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9話 魔力の秘密

 身体強化の実験を開始して、幾つかの仮説を立ててみる。

 まず最初は身体強化は自身が元から持つ力、筋肉量や運動能力に比例して一定の割合で向上させる。この場合だと、まずは俺自身の身体を鍛え直す必要がある。


 次に使用する魔力量に比例して身体能力が上がっていく場合。これも十分考えられる。この場合の改良法だと使用する魔力を部分的に増やしたり出来るのか? 腕だけ、足だけに魔力量を増やせるかを調べないと行けない。


 他にも幾つか試したい事はあるのだが、焦らずに一つ一つ検証していこうと決めた。

 一日の訓練が終わると、減った分を翌朝にハチから魔力を注入してもらう。どうにも恥ずかしくて慣れないが、魔力を貰わない事にはどうしようもない。

 魔力タンクが空っぽの状態でハチに魔力注入を頼んだ場合、ハチは一日中子犬になってしまう。少量を毎日貰う方が、ハチにとっても楽だろうし本来の力を俺の為に出せないって言うのは何だか心苦しい。


 毎朝、魔力注入の度に、俺は心の中でハチは犬では無いと何度も言い聞かせている。そうしないと俺は獣が大好きな変態さんになってしまう。


 そうやって過ごす日々の中で、俺の魔力操作能力はメキメキと向上していく。

 そしてついに運命の日を迎える。


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 魔力操作や身体強化の実証はかなり進んでいる。

 俺の仮説通りに、手や足だけに魔力を多く持っていくと能力の向上が見られた。それらを研磨していけばかなり有効な手段になるだろう。

 次に実験していた事は、魔力の循環速度を上げる事だ。この世界の人達は自分の体内で自然と魔力が作られる。作られ続ける魔力は何もせずとも新しく産まれた魔力に押し上げられ体内を満たしていく。

 イメージするな。温泉だろうか? 地中から湧き出るお湯が浴槽から溢れ出すイメージ。溢れ出す速度は一定だが絶えず浴槽はお湯で満たされている。


 けれど俺の場合は少々違う。例えるならば燃料タンクに近い。注入された燃料を適量づつ送り出す。送り出すにも自身の意志が必要となる。

 魔力操作も俺が手探りで身に付けた。この時点で俺はこの異世界に置いて異物だろう。


「オシ、今日も実験。実験」


 朝食を済ませて、日課の体操を行う。魔力操作の訓練は余り動かない。ずっと意識を自分の身体に向けているので傍からは、ジッとしているだけに見えるだろう。


 なので、運動不足解消の為に訓練前にジョギングと体操を行う。敷地の中をグルグルと何十周も走るだけだが、広い敷地なので結構な距離となっていた。


 敷地の外で走れば景色も変わり楽かも知れないが、魔獣に襲われる危険も有るので、カーラさんから出るなと言われている。


 自分自身、やりたい事に没頭するタイプなので、暇だとか、外に出たいと言う願望は今の所無い。


「まずは、恒例の魔力部分移動から」


 魔力の部分移動、身体強化を行いながら部分的に魔力量を増やす練習である。身体全体に薄っすらと魔力を放出させながら、残りを循環に使い、右手だけに魔力を溜めておく。


 右手の次は左手、そして足へと順番に増やす場所を変える。最初の頃は慣れなくて時間も掛かっていたが、反復練習のお陰でかなりスムーズになっている。


「おっ今日は調子がいいな。これなら行けるかも」


 いつもの訓練が終わった後は実験へと移る。実験とは魔力の循環速度を上げる事、これが中々難しい。

 注入された魔力は血液の流れに乗って全身へと循環する。なので循環速度も血液の流れと同じと言うことだ。

 その速度を上げると言う事は血液の流れを早くする方法しか思いつかなかった。けれど血液の速度を上げる方法が解らない。更に解ったとしても自分の身体にどんな影響が出るのかが恐ろしくもあった。

