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銅馬が征く  作者: 大田牛二


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郭門の戦い

 劉秀りゅうしゅうは更に北に向かって中山を撃った。


 その際、耿純こうじゅんは宗家が異心を抱くことを恐れたため、反顧(振り返ること。引き還すこと)の望を絶つためとして、従弟の耿訢と耿宿を故郷(巨鹿宋子)に帰らせて廬舍(房舎。家屋)を焼いた。


「凄まじい人だ」


 これほどの覚悟に自分は答えないといけない。


 劉秀は進撃を続けて盧奴を攻略した。


 通る場所で奔命の兵(命のために奔走する兵。緊急の兵)を集め、檄を辺郡に飛ばし、共に邯鄲を撃つことを呼びかけていった。郡県は返書を送って劉秀に響応していった。


 劉秀は次に南へ向かって新市を降した。


「さて、厄介な勢力が真定にいる」


 この時、元真定王・劉楊が兵を起こして王郎に附いていた。その衆は十余万人であるという。


「どんな人であろうか?」


「癖が強く、野心家だと聞いています。しかしながら私は王郎に会っていますが、彼は幻想の中に囚われていることに対し、劉楊はもう少し現実を見ている人であると思います。説得は可能かと」


 耿純がそう述べた。


「なるほど、では、伯先。君に使者として行ってもらい。こちらに付くように説得してもらいたい」


「承知しました」


 劉秀は劉植りゅうしょくを送り、劉楊を説得させることにした。数日して劉植は戻ってきた。


「成功しました」


「おお、流石です」


 喜ぶ劉秀に劉植は言った。


「ただ、条件がございます」


「条件?」


「婚姻を結びたいとのこと」


「姻戚関係を結びたいということですか。よろしいでしょう。姻戚関係になることで河北での勢力の強化にもつながりますので、よろしいかと」


 耿純を始め、河北に来てから仕えた者たちはこの条件を飲むべきと主張した。


 一方、劉秀は渋い表情を浮かべている。


「私には妻がいる……」


 そう言いつつ劉秀は口を噤む。河北の動乱の中、自分へ付いて来てくれている者たちは皆、覚悟を持ってやって来ており、彼らの覚悟に自分のわがままで無下にするわけにはいかない。彼らの支持こそが河北にいられる力となっているのである。


「わかった。私が直接、真定に出向き婚儀を結ぼう」


「それがよろしいでしょう。彼は自尊心の強い人でもありますので、それで上手くその自尊心を満足させることができましょう」


 耿純がそう言うのに劉秀は静かに頷いた。諸将が会議から離れていくと朱祐しゅゆうだけが残った。


陰麗華いんれいかはどう思うだろうか?」


 劉秀が尋ねると彼は言った。


「夫は夫であり、妻は妻である。君主の妻となるのであれば、そのことをわからなければならない」


「それはこちらの理屈だ」


「奥方を信用しろってことさ」


 そう言って朱祐は立ち去った。


「陰麗華を信じろか……」


  劉秀は真定に入り、直接婚姻に同意したことを話した。


(これが劉楊か)


 目の前にいる男は劉秀の下に付くとしながらもこちらを下に見ている目を向けている。


「同意して下さって感謝しますぞ。これで我々の絆は深くなる」


 劉楊はそう言ってから甥(姉妹の娘)・郭氏、名は聖通との婚儀を挙げさせた。


 婚儀を終えた劉秀は元氏、防子に進撃してどちらも攻略した。


「鄗には王郎の挙兵時の配下である李惲が将としているとのこと」


「よしここで勝って王郎を震え上がらせる」


 劉秀は諸将に指示を出して、攻めかかる。


臧宮ぞうきゅう将軍が敵将・李惲の首を得たとのこと」


「お見事と伝えてくれ」


 勝利を得た劉秀は軍を一気に趙の境界へ入れた。


「こちらに劉秀が向かっているか」


 王郎は忌々しそうに呟いた。


「陛下、私が出て劉秀の首を得てまいりましょう」


 王郎の大将・李育がそう言うと王郎は同意して彼を派遣することにした。李育は軍を率いて劉秀軍の進軍先である柏人に駐軍した。


 この時、劉秀軍の前軍をまとめている偏将・朱浮しゅふ鄧禹とううはこのことを知らないまま進軍を続けていた。


「こちらには気づいていないな」


 李育は一斉にこれに襲いかかった。その結果、二人は破れ、輜重を失った。


 劉秀は後方でそれを聞いた。


(やれやれ、敗れてしまったか……)


 しかも情報収集を怠った結果だという。劉秀の軍において一番の悩みは一番槍を務める将は多いが、広い視野を持つ将と言える者が少ないということであった。特に軍全体としての強さと全軍の目となることができる器量を持った前軍の将となれる者がいないということが致命的であった。


(性格に難点がある朱浮に慎重な鄧禹をつけさせて任せたけど、難しかったか……)


 取り敢えず、二人の散卒(離散した兵)を集めて劉秀は李育と郭門(城門)で戦った。


「案外手ごわい」


 戦線は一進一退の攻防となった。


(我らの夢を破れるわけにはいかない)


 李育の執念が彼の軍を強くしていた。しかしながらそのため彼らは前かがりになっていた。そのため劉秀はできるだけ相手の攻撃をいなす戦い方を行う。


 それにより李育の軍は疲弊していった。


「今だ。右翼を前進させよ」


 そう指示を出した瞬間に右翼が前進した。


「お、指示が届く前に前進したぞ」


 隣に控えている朱祐が言った。


「ちょうどいい時に前進したなあ。確か右翼は……馮異ふうい銚期ちょうきか」


 馮異は相手が疲弊したと判断して前進を指示していた。


「よし、行くぞ」


 指示を受けて銚期は槍を持って前に出た。賈復かふくなどの劉秀配下の猛将たちは兵をほっといて勝手に敵兵に向かう者が多いが銚期はしっかりと兵の扱いを心得た上で前進する。馮異がいるということも大きい。


 銚期は剛勇の人である。矛を振るえば、敵兵は吹き飛ばされる。彼の勢いによって李育の軍は大崩れして崩壊した。よって劉秀の軍は大勝することに成功し、失った輜重を全て取り戻した。


 (馮異の判断で右翼は前進したのか……)


 劉秀はこの時点では馮異の実力を測りかねていた。


 破れた李育は柏人城に還って守りを固めた。劉秀は勢いのまま攻めたが、攻めきれず膠着状態となった。


(李育は案外、兵の扱いが上手い……)


 攻めきれない中、劉秀はそう思った。





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