表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本再興機関ESPセクション ー虚空を超えてー  作者: 島田小里
第1.5章 日常とキャラクター紹介

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/316

5.真維

 『真維』は、縣 譲が造った人工知能である。


「ふーん。意外と半年で何とかなるもんだな」


 ウィンドウを見ていた譲がそう言った。

 克己とるいざ、麻里奈が基地へ来て半年、つまりトレーニングを始めて半年経ったということだ。


「俺にも見せて」


 克己が譲の肩に顎を乗せてウィンドウを覗き込む。


「共有されてるんだから、自分で見ればいいだろ?」

「面倒。疲れててそんな気になれねーよ」


 今日のトレーニングはハードだった。克己はかろうじて動けているが、るいざと麻里奈は床とお友達になっている。


「全員の数値を簡単に纏めるとこんな感じだな」

「おお……」

挿絵(By みてみん)

「ちなみに実用レベルは3以上だ」

「相変わらず、お前はチートだな。全能力実用レベルってどういうことよ? つか、お前の特殊能力枠って何なの?」

「今の所発動していないから謎だ。存在するらしい反応だけは出るんだが」

「また秘密にしてるんじゃないだろうな?」

「残念ながら事実だ」

「ふーん。安定度もさすがだよな」

「でなけりゃ、こんな仕事してないな」

「ごもっともで」


 と、レーダーチャートを見ていた克己が、何かを思い出したのか突然吹き出した。


「そういえば、このるいざのテレパシーが発動したときは笑ったな」

「ああ、アレな。よっぽど腹がたったんだろうな」


 るいざのテレパシーはトレーニングを始めて5ヶ月経った頃に発動した。原因は、麻里奈と克己のケンカである。珍しく能力を使っての大ゲンカに、キレたるいざが大声で2人を制止した瞬間、能力が発動したのだ。本当に何がきっかけで能力が発動するかわからない。

