矛盾
「死にたいという感情がキーなのかも」
事務所兼家であるINRBのソファに座り、階戸は先ほどの星刻の言葉を反芻していた。
自分の手を握り、ソファに拳を叩きつけてみる。
「いてぇ、、」
普通に痛む。即ち、あいつの能力は発動していないということだ。
「今あいつは死にたく無いってことか?」
仮に星刻の仮説が正しいとすると、強化されていない今は月黄泉の希死念慮は無いということになる。
「(そんなに死にたい気持ちってコロコロ無くなったりすんのか、、?)」
死にたい理由は理解できないが、おそらく衝動的な自殺願望では無いように見えた。しかし今もその願望があるとなると発動条件と矛盾が生じる。
「死にたいのに余計なことしてくれましたね。」
奥の部屋から荷解きを終えた月黄泉が歩いてくる。異能力を持つ可能性がある今、こいつは能力判明まで臨時でここに住まわせるそうだ。
「お前、今死にたいか?」
声に出したつもりはなかったが、勝手に心の声が漏れてしまっていた。
「‥当たり前ですよ。」
「‥そうか。」
やはり、死にたいという気持ちが直接のトリガーではないらしい。しかしそれだと、能力を解いた瞬間に強化された理由の説明がつかない。
「なんもわかんねー。。。」
俺は考えるのを諦めた。分からないものは分からない。確かに強化は便利だが、だからと言って無いから困るということは無い。
「やぁやぁ、INRBへようこそ〜」
手前の部屋から上機嫌な男が出てくる。
「いやぁ、やっぱり僕の勘は当たるんだなぁ、ホームズもびっくりだよ。もしかして僕、子孫だったり、、?!」
訳の分からない事を話しながら、星刻が近づいてくる。自分の読みが当たって天狗になっているこの男を嘲笑うように俺は言ってやる。
「いや、それが。今俺強化されてないんすよ」
「あれ、まじ?」
すっかり名探偵気分だった星刻が、意表をつかれたような表情になる。その顔に満足しながら俺はとどめを刺す。
「要するに、あんたの推理は外れってこと」
「ガーン」
ガーンって声出す人いるんだ、と心底呆れながら俺は真剣な顔になる。
「でも、能力が分からないって厄介ですね。いつ何が起こるか分からない。殺人鬼が強化される、なんて可能性もある。」
「そうだね、なるべく早めに判明させたいところだ」
といいながら、星刻はペラっと紙を一枚取り出す。
「上も異能の改名をご所望だ。」
紙には「指令」「至急」「解明」などの堅苦しい文字が並んでいる。
「解明っていっても、どうしろっていうんだよ」
大体の異能力者は自分の能力を自覚した上でここにくる。能力がわからないままINRBに来るなんて前代未聞だ。そもそも能力がわからないならINRBに来るという経路に辿りつかないからだ。
「今回は異例だからね。それで‥」
星刻が辺りを見渡す。
「例の彼はどこに行ったんだい?」
俺はさっき月黄泉が立っていた方を反射的にみる。そこに立っていたはずのあいつがいつの間にか消えている。その瞬間、不自然に開いたドアが目に入る。
「まさか」
考えるより先に足が動いた。あの部屋には窓がある。
ドアを開けると、月黄泉はドアの淵に足をかけようとしていた。
「俺の勝ちだ」
そう言って、月黄泉は窓から飛び降りた
ーはずだった。
「爪が甘いな、俺の勝ちだ」
俺は彼の手を間一髪で掴み、片手で上に引き上げていた。
「何回じゃますんだよ、馬鹿力」
「こっちのセリフだ、何回死のうとすんだ。」
文句を言い今にも殴りかかってきそうな月黄泉を床に投げ捨てながら考える。
「(片手でも全く重さを感じなかったな)」
今までの状況と、強化タイミングを再度思い出す。
上から降ってきたあいつを受け止めた時、鉄骨からあいつを守った時、そして飛び降りようとしたあいつを引き上げた時、、、
「(あいつが死にかけると、強化される‥?)」
一つの結論に辿り着く。死にたいという気持ちと死にそうな瞬間、この二つがトリガーになっているなら確かに説明はつく。矛盾もない。
「(そういえば‥)」
榴田屋の事を思い出した時、不自然に記憶力が良くなった事を思い出す。あの時は、俺にも才能が、なんて思っていたが、あれも強化の一種と考えるとする。そしてあの後、あいつはビルから飛び降りている。
ー月黄泉が死ぬために行動をした時、俺が強化される
何故俺だけが強化されるのかは分からない。しかし、この仮説が正しいとすると
「(あいつは、死にたい、死にたい、と願うほど死ねなくなるって事か‥?!)」
あまりにも残酷な能力に、階戸は転がっている月黄泉を見つめる事しかできなかった。
すみません。今日の文章はかなり酷いです。
後で訂正しなおします。




