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銅馬が征く  作者: 大田牛二


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失態

 劉秀りゅうしゅうは盧奴を行幸してそのまま彭寵ほうちょうを親征しようとした。


 それを伏湛ふくじんが諫めた。


「今、兗・豫・青・冀は中国の都(中原の都市。重要な地)にも関わらず、寇賊が従横(縦横)してまだ従化(服従・教化)に及んでいません。これに対して漁陽は辺外の地で荒耗(荒涼)としております。どうして先に図るに足りましょう。陛下が近くを捨てて遠くに務め、容易なことを捨てて困難を求めようとしているのは、誠に私が困惑するところです」


 劉秀は親征を中止して帰還した。


 劉秀はその代わりなのか建議(建義)大将軍・朱祜しゅゆう、建威大将軍・耿弇こうえん、征虜将軍・祭遵さいじゅん、驍騎将軍・劉喜りゅうきを派遣して涿郡の張豊ちょうほうを討たせた。


 祭遵が先に到着し、張豊を急攻して、そのまま捕えた。


 張豊は方術を好んだ。かつてある仮面を付けた道士が「張豊は天子になるはずだ」と言い、五綵囊(五色の袋)で石を包んで張豊の肘に繋ぎ、「石の中に玉璽がある」と告げた。


 張豊はこれを信じて謀反を起こしたのであった。


 今回捕えられて斬首されることになったが、張豊はまだ「肘の石に玉璽がある」と言った。


 傍の者が石を打って割ったが、そこから玉璽は出てこなかった。


 張豊はやっと騙されたと知り、天を仰いで嘆息して、


「死んで当然である。恨みはない」


 と言った。


 仮面を付けた男が銭を持ちながら笑う。


「いい、お小遣い稼ぎになったねぇ」


 そんな彼に兄は心の中でため息をついた。









 劉秀は詔を発して耿弇に彭寵を攻撃させた。


 しかし耿弇は父の上谷太守・耿況こうきょうに彭寵と同等の功績があり、また、自分の兄弟も京師にいなかった。


 彼は自分の兄弟が京師にいれば人質になるため、劉秀は耿弇が裏切ることはないと思って信用する。逆に誰も京師にいなければ、人質がいないため謀反を疑われる恐れがあると考えたのである。


 そこで一人で進軍しようとはせず、洛陽を訪ねる許可を求めた。


 劉秀はこれを察知し、詔を発して答えた。


「将軍は宗族を挙げて国の為めとなり、功效(功績)が最も顕著であるのだ。何を嫌い何を疑って徴されることを(洛陽に呼ばれることを)欲し求めようというのか」


 これを聞いた耿況は耿弇の弟・耿国こうこくを洛陽に送って入侍させた。


 この時、祭遵が良郷に、劉喜が陽郷に駐屯していた。


 彭寵が匈奴兵を率いてこれを攻撃しようとしたが、耿況が子の耿舒こうじょを送って匈奴兵を襲わせた。匈奴兵を破り、二人の王を斬ってみせた。彭寵は退走した。


 耿舒はこの戦功を讃えられ、牟平侯に封じられることになり、天下平定後には南方の異民族との戦いにおいて活躍していくことになる。





 


 劉秀は捕虜将軍・馬武ばぶと偏将軍・王霸おうはを派遣して垂恵の劉紆りゅうく周建しゅうけんを包囲させた。


 すると劉永が海西王に立てていた董憲とうけんの将・賁休ひきゅうが蘭陵を挙げて投降したという知らせが劉秀の元に舞い込んだ。


 しかしながらそれを聞いた董憲が郯を出て蘭陵を包囲してしまった。


 それを受けて虎牙大将軍・蓋延がいえんと平狄将軍・龐萌ほうぼうが楚(この「楚」は彭城を指す)におり、賁休の救援に行く許可を請うたが、劉秀は二人を戒めた。


「直接、郯に向かって撃てばいい、そうすれば蘭陵の包囲は自ずから解けることになる」


「陛下は現場を知らぬからこんなことを言えるのだ」


「しかし、陛下のご命令ですぞ」


 龐萌が止めるのを無視して蓋延は蘭陵城が危いとして、蘭陵救援に向かった。


 董憲はそのことを知ると迎撃を行ってからわざと敗退した。


「勝てば良いのだ。勝てばな」


 蓋延はそう言いながらその機に包囲を破って城に入った。


 翌日、董憲は指示していた援軍と共に大軍をもって包囲した。


「なんだ。この数は」


「これでは勝つのは難しいどころか命も危うくございます。ここは包囲から抜け出すべきです」


 龐萌の意見に同意した蓋延は急いで包囲を突破した。


「このまま彭城に戻り、体制を立て直しましょう」


「いや陛下のご命令通り、郯へ向かう」


 その言葉に驚いた龐萌は止める。


「陛下の命令は蘭陵救援する前でのこと、我が軍は疲弊しており、向かったところで勝てる可能性も低いのです。やめるべきです」


 しかしながら蓋延は軍を郯に向けた。


 このことを知った劉秀は蓋延らを譴責した。


「先日、先に郯に向かうことを欲したのは、その不意を狙ったためだ。今、既に奔走し、郯も守りを固めているのに、どうして蘭陵の包囲を解けるというのか」


 劉秀の予想通り、蓋延らは郯に到着したが、やはり勝てなかった。


 逆に董憲は大軍をもって蘭陵を攻略して賁休は殺された。


「くっなんという大失態を犯してしまったことか」


「将軍、仕方ありません。勝敗は兵家の常と申します。それに将軍は陛下から信頼されておりますので……」


 龐萌がなだめようとすると彼はイラつきながら怒鳴った。


「ふん、貴様に言われなくともわかっておるわ。出て行け」


(なんという傲慢な男か)


 そもそもこの男によって今回のような失態を犯したのも全てその傲慢さ故ではないか。


(陛下はなぜこのような傲慢な男を使い続けるのか……)


 龐萌は反感を持ちながら退室した。


 やがてこの時、生じた亀裂が大きな問題となっていくのであった。






 









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