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就活オブザデッド—祈りの弾丸—  作者: ぺたへるつ
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第9話 内定

「大丈夫よ」

 韜晦する私に、彼女が言った。


「なにが?」

「私は、大丈夫」


 今、目の前にいる彼女は、かつての彼女ではない。傾きかけた我が社の再生には必要不可欠であろう存在だ。学歴から察するに、潜在的な能力は、おそらく私よりも高い。どうして、こんな時期まで彷徨っているかは、おそらく長い休学期間と留年が原因なのだろう。地獄への滞在期間は、長ければ長いほど精神と肉体を腐らせる。通常四年。それを超える亡者は、基本的に忌避される。


「どうして、そう断言できる。我が社の業務は過酷だ。昔とは違った意味でだ。沈みかけた船を必死で補修し、なんとか再生させようとしている状態なんだぞ」

「そう」

「そう、って。まだ夏だ。救いの道は、まだ残っている。なにも、私だけが君を救えるわけじゃない」

 私は何を言っているのだろう。彼女を再用するつもりはない、と言っているのだろうか。おかしな話だ。だったら、今すぐこの引き金を引けば良いのに。弾倉にはお誂え向きに一発だけ弾丸が残っていた。


 祈りの言葉とともに、彼女を撃て。

 それができないのは何故だ。

 私は、何を望んでいる……?


「でも、きっと無理。私は、誰にも救われることはない」

「どうして?」

「だって、私の休学と留年は……」

 彼女は言葉を詰まらせた。私は、彼女が再び口を開くのを待つ。

 しばらく、彼女は言葉を発せずにいた。


 そして、言った。


「特に理由なんてなかったもの。言い訳はあったけど、理由なんてなかった。ただ漫然と、苦しくて。意味もなく苦しくて、それで地獄に甘えていたの。地獄にいたら、苦しいのは当たり前だから。それじゃダメだってわかったのは、つい最近。散々撃たれて、祈られて。そんな中で、わかったの」

「なにが?」

「わたしが苦しかったのは、苦しいことに甘えていたからだって。だから、苦しいことを当たり前にしちゃう地獄にいたらダメだって気づいた。逃げていたら、変えられるモノも変えられない」

「それが、どうして誰にも救われないことになるんだ?」

 私の問いに、彼女は穏やかな表情で答えた。

「だって、だったら、自分を救えるのは自分だけだもの」

 私は、ハッとした。

「だからとりあえず、地獄を出たいって思った。それで、あんなトコの眷属でもいいかなって」

 彼女の言葉に納得しつつ、私の中の蟠りがとけていった。

 どうして私が祈ることしかできなくなってしまったのか、朧気に理解ができてきた。私はずっと、救われたかったのだ。そして、彼女を救いたかった。私は彼女に祈り続けていた。彼女に祈ることで、自分の過ちから逃げていたのだ。


彼女への祈りは、私自身のための祈り。

救済を求めていたのは、私自身。


「人事が、亡者に救われるのか」

「わたしは何もしていない。あなたが、あなた自身で気づいたのよ」

 いや、間違いなく私は彼女に救われていた。

 彼女によく似た彼女が、私を祈りの辺獄から救い上げた。


 私こそがカンダタだった。


 あの時、怪しげな内定者集団をかき分け掴んだ腕は、私にとっての蜘蛛の糸だったのだ。

「それで、どうするの?」

 彼女が立ち上がって、私の正面に立つ。

「わたしを、撃つ?それとも……」

 私の答えは決まっていた。だが、問題は、

「我が社でいいのか?」

「ええ」

 彼女は即答した。

「御社がいいわ」

「なぜ。話しただろう。眷属の肉体と精神を滅ぼしたことのある会社だ。我が社の暗黒業務は、並大抵じゃない。君は——」

 私の言葉を、彼女は首を振って制した。

「それでも、あなたのような人のいる会社なら、わたし、大丈夫だと思う」

「でも、私は、彼女を」

「昔はそうでも、今は人のことを思いやれるのだから、大丈夫」

 まったく立場があべこべだった。

 この私が、一回りも年の離れた亡者に救われている。

 わけがわからない、が、悪い気はしなかった。

「……わかったよ」

 私は聖苻《聖なる内定》を取り出して、彼女の額に貼り付ける。


「是非、我が社にきて欲しい。君となら、社を変えられる」

 彼女がにっこり頷いた。


これは希望へと続く物語。

苦難の先にこそ光はある——そう、信じてしまった。


次回、就活オブザデッド

最終話「そして就活へ……」


祈りは消えず、ただ木霊する——。

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