三十六話 突入! そして今更のこと
タワー内部に入ると意外とプレイヤーの姿は多くなかった。
数組のグループが壁際で相談しているくらい。
そしていつもと変わらない様子でNPCのお姉さんが並んで座る円形カウンター。
ただ一つ初めて見るのは、その中央部に光の柱のようなものだけ。
「あれ? あんなにいたのに中は空いてるんだね。順番待ちとか無いの?」
「順番待ちって、別に穴に落ちるだけだからな」
「穴とはあの柱か?」
「上に光が昇ってるように見えるけど実は下向きに照らされてるだけ。まあ行ったほうが早いって。全員準備できてるだろ?」
準備って言っても私はリッくんだけいれば大丈夫だし。……攻撃用のアイテムは心もとないかもだけど。
まあ最悪誰かにアイテム恵んでもらえば何かしらできるよね。
だから回復薬だけ気をつければオッケー……
「あっ!」
「なんだよユー」
私、回復薬とか補充してない。
リッくんがいれば作れるけど出来れば最大状態で行きたいし。
「私、消費アイテム買ってくるよ。ちょっと待ってて!」
みんなに断ってタワー内の売店へ行こうとした。
この中央タワー内部にはコンビニみたいに細々としたアイテムが売っているスペースもあるのだ。
「ああいらないぞ。中にはアイテム持ち込み不可だから」
え、不可? なら私何もできなくない?
それに私以外にもアイテム前提のクラスとかいるでしょ。例えば──
「持ち込み不可なん? ウチはいいけどお嬢様の銃弾とかはどうなるんです?」
「……見た目通りに、木の棒を振り回して戦えば?」
「ふふん。良いのか? それでも貴様を上回ってしまえば、いよいよ小鼠はケージの中で飼われるしか価値もなくなるぞ」
そう、カレンちゃんは銃を撃って戦う。
弾丸はオートリロードだけど所持数から残弾が減っているはずだ。
「ふー、お前は知ってるだろ変なこと言うなよ。アイテムは装備だけそのままで、向こうに行ったらクラスごとに最低限の物がもらえるぞ」
「でも最低限ってどんなもの? 私回復薬とかだけじゃ戦えないよ? 隅っこで見ててもいい?」
だってリッくんの攻撃用アイテムって素材とかを勝手に食べさせてるだけだし。
これ絶対クラス用のアイテムじゃないよね。
「最初は敵弱いんだから稼げよ。敵の攻撃があればいくらでも攻撃アイテムが補充できるとか言ってたろお前」
「えーなら協力してよ?」
「当然だろ? 戦力は最大限に使わなきゃダメだ」
黒ウサギの攻撃をアイテム化できて浮かれ気分でミーちゃんに話したのが不味かったか。
隠していれば戦わない理由が認められたのに!
「そういえば昨日は煙に撒かれ貴様の戦闘を見ることができなかったな。今日はしっかりと見させて貰うぞ」
「私、戦ってたし隠してないからね!? カレンちゃんが勝手に寝てたんだから!」
「……うん。ユーはがんばってお守りした」
「だよね!」
「はい! じゃあそろそろ行きませんか?」
「うん。もう全部諦めて突撃あるのみだね。ミーちゃん! 先陣は任せた」
「ただ入るだけだっての。じゃあ私入ったらすぐ来いよ? PT参加判定は3分間だから」
「はーい」
ミーちゃんはNPCのお姉さんに話しかけてPTの登録をすると、カウンター同士の境目から中へと進み光に飛び込んだ。
「……じゃあ次ぼく行くね」
「うん。私たちもすぐ行くよ」
次にふーちゃん。そしてカレンちゃん、あんずさんと飛び込んでいき残ったのは私だけ。
お姉さんには話しかけなくていいんだよね。
一応会釈だけして横を過ぎ、光の前へ。
深呼吸一つしっかりとしリッくんを抱えて皆の後を追った。
────────────
「──よし。全員揃ったな。ユー、大丈夫か?」
眩い光に包まれ目を固く閉じたのも数秒。ミーちゃんの声が聞こえ私は目を開ける。
