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第25話 目を覚まして隣にいたのは……

 課外授業の後、魔力切れで意識を失った俺。

 目が覚めると、柔らかい感触が背中を支えていた。


「ベッド……?」


 薄く開いたまぶたの向こうに、ぼんやりと白い天井が揺れるように広がった。


「……あれ、俺って」


 まだ頭がぼんやりしていた俺は、まばたきを数回繰り返して、ゆっくりと自分の状況を整理しようとした。

 そのとき——



「グレイ!」


 俺の名前を呼ぶ声を受け、視線を横へ向ける。


「アシュレイ……」


 そこには、心配そうに俺の顔を覗き込む、アシュレイの姿があった。


「目を覚ましてくれた……! ああ、よかった……!」


 そうこぼすアシュレイの声は震えていた。


 アシュレイのその姿を見ているうちに、俺は自分の身に何が起きたか、そしてなぜ保健室のベッドの上に寝かされているかを思い出した。


「アシュレイ、大げさだな。ただの魔力切れで倒れたぐらいで」


 苦笑しながらそう言うと、アシュレイはふるふると首を振る。


「大げさじゃない。本当に、目が覚めなかったらどうしようかと思って、心配していたんだ……!」


 そう言うアシュレイの瞳は、涙で滲んでいた。


「アシュレイって、意外と泣き虫?」

「……! 見るな、バカッ!」


 俺がその涙を指摘すると、アシュレイはそっぽを向いて、涙をぬぐう。


 そんな可愛らしい姿に苦笑しながら、俺はベッドからゆっくりと身を起こした。


「……もう起きて平気なのか?」

「ああ、爆睡したおかげで絶好調だぜ」


 アシュレイを安心させるためにガッツポーズを作ってみせる。別に強がりじゃなくて、すっかり体調は元通りになっていた。


「……で、俺、どれくらい寝てた?」

「丸一日だ」

「そっかそっか……ってマジで!? そんなに気を失ってたの!?」


 思わず叫んでしまった俺に対して、アシュレイはうなずいた。

 確かに、仲のいいクラスメイトが一日ずっと気を失ってたら、そら心配の一つもするわな。


 たかが魔力切れと侮れない。


 今回はダンジョンの外だったからよかったけれど、これがダンジョンの中で、しかも仲間がいない状況で起きたと思うと、ちょっとだけゾッとした。


「心配かけて悪かった、アシュレイ。まさか、ずっとそばにいてくれたのか?」

「ああ」

「でも授業とかあっただろーに」

「問題ない。週末だからな」

「週末、そうだっけ……?」


 うーむ、時間感覚もぼんやりしてる。

 いかん、シャキッとしなければ。

 もう起きよう。


 俺はベッドから降りて、固まった体をのばすため、大きく伸びをした。


「もう起きて平気なのか?」

「ああ。でもやっぱり一日ぶっとおしで寝てると、体がカチコチになるね」


 軽いストレッチで体をほぐしてから、アシュレイの方に振り返った。


「んじゃ、アシュレイ。寮に戻るか」

「ああ。医務室の先生からは、目を覚ました後、特に体調に不調なければそのまま帰っていいと言付けを受けている。リオンも心配してるだろうし、元気な顔を見せてあげてくれ」


