4.佐々木 Jr. 克己
トレーニングも始めて3ヶ月も経つと、各々コツらしきものを掴めて、能力の発動は安定して出来るようになってきた。ここからは精度や持続時間、威力を伸ばしていく事になる。以前と違い、目で見たり、数値で成果が測れる事も多く、達成感を得られやすい事から3人の上達も二次曲線を描いていた。
「でも、どうして譲は持っていない力の事にも詳しいのかしら?」
と、唐突に麻里奈が言った。どのくらい唐突かというと、夕食中に、今まさにるいざにデザートを頼んだ次の台詞だというくらい唐突だった。
しかも、今日の夕食の話題がトレーニングと関係あったかというと、全く持って無い。譲に至っては不在だ。
「とりあえず、デザートを用意して良いのかしら?」
立ち上がりかけた姿勢のまま固まってしまったるいざが、念のため確認する。
「もちろんよ! 今日はなにかしら?」
「今日はフルーツの盛り合わせよ。ほら、克己がトレーニングで遊んでたじゃない?」
「ああ、してたわね」
2人が言っているのは、今日のトレーニング中に植物を成長させて収穫まで持っていって遊んでいた事だ。
麻里奈が思い出したようにペンダントを取り出し、克己のプロフィールを表示した。
名前:佐々木 Jr. 克己
所属・役職:特殊能力課
年齢:21歳(2136年4月1日現在) 誕生日:1月29日 性別:男
身長:182cm 体重:68kg 血液型:A
髪:ピンク色 瞳:緑色
特記事項:国籍(日本・アメリカ)特殊能力として、テレポーテーション、シールド、植物に干渉する能力を持つ。
「なんで克己だけ3つも能力があるのかしら。不公平だわ」
唇を尖らせて麻里奈が言うのに、あきれた顔で克己が答える。
「俺も最初は2つだったよ。途中で色々あって増えたの」
「ってことは、私も増える可能性があるって事よね!」
「十分有り得ると思うぞ」
「平和に増えるなら良いけどね」
と、山のようなフルーツの盛り合わせと取り皿を持ったるいざが言った。
「そんなことより、せっかくの新鮮なフルーツだもの。食べる方に集中しましょ」
「ホントよね。こんな贅沢が出来るなんて思わなかったわ!」
「俺のおかげだからな」
「克己様々ね」
「現金なヤツ」
克己は笑ってるいざから取り皿を受け取った。麻里奈はもうフルーツに夢中だ。
「るいざも早く食わないと無くなるぞ」
「そうね。ありがたくいただくわ」
こうして和やかに夕食は過ぎていった。
まだ寝るには早い時間、克己はランニングシューズを履いて部屋を出た。元々病院に居たときからの習慣で、体力作りのために朝晩の二回、ジョギングをしていた。コースや距離は特に決めていない。あれこれ制約があると続きにくくなる。気が向いただけやる、ただし休まないようにする。コレだけが決めごとだった。
「さて、今日はどこに行こうか」
住居ブロック3階は大分冷えていて、雪がちらほらしている。走るのならもう少し暖かい場所が良いと考え、夕食に姿を見せなかった譲を探してみようと思い立った。
まずはコンピュータールームへと足を向ける。しかし、そこは無人で真維が1人で楽しそうに情報収集をしていた。次にトレーニングルームへと向かってみるがこちらも不在だ。とすると、処理棟か植物園か、いや、娯楽室の可能性もあるな。
テレポーテーション能力の副産物で、そういうカンだけは冴えてきた克己は、娯楽室へと向かってみた。
「ビンゴ」
娯楽室の休憩室のソファーに転がって寝ている譲を発見した。
探していなければうっかり通り過ぎそうなほど、机と机の間の狭いソファー(しかも背もたれ付き)で寝ている。
ふと、克己の悪戯心がくすぐられる。
そーっと近づいて、驚かせてやろう。
部屋のドアは開いている。これはチャンスだ。
足音を忍ばせ、眠っている譲に近付くが、起きる気配は無い。
よし、今だ!
驚かせようと手を伸ばした瞬間、その手をとられ、克己の身体が宙を舞った。
「!?」
ガシャーン!!という凄まじい音を立ててソファーと机がいくつか薙ぎ倒される。
あまりの急展開に頭がついていかない。
少し遅れて驚きと痛みがやってきた。
「いってぇ……!」
「あ、悪い」
一瞬で目が覚めた譲だったが、何が起こったか理解するのに時間がかかる。
状況を理解したのは克己の方が早かった。
「いや、俺が悪かった。寝てたから驚かせようとしたんだ」
「そりゃまた迂闊な……」
呆れたように譲が言う。
「こうなると思わなかったのか?」
床に転がっている克己に手を伸ばして、譲が聞く。
「まさかお前が力抜きでこんなに強いとは思ってなかったわ。完全に舐めてた。悪い」
譲の手に掴まり立ち上がる。あちこちぶつけて痛みはあるが、骨は無事のようだ。青あざは避けられないだろうが、それは自業自得だ。
「以前本部に居たときから、神崎さんに護身術の稽古をつけて貰っていたんだ。さすがに特殊能力だけでどうにかなるものでも無いと思ってな」
「成る程」
机は面倒になったのか、念動力を使って並べている。コントロールがきくととても便利そうだ。
「どうした?」
「いや、便利そうだなーと」
「便利だぞ。お前の力も便利じゃないか」
「コントロールがきけばな」
「トレーニングを頑張るんだな」
「そういや、麻里奈がなんで譲は持っていない力にも詳しいのかって言ってたぞ」
「へー」
これは答える気が無いなと、克己がジト目で譲を見た。
「特殊能力については別だが、基本的な力は誰もが持っている」
「俺も?」
「そうだ。それが実用レベルを越えるかは個人の適正によるけどな」
譲がウィンドウを2つ表示した。
「コッチが今のお前だ。で、コッチが今の俺だ」
「えぐっ、お前これチートじゃね!?」
表示されたレーダーチャートの大きさが違うなんて物ではない。
「トレーニングはじめたてみたいなものだからな。こんなもんだろ」
「お前はトレーニングどうしてたんだ?」
「自己流だ」
こういうところが勝てないと思うところだよな。
「背中と足」
譲が克己に言った。
「へ?」
「酷い所だけ軽くしてやる。治すのはさすがに無理だが」
「そんなことまで出来るのか……」
「まあ、俺のせいでもあるしな」
譲が傷に手をふれた瞬間痛みが走って、克己が顔をしかめる。が、少し経つと暖かくなりやがてかなりマシになった。
「スゲー、Thanks」
「いや。気にするな」
さすがに消耗したのか、譲は大きく息をついた。
「夕飯食いっぱぐれたな」
今頃空腹が襲ってきたらしい。
「るいざが冷蔵庫に残り物入れてたぞ」
「じゃあ、何か摘まむか」
「俺も軽く夜食食おうかな」
そう言うと、克己と譲は2人で娯楽室を後にした。




