第21話-決意-
「ソニア」
「な~に?」
「俺は欲張りな人間なんだよ」
スローライフも調査隊員としての名誉も、イアンにとってはどちらも大事なことだ。
もしスローライフだけを優先するのであれば、的中率100%を維持するために手段を選んだりしない。調査結果に合わせるためにゴブリンを減らすことに、正当な理由を求めたりしない。わざわざ双子であることを確認したりせず、たとえ単なる不正であっても、ためらわずに行っていたことだろう。
もし調査隊員としての名誉だけを優先するのであれば、的中率100%を維持しようとしない。双子といった予期できるはずのない事態が起きたとしても、それで的中率が下がってしまったとしても。その結果を素直に受け入れただろう。
矛盾しているのかもしれない。
どちらかを選べば楽になれるのだろう。スローライフを選ぶのであれば、巨人に立ち向かわない。調査隊員としての名誉を選ぶのであれば、的中率100%にこだわらない。
イアンは何に悩んでいるのか。どちらを選ぶべきか悩んでいるのではない。両方を選びたかったからだ。
「ほうほう。つまり?」
「えっと、手伝って欲しいんだ」
「ふ~ん」
ソニアは目を細めている。どうしてそんなことを頼む気になったのか、イアンにもわからない。だが何か解決策があるのではないかと、そんな期待をしてしまっていた。
「魔法を使えるって言っても、巨人を追い払うなんて無理だよ?」
「そんな危険なこと、させられるわけないだろ。そうじゃなくて、何か知ってるんじゃないかって」
「へ~。それって、スローライフは諦めるってこと?」
そうではないと、イアンは考えていた。たとえ巨人に立ち向かったとしても、スローライフを諦める必要はない。
楽ではないかもしれないが、どちらとも欲張ることは出来る。
「巨人を追い払ったら、ガッポリ報酬もらえるだろうからね。一気にスローライフに近づけるだろ?」
「えーっ?」
「なんだよ。危険手当をたくさん要求すればいいんだろ?」
「要するに開き直ったってことね。まぁ、それはそれでいいんじゃない?」
呆れているような、喜んでいるような、表情だった。ソニアは自分の魔法の杖をしっかり握りしめている。
「まっ、真面目でワガママなイアンらしい答えだね」
「おい」
「ふふ~ん。しょうがない、手伝ってあげよう。この魔法少女ソニアちゃんにどーんとまっかせなさい」
「魔法、少女ぉ?」
どう考えても少女と呼べるような年齢ではない。思わず疑問の声をあげてしまったイアンに、ソニアの鋭い視線が飛ぶ。
「なにか、言いたいことでもあるのかな?」
「少女はそんな喋り方しねぇ」
「イアンく~ん。一緒に頑張ろうね~。キャッ」
「うをぉぉ。やめろ、なんか背筋が凍る」
信じられないほどの猫なで声にイアンは身震いしていた。と同時に大きな地響きが発生した。
「おわっ」
「おっと」
また巨人が暴れたようで、少しだけ片付いていた店内が再び散らかってしまった。
「大丈夫か?」
「うん。あっ」
「怪我してるじゃん」
不運にもガラスの瓶が割れ、ソニアの手が切れてしまった。手当をしながら、再び散らかってしまった店内を軽く掃除する。
「早くなんとかした方が良さそうだな」
「イアンがもさもさするから」
「悪かったな」
ざっと片付け終わり、怪我の手当も終わる。決断が遅くなってしまったのはその通りであり、巨人に立ち向かうと決めたのであれば早く行動したいとイアンは考えていた。
「それで、巨人の苦手なものとかあるのか?」
「う~ん。無いね」
「無いんかい」
イアンも、あっという間に巨人を追い払えるような魔法や、すぐに巨人がどこかに行ってしまうほどの弱点があるとは思っていなかった。
それでも、何かしらの対抗策があるのではと期待しており、違ったのかと思っていた。
「だって巨人と戦おうなんて人間いないよ?」
「ソニアの国の人達なら魔法で戦えるんじゃないのか?」
「それは、このまま強くなり続ければって話で、今は絶対無理だね」
ではどうしたら良いのか。本当に対抗策は無いのかとイアンは不安になってしまっていた。
「そんなに深刻な顔しなくても大丈夫だって、私も一緒に考えてあげるからさ。だから巨人の様子を見に行かないと、ね、調査隊員さん」
巨人を追い払う手がかりは、イアン自身が掴み取らないといけないということであった。ソニアは応援するように小さなガッツポーズをきめている。
「調査ったってなぁ。ヒントっていうか、どんなところに注意すればいいんだ?」
「う〜ん、難しいね。少なくとも、巨人と同じくらいの強さを見せないと、話を聞いてすらもらえないだろうね」
「おいおい」
災害に等しい巨人と同等の強さを見せる。そんなことが可能なのかとイアンはさらに不安になってしまっていた。一方で、やると決めたことに変わりはない。
「そういえば、ソニアはどんな魔法が使えるんだ?」
「あぁ、これこれ」
ソニアの魔法の杖の先に炎が灯る。暖かみのある炎は、街灯ほどの大きさでゆらめく。
「便利そうだな」
「そう?でもこれで精一杯なんだよね」
巨人をどうにかできるほどの炎かと問われれば、決してそんなことはない。よはいえ夜道を照らすには十分すぎるほどで、活用方法はいくらでもありそうだった。
「なにか手伝ってもらうかもな」
「良いよ。あっそうだ、ジェシーは連れて行かないの?」
「う〜ん、まぁ、そうだな」
戻って協力を仰ぐと、気まずい雰囲気になってしまうのではとイアンは感じていたが、少しでも協力者がいた方が良いことでもある。
「ちゃんと誘いなさいよ」
「わかってるよ」
イアンはギルドへと戻っていく。何か1つでも、巨人を追い返すための手がかりを掴まねばという決意を胸に。




