後編
魔王城へと召喚されたE級魔族・レクルタ=アッスントは教育係を名乗る女魔族・シニストラ=チェルヴェッロの言葉に魔族の証である赤い眼を丸くさせた。
「……シニストラさん、今……総務課って言いました……?」
「ええ、あなたは私の部下として総務課に配属となりました」
「……そ、総務課って……、何をするところなんですか……?」
「その名称通り、様々な業務を幅広く担当する部署です。魔王城の清掃業務や保守管理、書類の整理に人事や経理業務なども兼任しています」
「そ、それじゃあ、勇者の討伐は……⁉︎」
「それは営業部の業務です。総務課の業務には含まれてはいませんね」
「そんな……! 憧れの魔王城に呼ばれて両親も喜んでくれてたのに……‼︎」
ガックリと膝を突いてうなだれるレクルタへシニストラはあくまでも冷静に告げる。
「では、退職しますか? その場合、魔王軍系列の下請け企業にも再就職は出来なくなりますが」
「…………ッ! 分かりましたよ! やります! 総務課で働かせて下さい‼︎」
「了解です。では、まず総務課を案内しましょう」
総務課のドアに手を掛けるシニストラへ視線を向けることなくレクルタは思案する。
(どうやら僕は配属ガチャに失敗してしまったみたいだ……! でも、こうなってしまったからには嘆いていてもしょうがない。与えられた仕事はキッチリこなしつつ、勇者討伐が出来る部署へ異動願いを出し続けるんだ……!)
決意が固まったレクルタは勢い良く立ち上がり、シニストラに続いて総務課のオフィスへと足を踏み入れた。
【————てめえ、○すぞコラァッ! 転勤OKのナショナル魔族を選んどきながら、今さら転勤拒否だあ⁉︎】
男の野太い怒鳴り声が響き渡り、レクルタはビクッと身を震わせる。
【ク○が、てめえはエリア魔族に区分変更だ! 次のボーナス査定覚悟しとけよ、この○ズ野郎ッ‼︎】
恐る恐る声の主へと顔を向けると、レクルタの父親と同年代と思われる白髪混じりの男が眉を吊り上げながら誰かと魔力通話している姿が眼に映った。
「……チッ、最近の若え魔族ときたら根性のねえ○ソばっかでやってられねえ……!」
口を開けばコンプライアンスに抵触するようなことばかり発する男性魔族にレクルタは眉をひそめる。
「シニストラさん、あの怖そうな魔族は……?」
「あの方は総務課長のデストロ=ラッビア様。『S級魔族』ですが、恐ろしく短気な方なので怒らせないように」
「エ、S級⁉︎ あの魔族が……」
驚きつつもレクルタが憧れの視線を向けると、総務課長・デストロは別の魔族へと話し掛けていた。
「おい、茶だ! おい、マヌエラは何処行った⁉︎ ションベンか⁉︎」
「さあ? そう言えば、今日は朝から見てませんね」
「サキュバスのマヌエラさんなら昨日から有給取って異世界のキョートに行ってますよ」
別の女性魔族が答えると、デストロは額に青筋を浮かべて椅子から立ち上がった。
「ああ⁉︎ 有給なんて聞いてねえぞ⁉︎ 誰が承認しやがった⁉︎」
「え? 課長じゃないんですか?」
「俺ぁ、承認なんてしてねえよ! あのク○アマ、課長印を勝手に使いやがったな⁉︎ 繁忙期は有給取んなっていっつも言ってんだろうが、ク○ッタレ‼︎」
デストロが苛立ち混じりに椅子に座り直したところを見計らってシニストラが声を掛ける。
「課長、お忙しいところ失礼いたします」
「ああ⁉︎ ……シニストラか。俺ぁ、頭冷やすためにちょっくら勇者を討伐してくるわ。ちょっとここ頼んだぞ」
「ちょっとタバコ吸ってくるみたいに言わないでください。こちら新入魔族のレクルタ君です」
「あん? 新入魔族だあ?」
デストロはタバコをくわえながらレクルタへと視線を移した。
「————レ、レクルタ=アッスントです! よろしくお願いします‼︎」
背筋をピンと伸ばしてレクルタが自己紹介すると、デストロは思い切り紫煙を吐き出して口を開いた。
「ちょうどいいや。おいガキ、おめえがギアッチャーレ支社に行って来い」
「ギ、ギアッチャーレ支社?」
「この大陸の最北端のギアッチャーレ地方にある支社です。我が社の重要アイテムが保管されているのですが、課長、もしや勇者に……⁉︎」
シニストラが尋ねると、デストロはまたしても遠慮なく煙を吐き出した。今度は鼻から。
「いや、勇者にやられたワケじゃねえ。あそこの管理を任してたカ○野郎が単身赴任に耐えられずに飛んじまいやがってよ。誰か代わりを置かねえといけねえ」
「そうですか……、ギアッチャーレ支社は極寒の辺境地ですしね。しかし課長、新入魔族はまず駆け出し勇者が多いマリアハン支社に配属される規則ですし、そもそもレクルタ君は営業部ではなく総務課の配属です。彼は異動出来ませんよ」
「チッ、そうかよ。ク○が、他に誰かテキトーな奴はいねえのかよ……」
デストロは頭を抱えて再びタバコを吸い込んだ。
「……あの、シニストラさん。ギアッチャーレ支社で保管している重要アイテムって……?」
「カードキーです。それがあれば我が社の裏口から、大魔王様の居室がある42階までの直通エレベーターに乗ることが出来ます」
「は⁉︎ なんでそんな大事なものを社外で、しかも辺境の支社でたった一人の魔族に管理させてるんですか⁉︎」
信じられないといった表情のレクルタに問われたシニストラはあっけらかんと答える。
「さあ? そういった慣習としか」
「慣習って……!」
「あーーッ‼︎ 管理職なんてめんどくせえッ! 営業職に戻りてえッ‼︎」
その時、突然デストロが立ち上がり発狂したように叫び出した。
「か、課長⁉︎」
「あああああ、勇者を討伐してえッ‼︎」
「大丈夫です、レクルタ君。課長は時々こうなるのです」
「だ、大丈夫って……」
戸惑うレクルタとは対称的に、周りの魔族たちは特に気にせず黙々と業務を続けていた。
「デストロ課長は若い頃の現場での営業成績を認められて魔王城での管理職に抜擢されたのですが、時々中間管理職ストレスが爆発してしまうのです」
「……そ、そんなに実績がある魔族なら現場に戻った方が魔王城にとっても良いんじゃ……⁉︎」
「それは出来ません」
シニストラは意味深に眼鏡の位置を直して続ける。
「デストロ課長には|有事の際、来客用の休憩室と社長室のドアの間で対応に当たって《勇者一行がやって来た時にセーブポイントと大魔王様の居室の間で中ボスになって》もらわないといけませんから」
「……な、なんで来客用の休憩室が大魔王様の居室のすぐ近くにあるんですか……⁉︎」
「そういった慣習————」
【————あ、モーダメさんですか? 僕、レクルタ=アッスントと言いますが退職代行お願いします】
終わり