 だから今までは手を出して居なかったが、ある日の出来事で全てが解決する。


--------------------------------


「ハチー。ボール遊びしようぜ!」


「ワンワン!!」


 要らない布を貰って何重にも重ねて作った。ボールで俺は日頃お世話になっているハチと遊んでいた。

 普段は敷地の中でしか遊べないので、ハチも不完全燃焼だろうと思い俺はボール投げを思いついた。

 やり方は、俺が敷地内からボールを投げてハチに取ってもらう、とっても簡単な遊びだ。銀狼と呼ばれるハチなら森に入っても大丈夫だろうと言う安易な考えだった。


 俺が身体強化を行い。腕に魔力を集中させて投げたボールは余裕で100m以上飛び森の中へと消えていく。ハチは喜びながら森の中へとボールを追いかけて行ったが、100m位じゃすぐに戻ってきてしまう。

 なので、俺も出来る限り大量の魔力を纏わせボールを投げ続けた。


 そんな時突然爆発的な力が湧き上がり、普通の倍の距離を投げる事に成功していた。


 どうしてそうなったのか? さっきまでと何が違うのか? 色々考えていると、自分の心臓が信じられない程速く動いている事が解った。しかも体内を循環している魔力の速度が普段の倍になっている。連打の様に小刻みに動く様は自動車のエンジンに近い。

 後でカーラさんに確認してみれば、身体強化は身体全てに影響を与えると教えてくれた。


 よって俺の心臓、血管、内蔵全てが強くなっている事になる。全てを理解した俺は心臓の心拍数を上げて、魔力循環速度を上げる実験を行う決意をした訳だ。


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 身体強化を行い。意識を心臓へ。心拍数を上げるイメージで魔力循環速度を一段階上げる。

 すると、イメージ通りに魔力循環速度が上がっていく。ハチに森で集めて貰った固い石をギュッと握ると簡単にボロボロと崩れ去る。


「こりゃ段違いの能力だな。けれど……燃費が悪い」


 魔力残量を確認すると、速度を上げた分だけ減少速度が上がっている事が解った。速度を上げた状態で行動すればそれだけ短い時間で大量の魔力を消費するようだ。


「このままじゃ、駄目だな。もっと改良と実験をしないと」


 その後も俺は考えられる全ての事をやっていった。その結果魔力の本質とも言える物を見付け出す。


 それは魔力循環速度を最大限に上げていた時だ。


「もっと速く。もっと行けるだろ? オイ!」


 自分自身に激を飛ばしながら、魔力循環速度を限界に上げていく。魔力は体内で高速で循環している。今はジッと立っているだけなので、体内で魔力を循環しても減っていく魔力量はしれている。走ったりしなければ大丈夫と言う訳だ。


 俺の魔力が一定の速度に達した時に流れている魔力から別の魔力が溢れ出すのを感じた。


「何だこれは? 魔力の中から別の魔力が溢れている……?」


 一度、循環させるのを止めて。体内の中でその魔力だけを使用し身体強化を行った。そして軽めにジャンプした時俺は一瞬で10m以上の高さまで飛び上がる。


「うわっ!! 何だ!?」


 着地した後、次は石を手に取り森の中へと投げてみる。今度は見えない程の速度で森の中へと石は消えていった。


「力が段違いじゃないか? 今の魔力は一体……」


 俺は一連の流れを思い返す。不思議な魔力が溢れ出た時は魔力を高速で循環させていた時……。循環させる為には心臓を使って血液に圧力を掛けている。


「圧力……? 魔力に圧力を掛けると、違う魔力が絞り出される?」


 それは確信に近い仮説。


「そういえば、ガソリンや軽油も、元を正せば原油に熱圧を掛けて抽出されている筈……。もし魔力も同じだったら?」


 俺はその仮説を信じて実験を始めた。

 その結果、魔力に与える圧力の違いによって複数の性質の違う魔力が抽出される事を見つけ出す。


 新しく産まれた魔力は俺の想像を超える性能を持っていた。

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