 そう言いながら、アシュレイが俺のローブを手渡してくる。

 アシュレイがやってくれたのか、ローブはキレイに畳まれていて、俺の持ち物と一緒にまとめられていた。


 ローブに袖を通しながら、俺は自分の持ち物を確認する。

 そして、とある事実を思い出した。


「俺の杖……折れたんだっけ……」


 俺はギャリーとの戦いを経て、無惨な姿になった自分の杖をつまみ上げる。


「これ、直せるもんなのかな?」


 折れた部分がぶらぶらと揺れるのを見つめながら、試しに少し振ってみると、かろうじて繋がっていたところが、ブチッと切れてしまった。


「正直、直すのは難しいと思うぞ」


 アシュレイは折れた杖をちらりと見たあと、少し困ったように眉を寄せた。


「無理やり直しても、すぐにまた壊れてしまうだろう。素直に杖は新調したほうがいい」

「うーむ……入学したばっかりなのになぁ」

「この杖、もともと学院の支給品だろう? グレイは自分の杖を持ってないのか?」

「ん? ああ、我が家族は落ちこぼれの俺になんの期待もしてないからな。この学院にも世間体を気にした結果、入学させてもらっただけだし。はっはっは……」

「す、すまない。古傷をえぐるようなことを言ってしまった」

「笑ってくれていいんだぜ」


 アシュレイは少し考え込むように視線を落とした後、ふっと俺の顔を見上げた。


「せっかくだから、これを機に、自分の杖を持ってもいいんじゃないか」

「自分の杖?」


 俺はアシュレイの提案に腕を組んで考える。

 ……まあ、確かに。


 最初の頃は「支給品で十分!」って思ってたけど、戦いの機会が増えるにつれて、微妙に手に馴染んでない感じもあったしな。

 それに戦いでこんなにすぐに折れちゃうんじゃ、この先心もとなさすぎる。


 俺が自分の杖を買うということに、ちょっと心動かされていると、それを後押しするように、アシュレイが言葉を継いだ。


「それに、来週のディア・ナイツでは、正装することになっているだろう?」

 「ディア・ナイツ……? ああ、そういえばそんなのあったな……」


 ディア・ナイツ。

 この時期、学院内で行われる学内祭典のことである。


 俺たち新入生にとって、正式にこの学院の一員として認められる場であり、生徒たちは正装して式に臨み、学院長や教授陣の前で、ユースティティア学院の生徒として、研鑽の誓いを立てるとかなんとか。


 「儀礼の場では、杖を持たなければいけないし、折れたままじゃ、ちょっと格好つかないだろう。その後社交パーティーもあるわけだしな……」


 アシュレイがそう言って苦笑する。


 彼女の言葉どおり、式典が終わった後、ちょっとした……というかわりと盛大な社交パーティーも開催されるらしい。


 学院に所属する生徒の99パーセントが貴族のご子息なわけだから、生徒たちは、その場でコネを作ったり、未来の立場を考えて動くらしい。

 つまり、完全に政治的な社交場だ。どちらかというと式典よりその後の社交パーティーが本番といったところだろう。


 そんな場に折れた杖を持って行ったら、確実に目立ってしまう。悪い意味で。

 まあ、すでに学院一の劣等生として悪目立ちしている立場なので、何を今更といったツッコミもあるだろが、式典までには、新しい杖を手に入れておいた方がよさそうだった。


「でも、杖ってどこで買うんだ?」

「グレイは、学院の外のお店に行ったことはないのか?」

「全然ないっす」


 普段の俺の行動範囲は、圧倒的に学院内に偏っている。

 学内の購買はともかく、専門的な魔道具の店なんて行ったことがない。


「じゃあ、私と一緒に行くか?」

「え?」

「学院の近くに、魔法道具を扱った商店街がある。杖の専門店も多いし、きっとグレイにぴったりのものが見つかるだろう」


 アシュレイが笑顔でそう言う。


「お、おう……助かるわ」

「今日はまだ体を休めたほうがいいだろう。行くのは明日にしよう」


 そう言って、アシュレイが小さく微笑んだ。


 いやあ、やっぱりアシュレイは優しいぜ。

 俺が一人だけ杖の店にいっても、何を買えばいいかさっぱりだし、バッタモンを掴まされても嫌だからな。

 その点、二人でいけば安心だ。


 ……ん、二人?


 俺は改めて、あることに気がついた。



 これって……デートなんじゃね?



 杖を買いに行くだけ。それは分かってる。

 分かってるけど……なんか雰囲気的に、それっぽくないか?


 いやいやいや、落ち着け俺!

 これはただの買い物!

 必要なものを揃えるための!

 だけど……!


 「……っしゃあ!」


 俺は思わずガッツポーズを取る。

 アシュレイがきょとんとした顔をしているが、気にしない。


 明日は、全力で、アシュレイとのデートを楽しむぞ!

 はーっはっはっはっ!




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