エピローグ
目を覚ますとそこは、物置の中だった。
電気の点いていない物置の中は、窓から差し込む光で、淡いオレンジに染まっている。
身体は……長く床で眠っていたような痛みは感じない。
そして頬には、少しだけ引き攣るような感触だけが残されていて。
足元を見ると、履いているのはスリッパだった。
ゆっくりと辺りを見回す。
当たり前だけど、部屋の真ん中に扉なんて無くて。
やっぱり私は、一人きりだった。
日付はあの日のまま、時間だけが過ぎていた。
物置の中を、家中を、庭中を探したけれど、ナツの姿は見つからなかった。
そのことが、寂しいし、悲しいけれど、同時に少し、ホッとした。
シュレーディンガーのナツじゃないけれど、この世界で私がナツを観測できないということは、ナツがあの世界で元気に暮らしている証拠、そう思えるから。
家の中を見回せば、まるでこの家の主がナツだったんじゃないかと思うくらい、猫のための道具や設備が目に入る。
今すぐは、無理だけど。この家で暮らしていくのなら、いつか、新しい子をここへ迎えてあげたい、と思った。
そしてその子も、私のことを、人間のことを、大好きになってくれたら、とても嬉しい。
それに、そうなればきっと、その子だって――。
ふと、喉の渇きと、空腹感を覚えた。
水を飲んで、夕食の準備を始めよう。
自然にそう思えたことが、嬉しい。
それは、ナツの贈り物が、確かにこの胸に有ることの証明だから。
一つの夢は終わり、そして私は、この現実を、生きていく。
もしかしたらまた、それこそモンスターのように恐ろしい理不尽が、この身に襲いかかってくるかも知れない。
そして、私はその理不尽に、魔法の力も無しで立ち向かわなければならない。
それは、とても恐ろしいと、そう思う気持ちは私の中にまだ、有り続けている。
逃げてしまった方が楽なのではないかと、そう思う気持ちもまだ、完全に無くなったわけじゃない。
それでも。
あの世界で、私が強くなれたのかどうか、それは結局分からないけれど。
だから、いつの日か、挫けてしまうかも知れないけれど。
それでも、それが、ナツの望みなら。
行けるところまで、ただ、精一杯、私は生きてみよう。
それはきっと、両親やカレもまた、望んでいたことでもあるはずだから。
その中で、カレの望んだ、私の幸せを見つけられるかどうかは、分からない。
だけど、見つける努力はしたい。
そうしなければ、私はカレに、胸を張れない。
そして私は、カレに胸を張れる私でありたい。
今は、心から、そう思える。
道の途中、ふと見上げた空は、鮮やかに深く蒼い、夏の色だった。
それは、私が、大好きな色。
だから私は、その色を見てももう、悲しくなったりなんて、ちょっとだけしか、しないのだった――。
“The Door into ‘Regretheal’ ”
The End.
ご読了、お疲れ様でした。
ところで、あなたにとってのナツは、どんな子だったでしょうか?
ナツの容姿に関しては、読んだ方にとって一番かわいい、若しくは“うちの子”に次いでかわいいと思える猫をそれぞれに想像して欲しくて、具体的な描写は意図的に避けました。
その結果として、ナツをよりかわいいと思って頂けたなら良いのですが。
ナツに限らず、登場した猫ちゃん達をかわいいと思って頂けたなら、この作品にとっては最大級の褒め言葉です。
もし、かわいいと思って頂けなかったなら、それは自分の力不足です。申し訳ありません。
万が一、猫がかわいい、以上の評価を頂けたなら、それは望外の喜びというもので、とても幸いに思います。
作者としては、良い部分も悪い部分も、率直な感想を伝えて頂けると有り難いのですが、評価を数字で教えて頂けるだけでも嬉しく思いますので、差し支えなければよろしくお願いいたします。
それでは、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。




