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鋼鉄の赤いメシア~100万人を粛清した独裁者、転生して理想の国を作る~  作者: 葉月双
一章

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1話 管理と監視のユートピア


 孤児院の食堂には子供たちと二人のシスター、それから院長も集まっていた。

 彼らは静かに、最後の一人を待っていた。

 そう、彼らは待っているのだ。

 全ての席が埋まっているというのに。


「あれ? 僕、遅れましたか?」


 みんなが待っていた最後の一人が食堂に入った。

 みんなの視線が、一斉にその少年に向いた。

 少年は14歳だが、体格はあまり大きくない。


「えっと、みんな、どうしたの?」と少年。


 黒髪ボブカットの少女が無言で立ち上がる。

 少女の年齢は12歳で、全てを見通すような煌めく黄金の瞳で少年を見た。

 少女の顔は誰が見ても美しいと認めるほど整っていて、まるで貴族令嬢のような気品があった。

 もっとも、着ている服はいかにも孤児が着ているような古い庶民の服だが。

 少女はゆっくりと少年に歩み寄る。


「同志セルナ、どうして誰も何も言わないの?」


 少年は怯えたような表情で言った。

 セルナと呼ばれたボブカットの少女は、小さく溜息を吐き、それから世界さえ凍り付きそうな表情で言う。


「ああ、同志、残念だよ同志、本当に残念だけど、君の席はもうないんだ」


 その声は美しく響く鈴のようで、だけど刃よりも鋭かった。


「ど、どういう意味……同志セルナ……」


 少年は明らかに震えはじめ、目が泳ぐ。


「私はどうしても許せないものが三つある」


 セルナが言うと、シスター二人が立ち上がり、無言で少年の方に近寄る。


「一つは、私の決めたルールに従わない者」


 セルナが指を一本だけ立てる。

 シスター二人が少年を両サイドから押さえつけた。


「二つ目は、私を裏切る者」


 セルナが指を二本立てた。

 セルナの妹分の少女が立ち上がり、ナイフをセルナに渡す。


「そして三つ目。私を裏切った分際で私のことを『同志』と呼ぶクソッタレだ」


 言い終わったと同時に、セルナは少年の胸をナイフで刺した。

 急所は外している。

 少年が痛みで叫ぶ。


「待って、待って同志セルナ! 僕は裏切ってなんて……」

「しぃー」


 セルナがナイフを自分の唇に近づけて、微笑みを浮かべる。

 その笑みは柔らかくも温かくもなく、ただただ無機質だった。


「私はね、記録が視えるんだ。裏切りと不正の記録が。ああ、なぜなら私は特別な人間だから」

「助けてセルナ……」


 少年は泣いていた。


「私は常々、情報がどれほど大切かを話して聞かせているはずだよ? それなのに、君は勝手にギャングに情報を流した。冗談じゃない。それがどれほどの損失か分かるかい? いやいや、分からないから漏洩させたんだよね?」


