33 クラス代表戦の行方とお姫様抱っこ
「ああ、終わった。クラス代表戦に負けた」
ついに諦めて教室の後ろで膝をつく俺。
なんのために昨日あれだけがんばったんだ。
アイテムを収集しスライムダンジョンの入場アイテムを作ってもらい、滝つぼダンジョンをも攻略した。その後にも、みんなでレベリングをしたというのに。
咲耶と白浜でレベルの高さを競うクラス代表戦の決闘。迎えた当日だというのに。
――――負けた
焦りのせいか、時計の針の音ばかりが響く。
1年Fクラスのなかにはすでに勝ちを確信した白浜の笑い声があがっていた。
「だから! やる前からわかってたじゃねえか。いまさらだよ、いまさら。ザコが逃げたとしても俺は責めねえよ。はははっ」
クラスはすでにまとまりつつある。
咲耶に期待してくれていたふたりの学生が不安げに聞いてくる。
「なあ、やっぱ無理だったのか?」
「むずかしいですよね。急にレベル勝負だなんて」
「いーやっ、俺はまだあきらめてないんだが……ちょっとしたトラブルで」
非常に苦しい言い訳しかでてこない。期待していたクラスメイトがうなだれてしまう様子なんて見たくはない。
「マジか。つまんねえー。こんな終わり方か?」
咲耶の席に座るBクラスの兵頭代表が興味なさそうにつぶやいた。スマホをさわる手のほうに集中してしまっている。
壇上では10分前から藤森が待っててくれている。腕時計の時間を確認しながら教室の出入り口を見守っていた。
「神楽 咲耶さんが朝のホームルームに現れなかった場合には、白浜くんの勝ちとします。あと30秒ほどです」
俺はたったひとつの負け筋に気づけなかった。
寝坊あるいは咲耶の方向音痴が発動した。きっと校舎までの間で迷子になっている。
いまから迎えに行っては遅い。なにかあったとき俺が土下座してでも勝負を延期してもらわなければならない。
土下座のシミュレーションをしておこう。なるべく目立つ位置がいい。藤森の足元だ。藤森の足元に滑り込む。つぎに白浜だ。白浜の足元に滑りこんで土下座をする。昨日ドロップしたウナギのローションを使おう。なるべく情けなく頭を下げるシミュレーションを考えろ。
いち、に、さんし。
完璧な土下座をシミュレートしたときだった。
「あと10秒」
藤森の冷徹な言葉の前にドタドタと足音が聞こえた気がした。手に持ったウナギのローションをポケットにしまう。
教室の扉から廊下を見ると土足のまま走ってくるふたりの生徒の姿。
「サクヤーっ! やばい、やばいよーっ。急いで! 急いでーっ! もう押すからね。えーいっ!」
「どわあーっ!? 待てまて、そんなにはやく走れない!?」
「ヤマトーっ、受け止めて!」
「ばっちこーい」
アルヴィが咲耶を思い切り押して咲耶が体制を崩しながらもすごい速度で体当たりしてくる。
「さん、にい、いち」
―――ドタドタドタッ
着地もストップも考えず駆け込んでくる咲耶の目が「どうにかしろ」と言ってくる。
右手で駆け込んでくる咲耶の脇を抱え左手で足をすくいあげて回転する。
お姫様だっこの完成だ!
二回目のお姫様抱っこは慣れたもの。咲耶はおとなしく首に手を回してくる。
「「「セーフッ!」」」
俺たち三人の声がそろう。
アルヴィは息をあらげながら教室の入り口で手をあげていた。
ぜえ、ぜえと呼吸を荒げる咲耶。よく見れば靴は昨日アルヴィがドロップした移動速度を強化する靴を履いている。これがなければ完全に遅刻していた。
「アルヴィ、ナイスだ!」
「ごめんよーっ。自分も寝坊したんだよーっ」
「……すまない。本当にすまない。申し開きもない」
「俺のせいだ。昨日、寝かせてやれなかった」
三人で謝っているとクラスに一波乱が起こる。
「ね、寝かせてあげなかった……あいつら、何のレベル上げを……?」
「お姫様だっこだとおおおお!?!? しかも慣れてる!? 慣れてない!? 飼い猫を抱き上げるぐらい自然な抱き方じゃねえかあーーーっ」
「ダンジョンに入るって隠語だったのか? 女子寮のことを、もしやダンジョンというのか」
「ちょっとダンジョンいってくる。いまなら無人だぜ」
「やめとけ犯罪者。そこにいけば退学が待ってるぞ」
「ふおおおおお。クラス代表戦にあるまじきオチ。許せねえ、許せねえぞ、柳楽ア!!」
「ふたりとも寝れなかった……ふたりともっ!? あのふたりは寮で同室だぞ。まさかっ!?」
「なんでお前が女子寮の部屋割り知ってんだよ、きめえな」
「置いておけ。いまはふたりの睡眠不足と足腰の立たない神楽さんの話だろう」
「まさかあいつ、伝説の二刀流の使い手だというのか!? 右手に日本刀、左手にフランベルジュだと!? 許せんな」
「静粛に。クラス代表戦の結果確認を行う。白浜さん、神楽さん。前へ」
学年代表である藤森が取り仕くる勝負だった。固唾をのんで見守る。
ようやく立ち上がり、息を落ち着かせた咲耶。振り返りながら一生懸命に謝ってくる。どうやら本当に寝坊しただけらしい。
よかった。ダンジョンを嫌いになって潜ってくれなくなったらどうしようかと思った。
「白浜くん、レベルを確認したい。学生証を見せてくれるかな」
「おうよ」
「……これは!? 昨日のレベルが5だったのは間違いないかい?」
「ああ、間違いねえよ」
