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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
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56/331

第五章 冬姫覚醒 8

八

 翌日の放課後。ついに、戦いの時がやってきた。

 部活の後、そのままの格好で、榎は四季川の河川敷へと赴いた。

 白い胴衣と袴。試合とはいえ、相手は異種武道だから、公平さを期すために、籠手だけ装着し、他の防具はつけないと決めた。

 上手(かみて)から、柊が歩いてきた。榎と似た胴衣を身につけていたが、袴などは少し、剣道で用いるものとは違う。

 左手には柊の身長よりも長い、木製の薙刀(なぎなた)が握られていた。

 纏め上げられた髪、凛々しい立ち姿から、柊の意気込みが伝わってきた。もっと飄々としてやってくるのかと思っていたが、柊も本気らしい。

 ピリピリとした空気が、周囲を包み込む。

 妖怪と戦っているとき以外では、久しぶりの緊張感だった。

「時間もあまりない。早速、始めようか」

 榎と柊は、距離をとって向かい合った。

「剣と薙刀で試合なんて、無茶だと思うけれど……」

「異種格闘技みたいなもんどす。面白そうどすな。どちらも頑張るどすえ~」

 川沿いの土手では、レジャーシートを敷き、椿と周(あまね)が見守っていた。

 椿は、はらはらした表情で見守っていたが、周は寛いでポップコーンを頬張っていた。完全に娯楽感覚だ。

「さっちゃん、観戦モードに入らないでよ! 楽しみすぎ!」

「どうせ、試合に決着がつくまでは、危のうて仲裁にも入れんどす。気楽に構えとったほうが、いざという時に動きやすいどす」

 周の気楽さに椿は怒るが、さらりと聞き流されていた。周はお茶でポップコーンを飲み下し、一息ついて立ち上がった。

 周が審判を務めてくれる手筈になっている。榎たちの脇に立ち、周は二人の顔を交互に見た。

「お二人とも、ルールは分かっとりますな?」

 最終確認をとる。榎は大きく、頷いた。

「どちらか先に、相手の武器を落としたほうが勝ち。急所狙いや流血、非道な反則をしたほうは、無条件で負けだ」

 互いの競技の点数の取り方が異なるため、あくまで打ち合いの技術で決着をつけようと決めた。力と技術、体力。すべてにおいて勝っていたほうが、勝者となる。

「では、互いに向かい合って、礼」

 周の掛け声で、榎たちは儀礼を行った。

「さっさとやろうや。一分で、ケリつけたる」

 頭を上げると同時に、柊が薙刀を構えた。倣(なら)って榎も、正眼の構えをとった。

 周の腕が、地面と垂直に頭上へ翳される。緊張した空気が、辺りを包み込んだ。

「――試合、開始!」

 掛け声と共に、緊張が弾けとんだ。

 柊が、先に仕掛けてきた。前方に薙刀の刃先に当たる部分を突き出し、榎めがけて押し出した。

 榎は紙一重で避けつつ、竹刀で防御した。丈が長い薙刀のリーチは、竹刀の間合いよりも長い。想像はついていたが、実際に戦ってみると、非常にかわし辛い攻撃だった。

 薙刀は広い間合いと、武器を振りかざす遠心力から生み出される攻撃力が売りだ。ならば、間合いの内側に入ってしまえば、長所が殺されて無防備になる。

 榎は薙刀を竹刀で弾き、すかさず柊の懐へ飛び込んだ。相手の武器を叩き落そうと、手元を狙う。

 ところが、柊も切り返しが早い。柔軟に体を回転させて、榎の攻撃を避けた。反撃を食らう虞(おそれ)がある。反射的に榎は後ろへ下がり、柊の間合いから遠ざかった。

 少し乱れた息を整える。獲物は違うが、動きにキレがあり、物腰も柔らかい。

 武器を交えて、柊の実力の高さが、ひしひしと伝わってきた。

 柊は強い。武術を嗜(たしな)むものとして、かなりの鍛錬を積んできた人間だと、すぐに分かった。

 幼少期から剣道の技を磨いてきた榎でさえ苦戦する強豪。同じ歳でここまで覇気のある人間と、榎は初めて対峙した。

 柊は、榎の技量をどう思っているだろう。少なくとも、柊の表情から余裕の雰囲気は見られない。

 きっと、柊も榎に苦戦している。そう思えるだけで、少し、榎の自信につながった。

「二人とも、すごいわ。全然、隙がない」

「力も技も、互角どすな。あとは、体力勝負でっしゃろか」

 椿も周も、榎たちの戦いにのめりこんでいる様子だった。緊迫した空気を楽しみつつ、決着がつく瞬間を待っている。

 互角の戦いでは、意味がない。

 越えなければ、勝たなければ。

 榎は次のぶつかり合いに備えて呼吸を整え、再び正眼の構えをとった。

 風が蘆原を揺らす音だけが聞こえる。張り詰めた空気。

 突然、その空間をぶち壊す足音が響いた。

 砂利を擦る音。小石を蹴り飛ばしながら、何者かが近づいてくる。

「武器を打ち合う、小気味良い音。どれほどの強者たちが戦っているのかと思いきや……。ただの小娘どもか」

 くぐもった声が、風に乗って流れてきた。若い、男の声だと気付いた。

 椿と周が、榎たちから視線を逸らした。妙な感覚に違和感を覚え、榎も一瞬、足音のした方角に注意を払った。

 心臓が止まりそうになった。横目で脇を見ると、すぐ側に人が立っていた。

 頭にすっぽりと、円筒形の竹筒を被った、黒い着物を着た男だ。

 ぞくりと、背筋に悪寒が走る。殺気を感じた。男に向かって竹刀を構えたが、間に合わなかった。

「強さを競うからには、誰にも負けぬ技と力が必要なり!」

 男は鞘に納まった刀を構え、榎たちめがけて振りかざした。

 たった一振り。その動きは軽く、しなやか。

 なのに、重い剣戟となって、榎を襲う。

 何が起こったのか分からなかった。気付くと足に痛みを覚え、地面に倒れていた。

 足を払われたのだと、後になって気付いた。何が起こったのか。痛みと戦いながら、榎は必死で現状を把握しようとした。

 だが、考えれば考えるほど、分からなくなる。

 目の前に距離を置いて立っていたはずの、柊までもが、同時に足払いをされて、榎と同じ体勢で倒れこんでいた。あの一振りで、榎と柊の二人をも、倒したというのか。

 たった一瞬の出来事が、まるでスローモーションで流れていった。

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