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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
57/331

第五章 冬姫覚醒 9

分かり辛い関西弁の解説です。


・何をさらすんや → 何をしやがる。

綺麗な言葉遣いではないです。良い子は真似しないように。

「うぬらは弱すぎる。小娘の小競り合いなど、見ていてもくだらぬわ」

 突然現れた謎の男は、本当につまらなさそうな口調で吐き捨てた。

「誰、この人? お坊さん?」

 一部始終を目撃した椿とあまねは、唖然として、顔の分からない変な男を見つめていた。

 椿が指摘したとおり、服装はよく見ると、仏僧が身につける法衣だ。

虚無僧こむそうどすか。いくら京都や言うても、町中を歩いている姿は、初めて見るどす」

 虚無僧とは、よく尺八を吹きながら各地を行脚し、托鉢などをしている僧だ。確かに言われてみると、目の前の男は小奇麗ながらも、虚無僧と呼べる格好をしていた。

 でも、どうして虚無僧が突然現れて、榎たちの試合の邪魔をするのか。さっぱり理由がわからず、榎は困惑した。

「何をさらすんや、クソ坊主!」

「いきなり割り込んでくるなよ、試合の邪魔だ!」

 柊が怒りの声をぶちまける。榎も負けじと、虚無僧に文句を吐いた。

 榎たちの苦情などものともせず、虚無僧は馬鹿にした風に鼻を鳴らした。

「試合など、生温なまぬるい。戦いとは本来、生きるか死ぬかの極限状態で行う、神聖な儀式。弱き者共が木の枝を打ち合って、何が楽しい?」

 虚無僧的に、榎たちの試合が見ていて不愉快だったらしい。だからといって、部外者に割って入られる道理はない。余計なお世話というものだ。

「お前には関係ないだろうが! あたしたちの戦いに、口を挟むな!」

「まったくや。邪魔する言うんやったら、うちも黙っとらへんで!」

 榎と柊は立ち上がり、武器を構えた。狙いは揃って、眼前の腹が立つ、虚無僧だ。

 誰が合図するでもなく、榎たちはほぼ同時に地面を蹴った。虚無僧めがけて、獲物を振りかざした。

「下らぬ遊戯など、我が即座に終わらせてやろう。どちらが強いかなどと、優劣をつける必要はない。どちらも脆弱ぜいじゃくなり!」

 虚無僧は落ち着いていた。まるで周囲を飛び交う、目障りな蝿でも払い落とす仕草で、軽く刀を振り払った。

 直後。榎と柊は虚無僧の前に倒れこんでいた。背中に痛みが走る。いつ、攻撃されたのか。まったく分からなかった。

「まったくつまらぬ。無駄な時間を過ごした。どこかに、我を満足させる、真に強き者はおらぬのか……」

 軽く息を吐き、虚無僧は鞘つきの刀を腰に差し直した。榎たちには興味も失せた、といった態度だ。

 飄々とした足取りで、河原の砂利を草履で踏みしめながら、去っていこうとした。

「待てよ。好き勝手に言いやがって。誰が弱いだと? 笑わせるな」

 榎は力を振り絞り、虚無僧の足元に手を伸ばす。懇親の力を込めて、左の足首を掴んだ。

「坊さん、よっぽど腕に自信があるみたいやけどなぁ。力を過信しとったら、痛い目見るで!」

 ほぼ同時に、柊も虚無僧の右足を掴んでいた。

 立ち止まらざるをえない虚無僧は、歩みを止めて、上半身をよじった。つくばって、まだ抵抗をやめない榎たちを、呆れた様子で見下していた。

「威勢だけはよいな、小娘ども。男の聖地たる戦場において、かしましい金切り声など、不愉快千万……」

 黙々と台詞を吐いていた虚無僧だったが、言い終わるより先に、榎と柊の腕が動いた。同時に思いっきり両足を引っ張られ、虚無僧はずっこけて倒れた。

 今が好機とばかりに、榎は飛び起きて、虚無僧めがけて竹刀を振り下ろした。さっきの仕返しにと、肩を思い切り叩き付けた。

 柊も飛び上がって薙刀を振りかざす。長い木製の刃先が、虚無僧のわき腹を直撃した。

 さすがにダメージがでかいらしく、虚無僧は低いうめき声を上げた。

「すごい。えのちゃんとひいちゃん、息ぴったり。いつも考えが正反対で、喧嘩ばっかりなのに」

「まさに、阿吽あうんの呼吸どすな。正反対の性格でも同じ目的があると、チームワークが抜群になるどす」

 外野から、何やら聞き捨てならない声が聞こえたが、今は反論をしている余裕もない。聞き流した。

「おのれ、二人掛りとは卑怯な! しかも汚い手ばかり使いおって! 正々堂々と戦え!」

 辛うじて榎たちの猛反撃から逃れた虚無僧は、少し取り乱して説教してきた。

 だが、あまりにも説得力のない物言いは、榎たちの怒りに、さらに油を注いだ。

「人の試合に割り込んで、馬鹿にしておきながら、何が正々堂々だ!」

「戦いは、生きるか死ぬかの修羅場なんやろう? 卑怯もクソもあるかい!」

 榎は左から。柊は右から。

 虚無僧を挟み撃ちにして、今日最高の一撃を食らわせた。

 同時に強烈な攻撃を食らった虚無僧は、吹き飛ばされて河原に仰向けに倒れた。

「少しは懲りたか? 好き勝手やっていると、痛い目を見るんだぞ。良く覚えておけよ」

「ほんまに。せっかく、ええ感じで試合しとったのに、興醒めしてしもうたわ」

 邪魔者を退治すると、少し気持ちも落ち着いた。だが覇気は落ち、柊との試合を再会するには、少しテンションが下がったなと、榎はがっかりしていた。

 あのまま戦っていれば、絶対に榎が勝てたのに。そう思うと、本当にこの虚無僧が憎らしくなってくる。

「許さぬ。許さぬぞ、小娘どもぉ!」

 虚無僧は怒りを含んだ、恨めしい声を上げた。

 許さない、は榎の台詞だ。不機嫌になりながら虚無僧を睨みつけた。

 瞬間。背筋に悪寒が走った。

 立ち上がった虚無僧は、体を左右に揺らしながら、こちらへ向かって歩み寄ってきた。

 刀の鞘が抜かれ、妙にどす黒い刀身が露になっている。その刀を握る手だけが、しっかりと榎たちに狙いを定めていた。

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