四章 第七話 シーン1〜2
1
これは数百年も前の話。
ガルグはこの時旅人で、とある大国を訪れた。国の名前はバリオス鉄国だ。ドワーフが建国した国であり、当時は平和な国家であった。
ガルグは既にオーラを偽装する魔法を完成させており、仮面無しで様々な国々を巡る旅を趣味で行っていた。
そんなワケでガルグは馬に乗り、バリオスの首都にやってきた。本題とは関係ないのだが、黒い馬で名前はビークである。
ガルグはそのビークを馬小屋に、預けて巨大な正門を潜る。鉄国と名乗るだけはあり、金属製の立派な門である。ドワーフは鉱物の加工など、鍛冶仕事を得意とする種族だ。門だけでなく街並みも含めて、美しい金属細工が多い。
その大通りを暫く行くと、ガルグはドワーフ達に囲まれた。それなりに警戒はしていたが、彼等の存在に気づけなかった。
ドワーフは背の低い種族であり、全員十代中盤に見える。もっとも金属の鎧を着込み、かなりゴツい姿になっているが。
「ガルグ・ブレッドマン殿ですね?」
「そう言うお前らはバリオスの騎士。しかも手練ればかりを集めたな?」
「流石はガルグ殿。その通り」
その騎士の中の一人が言った。
一際豪華な鎧を見ても、彼がこの騎士達のリーダーだ。それは間違いが無いだろう。つまりまず殺すなら彼である。
ガルグは魔力を溜めて身構えた。
「勘違いめされるな、ガルグ殿。我々に貴方への敵意は無い」
「敵意の無い奴らが囲むかよ」
「そうだが事実殺し合う気は無い。こちら側の指示に従う限り、危害は加えないと約束する。なんなら書面にしても良い。民衆に対し宣言をしても」
しかし騎士の男は無手のまま、ガルグに向かって片膝を着いた。
なんのつもりかは知らないが、これなら首を落とし放題だ。嘘は無い、と示すつもりなのか。
「その指示ってのを言ってみろ」
そこで一応ガルグは確かめた。
「我が主が貴方に会いたいと」
「興味は無いな。それに義理も無い」
ガルグは聞いて直ぐに返事した。しかし、考えを改める。
「そう言われたら主はこう言えと。『伝説の鍛冶師イム・フェルム。私は貴方と話がしたい』」
「前言撤回。興味が湧いた」
ガルグは騎士に言われ即答した。
主が何者かは知らないが、間違い無く危険な存在だ。なにせガルグと鍛冶師イム・フェルムがイコールだと知る者は限られる。聖剣と魔剣。それだけだ。
それに聖剣か魔剣なら、ガルグの実力をも知っている。つまり逃げる隙などは与えない。その上で騎士は片膝を着いた。
ガルグも俄然興味が湧いて来た。良い意味でも、悪い意味でもだ。
「お前、名前は?」
「ランデルです」
「じゃ、ランデル。頼みがあるんだが……」
「馬小屋の代金は払いました」
「お前の主、ホントに何者だ?」
ガルグは立ち上がったランデルを、鋭い視線で貫いた。
2
ガルグが同行に承諾するとランデル以外はその場を去った。よってガルグはランデルと二人で、バリオス王城の地下へと進む。長い螺旋階段を降りて行き、扉を潜って廊下を進む。
すると二人は広い場所に出た。そこは円柱状の空間で、その中央に巨大な剣がある。切っ先を下にして設置された、幅広で諸刃の輝く剣。
「これが我らが主。帝剣です」
それこそがランデルの主だった。
「剣が主? 気でも触れたのか?」
それを聞きガルグは皮肉を言った。
確かに剣は非常に巨大で、圧倒的魔力を保っている。ただのインテリアであるはずがない。ガルグでなくとも直ぐ解ることだ。
しかし、それでも剣は剣である。
「まずは私から説明を。主から既に指示されています」
するとランデルはガルグに言った。
「この帝剣は我々ドワーフが製造した、『導く者』なのです。外部の情報を入力すると、正しい行いを示してくれる」
「賢論種よりも正確に、か?」
「はい。人は愚かな存在ですし。ハーフの貴方ならば解るのでは?」
ランデルの説明は詩的である。が、ガルグはそれでも理解した。
おそらくこれは剣の形をした、巨大な計算機のような物だ。人より遥かに正確に、求める答を教えてくれる。しかし機械は自ら動けない。根底となるデータが必要だ。
「なるほど。それで情報交換か」
「はい。貴方の持った情報量は、他の個体を超越していると」
「ま、良いだろう。ただし『交換』だ。そっちの情報も教えて貰う」
ガルグも知りたいことがある。聖剣の行方。魔剣の行方。イム・フェルムだと知っていた理由。挙げていけば枚挙に暇が無い。
と、ガルグが言うと──ランデルと、帝剣の間に光が走る。とは言え攻撃の魔力ではなく、通信魔法の一種のようだ。おそらく情報量が多いため、可視化するほど魔力も多いのだ。
その光線で指示を受け取ると、ランデルはガルグに対して言った。
「主は了承しています。ただ直接会話はできないので、私を通して──となりますが」
「俺も構わない。じゃあ始めようか」
こうして巨大な剣とガルグとの、不思議な会話が始まった。
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