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第22話-巨人のもとへ-

「あっイアン、どこに行ってたの?」

「ジェシーか。行くぞ」

「えっ、えっ?」


 ギルドに戻る途中、イアンを探していたであろうジェシーと合流した。またギルド長と話す手間も、探す手間も省け、半ば強引に連れて行く。


「行くってどこに?」

「巨人のところに決まってるだろ」

「あっ、やる気になったんだ。でもどうして急に?」

「なんでもねぇ」


 2人はまっすぐに巨人を目指す。この先にある危険を理解しており、2人とも街を出る前から隠密スキルを使っている。なのでまばらにいる道行く人からは全く気付かれない。


「へ〜。ソニアでしょ?」

「はぁ?」

「だって、ソニアに何か言われなかったら、こんなに心変わりするわけないもんね」

「言ってろ」


 微笑ましいものでも見るようなジェシーから逃れるようにイアンは先を急ぐ。近づくほどに大きくなっていく地響きに呼応するように、心臓の鼓動も大きくなる。


「先に危険手当をもらっておくんだったな」

「何か言った?」

「なんでもねぇ。そろそろだな、見つかったらバラバラに逃げるぞ。ジェシーはあっちだ」


 まだ調査までしかする気がなく、実際に何かするのではない。なのでギルド長に危険手当を要求しなかったイアンであったが、調査だけでも命がけなのではと考え直し後悔していた。

 今さら引き返すのも煩わしいので、そのまま調査は続行することにするが、万が一見つかってしまった時に備えて最低限の逃げ道だけは確認する。


「いいけど、そういえばどうするつもりなの?」

「そうだったな」


 勢いで来たものの、ジェシーは何も事情を知らない。見つけるべきものがわからなければ、ただそこにいるだけの人になってしまう。


「簡単に説明するとだな」


 一度立ち止まり、必要な情報を伝える。巨人と同等の強さを示さなければならず、その方法を見つけるために、とりあえず様子を伺いに行くということ。


「え〜?そんなことできるの?」

「それを見つけに行くんだよ」


 イアン自身も、そんなことが果たして可能なのかと思うところはある。だがそれは、ただの不安でしかなく、巨人を見ないまま不可能と結論をつけることではない。


「もう少しだな。気を付けろよ」

「わかってるよ」


 ジェシーの声がわずかに震えていた。逃げるだけで精一杯だった巨人の災害に、再び足を踏み入れるのだから無理もないことだ。


「静かだな」

「不気味なだけじゃん」


 地響きが1つも起きていない。そのおかげでスムーズに巨人へと近づけているが、どうしてなのか原因がわからないので不穏な雰囲気もする。


「いた」


 イアンが巨人を発見した。巨人は寝そべりながら奇妙に動いており、まだ何をしているのかまでは見えない。


「何をしているんだ?」

「う~ん、よく見えないね。あっちは?」


 ジェシーが指さす方向には、隠れるのにちょうど良さそうな草むらがある。さらに巨人に近づくにつれて増してきているのは、とても甘い臭い。


「こ、この臭いは」

「あら、いい匂い」


 イアンにとってトラウマにすらなっている甘い臭い。しかもホイップクリームの臭いが漂ってきている。


「おいおい」


 巨人の姿をようやく確認できた。その巨体から何かを引き剥がそうとしており、ずっと何かを掴もうとしている。

 それは白いホイップクリームであって、以前にイアン自身が苦しめられたように、固まってしまい取れないようだ。


「あ〜あ。もったいないなぁ」


 ジェシーは残念そうにしているが、巨人と同じようにホイップクリームの被害にあったことがあるイアンからしてみれば笑いごとではない。

 こびりついて固まってしまったホイップクリームをなんとか剥がそうとしたのだろうか、よくよく周りを見ると地面のいたるところが陥没している。


「それで暴れてたのか」

「みたいね。困ったもんだわ。ホイップクリームが固まったら取れなくなるなんて常識なのに」


 もはや反論する気にすらならないイアン。何度も続いていた地響きの原因は、ホイップクリームを剥がすためだったのかと頭が痛くなっていた。


「熱湯が必要なのか」

「そうね。でもなんか、全身に広がってない?」

「だな」


 暴れすぎた結果なのか、ホイップクリームはいたるところにへばりついてしまっている。巨体だからというのもあるが、全てを熱湯で溶かすのは骨が折れそうだ。


「ねぇ。どうするの?」

「どうって、なぁ」


 巨人がホイップクリームを取るために体をクネらせているという、対応に困る状況であった。


「話しかけてみようよ」

「はぁ?本気で言っているのか!?」

「本気、本気。大丈夫だって、甘いもの好きに悪い人はいないから」

「人じゃなくて巨人なんだが。それに俺等は殺されそうにならなかったか?」


 最初に遭遇した時に、命からがら逃げることは出来た。そのことを忘れることなど出来ない。


「あのときは、だって話す前にお菓子の家を食べちゃったから。感動してそれどころじゃなかったのよ」

「んあ?」

「任せて」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょい待ち」


 謎に自信満々なジェシーが1人で行こうとしたところをイアンは引き止める。


「わかったから。俺が行くから、ここで待ってろ」

「え〜」

「えーじゃない。いいか、暴れ出したらすぐに逃げるんだぞ」


 危険な行為であるとイアンは思っていたが、ジェシーを止めることが難しそうだったことと、いずれにしても何かしら行動しなければならないことから、イアン自身が話をしに行くことに決めた。


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