 ちなみにその後、1人だけ能力が2つしかないと麻里奈が拗ねて大変だった。


「これも日再に報告するんだろ?」

「定期報告で上げてはいるが、このまま報告はしていない」

「どういうこと?」

「数値を半分位に落として報告している」

「何で? 高い方が成果が出てて、評価が良いんじゃないのか?」


 克己の問いに、譲は呆れたように言った。


「主戦力になって兵器になる気があるなら、お前の数値だけそのまま報告してやるが?」

「遠慮します」

「とりあえずこのチャートは、しばらく封印だ。明日は本部で会議があるのと、次の日に上に呼び出されているから2日留守にする。その間は自由行動していてくれ」

「OK」

「真維、いつもの通り報告頼む」

『解ったわ』


 真維がチャートを変更し、報告書を書き上げていく。その様子を譲がチェックする。


「あ、そこの表現は少し持ち上げておいてくれ」

『このくらい?』

「そそ。Thanks」


 真維と譲のやりとりを見て、克己は感心して呟いた。


「相変わらずスゲーな。まるで人が居るみたいだ」

『ありがとう』


 ウィンドウの真維が微笑む。

 真維は、基本はウィンドウの中に居るが、この基地の中だったら3Dグラフィックを表示し、普通の人間と変わらないように振る舞う事もできる。

 また、特に譲が制御しているというわけでもなく、真維は真維自身の考えに基づき行動するので、必ずしも譲の言うことを聞くとは限らない。

 そんな真維の趣味は、現在は情報収集で、世界各地の過去から現在までのあらゆるデータを閲覧しては、成長していっている。


「そうだ。夕食を頼みたいんだが」

『るいざさんがダウンしてるものね。解ったわ。消化に良さそうな物をテラスに用意するわね』

「助かる」

『譲がちゃんと食べられるようになって何よりだもの。このくらいするわよ』

「余計な事は言わなくて良い」

『ふふっ』


 真維が嬉しそうに笑う。それを見て、克己が疑問に思ったことを口にした。


「真維って人格もあるのか?」

「あるぞ」

「どんな人格が設定されてるんだ? なんかお前の姉っぽい気がするんだけど」


 譲が驚いて目を見開いた。間近で見たいつものポーカーフェイスではない素の表情に、克己も驚いて目をしばたたかせた。

 しばらくお互いに見つめ合ったが、先に目をそらしたのは譲だった。


「とにかく、それで報告しといてくれ」

『はーい。報告完了』


 作業の終わった真維が、ウィンドウから姿を消すと、譲は肩に張り付いていた克己を引き剥がした。


「今日のトレーニングは終了。夕食は何時もの時間だから、それまでにこいつらを復活させておいてくれ」

「へーい」


 展開していたウィンドウを消して、譲はトレーニングルームを出て行った。

 それを見送り、克己はるいざと麻里奈へと歩み寄る。


「おーい、生きてるかー?」

「なんとか……」

「……」


 麻里奈は辛うじて身体を起こし、座った体勢になったが、るいざは転がったままだ。


「無理しすぎも良くないぞ」

「分かっては、いるんだけど……」


 まだ呼吸が整わないるいざに、水を差し出し、克己もその場に座り込む。

 と、麻里奈が克己に聞いた。


「さっきの、能力のチャートってどこにあるの?」

「共有されてるって言ってたから、何時ものフォルダーじゃね?」

「ああ、あったわ。でも自分の分しか見れないのね」

「え?」


 克己もウィンドウを広げて探してみるが、麻里奈の言うとおり、自分の分しか見られなかった。


「譲のチート級のグラフを見たかったのに、残念。あ、でも書き換えられてるのは見れるわ」

「このPKだけそこそこの数値のヤツか」

「そそ。平凡そうなの」


 麻里奈は興味を失ってウィンドウを消すと、持ってきていた荷物から、自分の飲み物とお菓子を取り出した。


「お前、いつもお菓子持ってるな」

「甘いものは、心の回復薬なのよ」


 悪びれもせずにチョコレートを口に入れる。


「麻里奈、私にアメちゃん1つちょうだい」

「はい」

「俺にはクッキーくれ」

「何だかんだ言って結局食べるんじゃない!」

「腹減ってるんだから仕方ねーだろ!」


 くだらないケンカを始めた2人の横で、ようやくるいざが身体を起こした。


「今日のトレーニング、いつもにましてハードだったわね」

「だな」

「明日居ないって言ってたから、その分かも?」


 話を聞いてはいたらしく麻里奈が言うと、るいざは克己を見た。


「そうなの?」

「明日明後日と留守にするって言ってたな。会議とかで本部へ行くんだと」

「そうなんだ」

「ちなみに夕食は真維に頼んでたから、るいざは安心してへばってていいぞ」

「それはありがたいわね……。さすがに今日は無理だもの」


 胸をなで下ろしたるいざの隣で、麻里奈が新しいお菓子を開ける。


「でも珍しいわね。本部で会議なんて。いつもリモートなのに」

「言われてみればそうだな」


 このご時世に、わざわざ集合する意味が何かあるのか。

 麻里奈がクッキーを食べながら、真維に聞いた。


「真維、明日の会議って何かあるの?」

『未確認情報だけだから、これと言って言えるものはないわ。ごめんなさい』

「そうなのね。解ったわ。じゃあ、書き換えてない譲のチート級グラフを見たいんだけど」

「諦めてなかったのか」

「当然でしょ!」


 しかし、真維はニッコリと微笑むと唇に人差し指を当てた。


『今は麻里奈ちゃんには秘密』

「えー!!?」


 そのやり取りに、克己とるいざは吹き出し大笑いするのだった。






 一方コンピュータールームでは、譲が遠隔操作の準備をしていた。真維は、基本的にこの施設内を統括しているが、実際はそれにとどまらない。外部からのアクセスももちろん可能である。だが、今回が初となるため、念には念を入れて確認作業をしていた。


「いけそうか?」

『問題ないわ』

「なら良い。……そう言えば、余りアイツらに余計なことを言わないでくれよ」

『何のことかしらね』


 クスクスと真維がからかうように笑う。

 と、ムスッとして譲が言う。


「まだ信用した訳じゃない」

『大分心を許してるように見えるけど?』

「……」


 黙ってしまった譲に、真維が仕方無さそうに笑い、ウィンドウから出てくる。


『解ってる。だから安心して』


 そう言い、譲の頭を撫でる。


「俺は『真維』が居ればそれで良い」

『人嫌いなんだから』

「人間なんて信用出来ない」

『今はそれでも良いわ』


 真維は、譲から一歩離れるとビシッと譲を指差して言った。


『でも、そのうち変わると思う。断言してあげる!』


 唐突に宣言されて譲が驚いてるうちに、真維はウィンドウへと戻ってしまう。


「断言されてもな……」

『ふふっ。懐かしいわね』

「!」


 何の気なしに言った真維の言葉に、譲はうつむいた。そして、1つ大きなため息を吐くと、色々な思いを払うように頭を振った。


「とりあえず、明日、本部で時間がある時にいくつかやりたいテストがあるからデータをピックアップしておいてくれ」

『解ったわ』

「さて、明日は鬼が出るか蛇が出るか」


 そう言うと、全てのウィンドウを閉じて、譲は夕食を取るべく、テラスへと向かった。


挿絵(By みてみん)

次回から新章突入です!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