 セルナの声に怒気は含まれていない。

 どこまでも、どこまでも冷徹。


「死にたくない……セルナ、許して……」


 少年は懇願したが、セルナは特に何も感じなかった。


「安心したまえ。君は最初から存在しなかった。君の記録は我々『SIU』が綺麗に消しておくよ。だから君は死んだりしない。ただいなかっただけ。それだけなんだ」


 そして。

 セルナは淡々と少年の胸をナイフで突いた。

 今度は心臓を。


◇


 セルナが前世を思い出したのは11歳の時。

 孤児院でぼんやりと人生を過ごしていた時、なぜか急に生まれる前の人生を思い出した。

 最初に見たのは名簿に線を引く自分自身。そして、線を引かれた人物は物理的に死んだ。

 ああ、粛清だ。私は粛清したのだ、とセルナは淡々と受け止める。


 次に見たのは、何かに詰め込まれ、運ばれる人々。

 彼らは極寒の地へと流刑になったのだ。

 私がそうしたのだ、とセルナは知っている。

 後世には独裁者として伝えられたが、セルナ自身は自分を理想の社会を目指す指導者として理解していた。


「粛清は世界を整えるために必要なことだ」


 そう呟いた。

 セルナは自分より上に立つ者を許さない。なぜなら、自分こそが人類を導くに相応しいと信じているから。

 であるならば、今世でもまた頂点を目指す。

 セルナは自分より上を許さない。理想を追求するためには、セルナが一番上でなくてはいけないから。


 今のセルナは孤児だが、成り上がることができると確信していた。

 そうして前世を思い出したセルナは、まずこの世界についてざっくりと調べた。

 前の世界とほとんど同じで、剣と魔法と魔物が存在している。時代はセルナの前世よりだいぶ遅れている。魔導革命も最初の世界大戦も起きていない。


 前の世界と決定的に違うのは、あの魔王がいないこと。自らの楽しみのために戦争を追求した人類の敵であり、傭兵たちの王であり、セルナを殺害した人物。

 あれさえいないなら、セルナは今度こそ理想に辿り着ける。

 そして、この世界でもっとも重要なのは神の祝福とされる『ギフト』。

 それは選ばれた人間にのみ発現する特別な能力で、セルナはそれを持っていた。


「ああ、やはり私は選ばれた人間だ。人民の頂点に立つ資格があるのだ」


 セルナは笑った。

 これほど素晴らしいギフトが、これほど自分に合うギフトが存在するとは。

 それは『他者の記録を視ること』だった。

 主に不正と裏切りの記録が視える。

 使い続ければギフトは成長する可能性があるらしいが、セルナには今のままでも十分だった。


 前世、誰も信じなかったセルナが、このギフトを使えば人を信じることが可能になる。

 そうして自分の能力を理解したセルナは、まず孤児院を掌握した。

 シスターの秘密を握り、院長を不正で脅し、子供たちを洗脳し、武力を用いることなく静かに制圧した。


 次にセルナは孤児たちを諜報員として街に放った。

 12歳になった現在、それは情報ギルドとして形になっていた。能力によって諜報員、事務員、工作員、そして幹部候補の分析官と仕事を分けた。

 その組織を、セルナは『SIU』と名付けた。


 特別調査班(Special Investigation Unit(スペシャル・インベスティゲーション・ユニット))という意味だ。

 頭文字を取ってSIU。

 エスアイユーと読む。


◇


「さてシスター、このゴミを片付けてくれたまえ」


 セルナが言うと、シスター二人が少年の死体を運び出した。


「お姉様、血の掃除をいたしましょうか?」


 セルナの妹分、カルラが淡々と言った。

 カルラは10歳で、桃色の髪をサイドテールに括っている。

 カルラは小さい頃からセルナに依存していたが、セルナが目指す世界を告げてからはより一層セルナに依存するようになった。


「あとでいい。今日は我々の目的を再確認する」


 言って、セルナが席に着き、カルラも座った。


「同志諸君、私の目的はカオスの根絶である。私を頂点とした、たった一つの国に世界をまとめ、徹底した監視と管理によって秩序を維持することである」


 誰もセルナの上には立たせない。セルナこそが頂点であり、セルナこそが唯一である。

 なぜならセルナの理想こそが世界で一番優れているから。すくなくとも、セルナはそう信じている。


「「アクセプト」」


 子供たちが声を揃えて言った。

 けっして感情的ではなく、抑制的で整然とした同意。


「私は裏切り者を許さない。必ず存在しなかった者とする。諸君らは私を裏切らないと信じているよ」


 セルナが言うと、子供たちが同時に頷く。

 まるで一糸乱れぬ軍隊のようであり、機械のようでもある。

 本当のところ、全員が全員、セルナの理想に共感しているわけではない。


 ただ、セルナの情報ビジネスで前よりいい生活ができるようになったし、それにセルナは歯向かう者に容赦がない。だから従っているだけ、という者もいる。

 それに、セルナはありとあらゆる秘密を握っている。

 子供たちにだって秘密の一つや二つはあるのだ。


「さて、今後の方針だが、まずはSIUを拡大する。孤児を更に引き入れ、隣の街、更に隣の街、更に領都、帝都にまで手を伸ばす」


「すでに隣町の孤児を数名、引き入れています」とカルラ。


 セルナがコクンと頷く。

 カルラは分析官で、幹部候補でもある。

 カルラの能力の高さは、セルナも信頼している。


「そして私自身は帝都アカデミーへと進学する。そこで貴族の子息たちの秘密と同志を集める。合わせて、数名が同行し帝都諜報網の構築を行ってもらう」セルナが言う。「この帝国はまるでツギハギだ。300もの領地に、それを治める領主。カオスそのものだ。いずれ私が皇帝となったら全てを一つにする」


 セルナは別に権力が欲しいわけではない。自分より上が許せないのと、カオスが許せないだけ。

 実際、セルナは貴族的な贅沢な生活よりは、孤児院の生活の方が性に合っているのだ。


「私はあらゆる手段を用いて成り上がる。理想の社会のために。諸君、ともに目指そうではないか。監視と管理が行き届いた素晴らしきユートピアを」

「「アクセプト」」

「さて、ではアカデミーに行く前にこの街を完全に支配しようじゃないか」


本日あと2話更新します。

15時と18時です!

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