねぇ……」
俺が途方に暮れていると、アシュレイがすっと横に立った。
「杖は、素材と芯の組み合わせでできている——」
アシュレイはそう語りながら、棚に並ぶ杖の一本を手に取った。
「例えばこの杖は、エルムの木に、龍の髄を芯に使っている。高い魔力増幅効果を持つ杖だ」
「魔力増幅……つまり魔法の効果を高めてくれるってことか?」
アシュレイはこくりとうなずいてから「ただし」と前置きして言葉を続ける。
「魔力増幅率の高い杖ほど、その分魔力消費も激しくなる。仮に使用者の魔力量が少なかった場合、常に魔力切れに悩まされることだろう」
「んじゃ俺向きじゃねーじゃん」
現状俺の魔力量は、残念ながら並以下である。
「だったら、逆に魔力消費を抑えられる杖ってのはないのか?」
「あるぞ。例えばこの杖だ」
そう言って次にアシュレイが手に取ったのは、ほっそりとした白木の杖だった。
「この白檀の杖は、芯にホワイトクリスタルを使っている。軽量で、魔力の循環を助ける仕組みになっている。魔力量の少ない人向けと言えるな」
俺はそれを手に取り、軽く振ってみた。
確かに……軽い、か?
よくわかんね。
「まあ、色々と説明したが、杖選びには、使用者は杖に選ばれるものという格言がある。つまり、最後は直感だ」
アシュレイは手近な杖を一本取り、俺の手に押し付ける。
「握ってみて、しっくりこなければ違うやつにする。単純な話だろ?」
「そんな適当に決めていいのかよ」
「大事な要素だぞ? 実際、相性の悪い杖を使うと、魔法が不安定になったり、反動が強くなったりするというからな」
「それは怖いな……」
とにかくアシュレイの説明を受けて、俺は棚に並べられた杖の一本一本を、手当たり次第に手に取ってみた。
だけど、正直どれがいいのか、全然ピンとこない。
そもそも『アルクラ』原作において、魔法の杖はただのフレーバーアイテムにすぎなかった。
そのため原作知識も通用せず、正直どうやって選んでいいのか検討がつかないのだ。
よし、こんなときは素直に店員に聞こう。
俺がそう思い、店員の姿を探そうとしたとき——
「杖をお探しですかー?」
「お……」
タイミングよく、店員の方から声をかけられた。
俺は振り返り……そして固まった。
そこに立っていたのは小柄な少女。
深い緑色の無骨なワークエプロンを身に着け、オレンジ色の髪を後ろでポニーテールみたいにまとめた女の子だ。
俺と同年代か、ちょっと下くらいだろうか?
ぱっちりとした瞳と、人懐っこそうな微笑み。
更によく見ると、耳の形が少しだけとんがっている。
これは……エルフ?
あ、いや、エルフのそれとはちょっと違うな。
これは……うん、ドワーフだ。
この子はドワーフ族なんだろう。
ドワーフは手先が器用っていうからな。
……
いやいやいや、待て待て!
そんなことより重要なことがある!
それはこの子が、同年代の美少女だということだ!
忘れてはならない。
ここはBL世界。
若い女は大体、存在感の薄いモブキャラである。
なのに俺の目の前には、ちゃんと顔のくっきりした……
紛うことなき美少女が立っているのだ!
一体これはどういうことだ!?
そんな俺の戸惑いなんてつゆ知らず、少女に向かってアシュレイが親しげに声をかけた。
「やあ、ノア」
「あ、やっぱりアシュレイじゃん!」
「カウンターに姿がなかったから、今日は非番だと思っていたよ」
「うーうん、ちょっと奥の倉庫で仕分けをしてたんだ! ウチは毎日お店にいるよ〜、にっしっし」
ノアと呼ばれた少女は、親しげにアシュレイと会話を交わす。
え、アシュレイの顔見知り?
「あ、アシュレイ! この子と知り合いなのか!?」
「ああ、私が杖を選んだときに、色々とお世話になってね。その後も色々と相談に乗ってもらっている」
「はじめまして! うち、ノアっていいまーす! よろしくねっ」
ノアはそう自己紹介をしてから、にっと微笑んだ。
か、かわいい……!
こんなかわいい子と付き合えたら……人生ハッピーだろうな。
そんな考えが頭をよぎって、ハッと我に返った。
だ、ダメだダメだ……!
何を考えているんだ、グレイ・ブラッドレイ!?
俺には既にアシュレイという心に決めた子がいるんだぞ!
それをやすやすと心映りなんて……
いやでも……すごく可愛いし……
アシュレイとは全然違うタイプの美少女だし……
だ、ダメだダメだ……!
俺にはアシュレイと(略
「——ノアは杖の扱いに関しては、並の職人以上の知識と技術を持っている。彼女の助言を聞いておけば、杖選びで間違うことはないだろう」
「いやいやそれほどでも〜……あるけどねっ!」
ノアはアシュレイの言葉を受けて、えっへんといった感じで胸を張る。
むむ、胸はあんまりないみたいだな。
まあドワーフって大体つるぺた属性だし。
大丈夫だ、問題ない。
あとさ、よく考えたら異世界転生モノって複数ヒロインと結ばれるのが普通じゃない?
ほら、(ピー)デウスさんとか。
望月夜さんとか!
リオ(ピー)さんとか!!
彼らは果たして、ヒロインに対して、不貞を働いたということなのか?
断じて否である。
彼らはただ、大きな愛を平等に複数ヒロインに注いだだけ。
その結果、なんかこう、外から見るとハーレムっぽくなっただけだ。
だけどそこにあるのはただ純愛。何もやましいものではない。
結論。ハーレムは純愛。Q.E.D.
大丈夫だ、何も問題はない。
「ねえ、キミの名前は?」
「お、俺はグレイ。グレイ・ブラッドレイだ」
「キミも杖を探してるの?」
「あ、ああ。実は前使ってたヤツが折れちゃってな。新しいのを買いにきたんだけど……」
「オーケー、それならウチに任せて! キミにピッタリの一本を選んであげるからさ!」
ノアは胸にドンと手を当て、にっこり笑う。
しかもその背景には、黄色いポピーの花が咲き誇って見えるではないか……!
間違いない!
杖職人ノア……コイツはメインキャラ!
そして女の子!
つまりヒロイン!!
思わず目の奥にジーンと熱いものが込み上げる。
神よ……
この世界にまします、我らがハーレムの神よ……
貴方は俺を見捨てていなかったのですね!?
この世界にはびこるユースティティアとかいう邪教《BL》に負けず、こうして迷える子羊に救いの手を差し伸べてくださったのですね!?
「ありがとう! ぐすっ、本当にありがとう、うう……! ありがとう……!」
「ええ? 泣くほど!?」
滂沱の涙を流す俺の姿を見て、ノアはきょとんとした顔を浮かべた。
そんな表情も、ソーキュートだった。
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