私達は自然の中にいた。空は雲もない晴天。鳥の声と大樹の森に包まれた小さな広場。
動くものは私たち5人以外に何もない。
「ここがイベントステージ?」
「ああ今回は森らしいな。それよりまずアイテム確認してみ」
「あそっか支給品があるんだもんね」
ミーちゃんに言われアイテムバックを開く。
当然黒水晶や竜骨なんかの攻撃に使っていたアイテムは入っていない。
中に入っていたのは、
回復薬5個
STブースト剤1個
調合剤の素3個
モンスターフード5個
これだけだ。
回復薬とフードはわかるけど残りの二個がなんなのかわからない。
「ミーちゃん、調合剤ってのとエスティーブースト剤ってのが入ってるけどこれなに?」
取り出してみると細いガラス瓶に黄色いはちみつみたいな液体が入っている。
それをミーちゃんに見せると彼女は嬉しそうに受け取り、太陽に透かす。
「ブースト入ってたのか? 当たりだぞ。調合剤はそのまんまの状態異常とかを治す薬の素な。ブーストの方は│STの回復を5分間も早くしてくれんだよ」
「ふーん? ちょっと待って、スタミナってなに?」
「え?」
「ん?」
昨日GMのお姉さんもそれっぽいこと言ってた気がするけどステータスにそんな項目有ったっけ?
ステータスを開いて確認するけどやっぱりそんな物は載ってない。
スタミナってことは走るの早くなるの?
「説明してなかったか?」
「スタミナ? 聞いてないけど」
「あー言い忘れてたのか。てことはスキルも使ってなかった? いやリッくんで攻撃してんじゃん。あれST消費してるだろ」
「ミーちゃん、リッくんが使ってるのはいらないアイテムだよ?」
もう。こっちはちゃんと教えてあげたのに……ちゃんと覚えてよね。
「違うっての! ああもう面倒だわ。あんず姉ちゃんってそこらへんわかってる? こいつに教えてやって欲しいんだけど」
「ウチも始めて数日なんだけどね。……えーっとSTっていうのはスキルを使うときに消費するポイントなんよ。クラスごとに付いたスキルや武器に付いたスキル、どっちもね」
「え、じゃあ私スキルオフにしたいんだけど! どれかにヘイト集めてるスキル有るからそれ止めてよ」
「あーそれは常時発動タイプだからオフとか無理かな。あっ! ウチのスキルで説明するわ」
あんずさんはそう言うと私達から少し離れたところへ行きこちらを向いて拳を構えた。
「まず常時発動タイプやけど、ウチが付けてるスキルは自動防衛っていうの。お嬢様ーちょっとお願いします」
「ああ任せろ」
あんずさんにお願いされたカレンちゃん。ライフルを抜くと躊躇わず数発狙い撃った。
テンポや狙う位置をずらした数発の弾丸。その全ては本気であんずさんへのダメージを狙ったもの。
キンッキンッキンキンッ
フルプレートのアーマーと言えど関節部はどうしても弱くなる。
カレンちゃんは両腕を前に構えたあんずさんのかたや肘などの比較的柔らかな部位を狙ったはずだった。
しかし、弾丸は全て彼女の両腕に装備された中型のシールドによって防がれた。
でも、確かにあんずさんは動いてはいない。
彼女の盾だけが勝手に回転したのだ。
手首辺りを起点にぐるぐると。
「ありがとうございましたお嬢様。こんな感じでウチの盾は勝手に攻撃を弾いてくれるんよ。でも一回攻撃を防ごうとするたびにちょっとずつSTを使って、連続で防げるのは30秒くらいかな」
「へーじゃあさっきのブースト薬を使えばもっと耐えれることなんだ! なんとなくわかったよ」
「じゃあ、次は──」
「あっ二人共、そろそろステージ開くからそれくらいでやめて」
「えー乗ってきたとこなのに」
あんずさんが次のことを説明しようとしたら、ミーちゃんに遮られちゃった。
もう少しあんずさんの話聞きたかったのに。




