河北攻略開始
「正直、ここにいる兵だけでは対抗するのは難しいよね」
劉秀は二郡(信都と和成)の兵が弱いと考え、城頭子路や力子都(刁子都)と合流しようと考えた。
しかし任光が反対した。
「賊の力を借りては漢の威光を示すのが難しくなります」
劉秀としては賊も人であり、人物もいるという認識なのだが、信都太守の立場である彼を尊重するため周辺の県から人を集めて精兵四千人を得ることにした。
劉秀は任光を左大将軍に、信都都尉・李忠を右大将軍に、邳肜を後大将軍に任命した。邳肜の和戎(和成)太守はそのままである。信都令・萬脩を偏将軍に任命した。
皆、列侯に封じられることになる。
劉秀は河北に従う上でついてきた南陽の人・宗広を留めて信都太守の政務を行わせることにした。彼は少しのほほんとしており、少し天然なところがある。
「いいかい、身の回りのものは壊さない。足元には気をつける。人の言うことを守る。いいね?」
「はい、わかりました」
宗広は敬礼して城に行こうとするとその場で転んだ。それを劉秀はやれやれと首を振る。
劉秀は出陣する上で、任光、李忠、萬脩に兵を率いさせて自分に従わせた。邳肜の兵が前を進んでいく。
任光が多数の檄文を作った。
「大司馬・劉公が城頭子路、力子都の兵百万の衆を指揮し、東方から諸反虜を撃ちに来る」
という内容である。
(賊の力を借りるなって言ったのになあ……)
劉秀は苦笑しながら檄文を放つことに同意した。
檄文を持った騎馬を駆けさせて鉅鹿界中に至らせた。檄文を得た吏民は互いにこの内容を語りあって各地に伝播していった。
劉秀は夕暮れに堂陽の県境に入った。
「せっかく檄文にああ書いたのだからたくさんいるように見せかけるとしよう」
劉秀は多数の騎火(夜間の乗馬用に灯す火)を設けて沢中を満たした。すると堂陽はすぐに降った。続けて劉秀は貰県も撃って降した。
「ご報告します昌城は劉植という者が兵数千人を集めて昌城を占拠しており、将軍を迎え入れたいとのことです」
「どんな人だい?」
任光に聞くと代わりに邳肜が答えた。
「字は伯先という者で、一族全員が誠実さのある者だと聞いています」
「よし信じるとしよう」
劉秀は劉植に会うと信用できると判断して彼を驍騎将軍に任命した。
(それにしても……みんな同じ顔だなあ)
劉植たち一族を見ながら劉秀はそう思った。
その後、劉秀の元に嬉しい知らせが届いた。
耿純が宗族賓客二千余人を率いてやってきたのである。しかも老病の者を始め、皆、棺木を車に載せて従っているという。
(一族からも慕われている証拠だ)
王郎が挙兵した時、彼は耿純を部下にしようとした。
最初は従わないつもりであったが、
(いやここは今後のためを考えて準備をするべきか)
耿純はなんと大胆にも王郎の元に出向き、帰順したふりをして符節をもらい、安心させたところで従吏と共に夜の間に邯鄲の城から脱出したのである。
「これがあれば道中で車馬を得やすくなる」
耿純は道中で公務を行い、王郎の詔によるとして道を行く人から車馬を取り、数十の車馬を得ると、それを駆けさせて宋子に戻った。
(宋子は邯鄲につきそうだ)
故郷の様子からそう判断した彼はここを劉秀のための拠点にするのは難しいとして劉秀の居場所を探るために時を使った。やがて劉秀が薊から東南に走り、信都を拠点として対抗勢力を作り上げていると聞き、耿純は従兄弟の耿訢、耿宿、耿植と共に宗族賓客二千余人を率い、皆、縑襜褕(絹の上着)・絳衣(赤い服)を着て、貰で劉秀と会った。
「あなたと再び会えるとは……」
劉秀は彼と共に二千余りの人々が付いて来ていることから彼の徳と王郎から符節を獲得しているという大胆さと智謀の深さに感嘆した。
劉秀は耿純を前将軍に任命した。
劉秀は北の下曲陽に進攻して攻略を行った。戦の様子を眺めつつある人の戦い方にはらはらしていた。
「頼むから無茶しないで……」
劉秀に胃痛をもたらしているのは賈復である。
彼は全身を鎧に身を包み。顔も仮面で覆っている。
「さあ、正々堂々と戦おう」
右手に剣を持ちながらゆっくりと敵兵へと近づいていく。このような相手はいい首級になると敵兵は一斉に槍を突き出し、剣で斬りかかる。賈復はそれらを一切避けることなく、槍に刺され、剣で斬られる。
だが、賈復は全身を鎧で包んでおり、完全には貫かれず、斬られない。彼らの攻撃を受けた上で賈復は斬っていった。
真正面から敵わないとなれば後ろからと敵兵が後ろから槍を突き出す。
「後ろからとは卑怯な」
矛先が背に刺さった瞬間に賈復は後ろに左手を回し、槍の柄を掴む。そのまま振り返るとその兵を斬り殺した。
彼の少し可笑しい武勇に恐れた敵兵たちが逃げ出していくのを賈復は追いかけない。
「なぜ、追いかけないのです?」
「後ろから斬りかかるのは卑怯である」
「それでも追いかけないと」
兵に言われて彼は渋々追いかけると敵兵の一人の肩を掴み、振り向かせた上で斬り殺すというやり方で敵兵を殺していった。
「これでなら卑怯にはならないだろう」
そう言った奇妙な理屈の述べる彼であるが、鎧からは負傷によって赤い血が隙間から流れ出しており、恐怖を与える姿と化していた。
彼は初陣時からこのような戦い方を行っていた。
「これで死なない方が可笑しいです」
医者たちは彼が帰ってくる度、劉秀の指示で彼の負傷具合を見るのだが、毎回そのように報告を行い、帰ってくる度に恐れおののいた。人ではないと……
彼のような者の他にも皆、戦功を挙げたことで劉秀は勝利を重ねることに成功した。そのため部衆がしだいに集結し、喜んで劉秀に従う者が数万人に及んだ。
「結構、増えましたなあ」
任光がそう言う。
「しかしながらまだ、勝負をするだけの数にはなれていないからね。もっと増やさないと……」
劉秀はそう言って次の攻撃先を決め始めた。
劉秀と愉快な仲間たち紹介。
脇の甘い人・宗広
一族全員同じ顔・劉植
文武両道・耿純




