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三十八話 迷路の主

 曲がり角まで急いで近づき、その先をそうっと窺う私。

 何かキモチ悪いのがいる!

 私が手を伸ばせば両壁に届くほどの狭い通路。そこにぎっちり詰まったふさふさの毛皮。


 緑色の長毛で覆われた謎の生物。

 それは、私にお尻を見せながらバリバリと何かを食べていた。

 小刻みに揺れるふわふわの毛、それだけなら私は何も考えずノータイムで抱きついていたと思う。


 私が飛びつくのをためらった理由。それはこの子は毛の下から何本もの足が生えていたから。

 足なんて付いてない生き物の方が少ない。それはわかるよ?

 陸上のなら尚更ね。


 でも、この子のそれは足なんてもんじゃない。

 足として長さ1メートル位の角材が生えているのだ。

 さながら精霊馬だ。

 しかもふさふさの体と違って足の方はスカスカだから先が見えるんだけど、後ろから見るだけでその足は少なくて10本は有る。


 簡単に説明すると、ホコリ取りのふさふさしたハンディーモップに沢山の割り箸が刺さってる感じ。

 それが何かを一心不乱に食べている。

 これよりホラーなものはあんまりないと思う。


 森に出てくるモンスターが実在の動物ばっかりだから油断してたよ。

 こいつぁモンスターだ!

 ミーちゃん早く帰ってきて! 私一人の手には負えないよ。


 ザザザッザザザッザザザッ


 あっどうしよう、動き出しちゃった。

 迷路攻略に関係ない子だったら良いけど、一時間迷った答えがこの子なら逃すわけにいかない。

 ……メールだけ送っておいて追いかけよう。

 ついでに全員にメールしておけば合流した時に安心だよね。


「でも勘違いしないでよね! 戦いたいんじゃなくて、これ以上迷うのが面倒なだけなんだからね!」


 ……誰に言ってるんだろう。こんなことして遊んでる場合じゃないや、メールする時間も惜しいっていうのに。

 モップくんを目で追いながら、メールウィンドウをチラ見して文字を打つ。

『みんなへ ボスっぽい子をみっけたよ 急いで助けてね!』

 よし、これでオッケー。


 モップくんはっと、あっあそこの通路だね。


「……壁壊れてる! 食べてたのってこれだったんだ」


 さっきふーちゃんがスキルで開けた穴より、もっと大きな穴が壁には開いていた。

 しかもそれの再生スピードも段違いだ。

 まあプレイヤーのルール違反ギリギリ行為と用意されたボスじゃ違って当然だけど。


「おじゃましまーす。あっリッくん、一応落ちてる葉っぱ食べておいてね」


 再生の始まった生垣を飛び越え、私とモップくんの後戻りできない追跡劇が始まったのだ。

 まず最初にリッくんを地面に下ろして生垣周辺に散ったボスの食べ残しを片付けさせ追跡を再開する。

 たぶんゴミにしかならないんだろうけど、今の私は一枚でも使えるカードが欲しいからね。


 よしっ綺麗になった。モップくんもまだ見えるとこに居る。

 歩いてでも追いつける距離だ。

 彼は今また別の壁を食べているところだった。


 それにしても目的ってなんなんだろう、ただ迷路を食べてるだけだよね。

 迷路を作り替えてるのかな? 顔の方が見れたらもう少しわかるのかもしれない。

 でも、この体の近くを通ってバレずに前に出るのは難しいよ。

 バリバリと壁を食べてる時は動きが止まってるけど横は隙間がない。


 下を潜っていけば行けなくはなさそうなんだけど、なんだか見た目が毛虫っぽくて生理的に近づきたくないんだよね。

 絶対襲ってこないって分かっても蜘蛛や虫の横を通るのをためらっちゃう感じ。

 なので今できることは、誰かが助けに来てくれることを待ちながらストーキングすることだけなんだ。


 ピコーン!

 メールだ。差出人はふーちゃん。


『待ってて 今ぼくが助けに行く 絶対いく すぐ行く だから耐えてて』


 おお! がんばってふーちゃん。私待ってるから! 返信だけしておこ。

『わかった!! がんばるから がんばって!!』


 ッザァーーーン!!


「──ひゃっえ、なに? 大きかったけど」


 私が返信してウィンドウを閉じるのと同時に、エリアのどこかから大きな音。

 爆発か大規模な伐採音。

 もしかしてしなくてもふーちゃん? だとしたら嬉しい。

 嬉しい……けど、残念なことに音は随分遠くから聞こえた気がした。


 うーん。たぶんふーちゃんと合流は難しいかな。

 なんだっけスタミナ? とかがあるんでしょ?

 さっき目の前であのスキルを見たけど、ここでは通路二つ分くらいしか抜けないみたいだしたどり着く前にスタミナ無くなっちゃうんじゃないかな。

 あっでもふーちゃんモンスターの居場所がわかるスキルも持ってるんだっけ?

 ならある程度近づけば場所わかってくれるのかな。


 っとモップくんがまた移動だ。

 リッくん! いくよ。


「お? おお?」


 次の生垣を超えた先にはさっきのイベント待機エリアみたいな広場が有った。

 四方を生垣に覆われ、果物を実らせた木が数本。

 その下には熟した大きな果実が抱えきれないほど落ちている。


 敵は……いない?

 なんだろうここ、ゴール、ではないよね。

 とりあえずあの落ちてる果物をリッくんにあげようか。


「──あっボスどこ!? っわ!」


 何も考えず果物を拾いに行き、リッくンを傍から離してから、私は自分がどうやってここに来たのかを思い出した。

 そうだここにも敵がいない! 私が追いかけていたボスもいない!


 ザザッ


 背後からの音に反応してとっさに前へジャンプ。

 腕を伸ばしリッくんの取っ手を掴んでスイング、その遠心力で私の体を半回転。 


「わーあの、そんなお顔をしていたのですねー。はは」


 毛皮の先端から突き出たワニのような長くてゴツゴツした顎。

 私を食べようとして空ぶったのか半開きの口には鋭い牙が何列にも並ぶ。

 口は裂け目のギリギリまで毛に覆われていて、目は毛の中に隠れ白く光っている。


 ええ……草食って感じじゃなくない? もっと可愛くなった方が私からの人気出るよ? ほんとだよ? 

 ああ、本当に誰でもいいから助けてください……


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