「……そうか」
「言ってもいいぜ? はじめから決まってる勝負だろ」
「白浜くんのレベルから伝えよう」
藤森は言いにくそうに、言葉をつづけた。
「7レベルだ」
「えええ!? 7!? 昨日一日で5レベから7にあげたのか!? すげえな!?」
俺の口から、つい驚きが漏れる。
咲耶もアルヴィも一緒だ。レベルを上げた俺たちだからレベルをあげることがどんなに大変かわかっている。おそらく、彼もダンジョンに行き8時間近くの狩りをしたに違いない。
咲耶はどんな心境だろうか。自分という相手がいて、なお努力に弾みがつく白浜のすごさを理解してくれるだろうか。
「白浜、結果が出る前に声をかけてもいいだろうか」
「なんだよ」
「あなたの努力を尊敬する」
「ああ?」
「あなたは昨日、レベルを上げるためにさぞ努力されたことが痛いほどにわかる。だから、純粋に尊敬する。それだけは伝えさせてほしい。私はあなたの対戦相手ではある。でも、クラスメイトなんだ」
「……ああ。ありがとよ」
白浜はぶっきらぼうに答えていた。
咲耶の様子に加賀と芦原は「だめだったかあ」と肩を落としていた。
「神楽さんの結果を確認してもいいかい?」
「うむ。かまわない。確認してくれ」
「……ッ!?」
藤森が固まる。やっぱりそうだよな。
白浜はすごい。6レベルで勝とうと思ったり、7レベルで安心していては絶対に足元をすくわれていた。それほど努力もできる冒険者だった。
――相手が悪かった
藤森は大きく息を吐きだすと結果を述べる。
「Fクラスの代表が決定した」
多くのクラスメイトは出来レースだと思っているだろう。学年代表は力強く宣言する。
「神楽 咲耶さん、おめでとう。きみがFクラスの代表だ。Sクラスの代表としても、学年代表としても心強いよ。よろしくお願いします」
「クラス代表を決める際に立ち合いまでしてくださり、ありがとうございます。どうかこれから、よろしく頼む!」
「なにがよろしく頼むだ!? 納得いかねえ! 見せろ、見せてみろよ! お前らのなかで勝手に決めてんじゃねえぞ!? 俺が負けるはずねえだろうが、なあ!? 7レベルだぞ、7レベル!」
騒ぎ立てる白浜の気持ちはよくわかる。納得がいかないのだ。
「どうやったらレベル1のザコが俺を超えれるっていうんだよ。内通して取引してんじゃねえのか!? おい、お前らできてんじゃねえのかよ。そういうところが腐ってんだよ、冒険者はよ! 御曹司と剣聖の孫娘なら、なにしてもいいと思ってんじゃねえのか!?」
「やめたまえ、白浜くん。理由も説明しよう。咲耶さん、学生証を彼に提示してもいいだろうか?」
「もちろんだ。彼が納得するまで私はつきあおう」
咲耶が自らの手で白浜に学生証を見せる。表記されているレベルを見て白浜だけでなくクラスメイトも驚いた。
「10!? は、はあーーー!? 10ってなんだ!? Cクラスか……Bクラスじゃないのか!?」
「おっおお!? なんだって、おもろいことになってんなあ? ええ? マジじゃん!? 10だと!? おい、Bクラスに来いよ。歓迎するぜー?」
「兵頭代表、いまはすこしだけ勧誘を待ってくれないかい」
「いやあ、すげえ。マジですげえな。さすがに独力じゃないだろうが……10はすげえ。飛び級だろ。Fクラスでいいのかよ」
「……正直、僕も驚いているよ。白浜くんの7という数字はわかる。通ってきた道だ。しかし、1レベルから10レベルにあげる魔法なんて僕も知らない。誰が持っていたんだろうね」
「申し訳ない。レベルをどのように上げたかは言えない。私たちのパーティーで独占している事項になる」
「……言えよ。どうやってあげたか言えよ。だれにあげてもらんだよ!?」
「俺だよ。俺」
手をあげて名乗っておく。
「……大和くん」
「ひゅうーっ」
「俺とワルキューレの『レオパルド』。あと、ミネルヴァの魔女。俺は大したことはしていない」
「自分もいるぞーっ!」
アルヴィと並んでにっこり笑いあう。
「どうやって!? どんなズルしたら、そうなんだ!? いくら払った?」
「むう、お金はどこにも払ってなどおらぬ」
「払うどころか収支はプラスだよーっ!」
「昨日はちょっとあってな……パーティー収支は著しくプラスだ」
レジェンダリーが2本とユニーク装備もたくさん。レアなアクセサリが多数手に入っていた。とんでもない業運持ちがパーティーにいることは違いない。おそらく咲耶だ。
「昨日のレベル上げについては運がよかったとしか言えない。ただやはり、勝因は咲耶だよ。咲耶の情念がなによりも勝っていた。俺はそれをパーティーメンバーとして手伝っただけだ」
「自分もそう思う。勝負への強い意気込みがあったよ。じゃないと5時間もひとりで狩り続けられない」
「俺は秋刀魚が食いたくて秋刀魚を食ってただけだ。咲耶の狩りを横目にな!」
「自分も同じく。鰻に串を打たせてもらった!」
「ごめんね、大和くん。話をすこし戻すよ。……いろんな人の力を借りたうえで、最後は神楽さんがレベル上げに勤しんで10レベルまであげたってことだね」
「そうだ。昨日の帰り道の咲耶は疲労困憊していた! 女子更衣室と男子更衣室を間違えるほどにな!」
「車のなかも爆睡してたよ!」
「おまえら! 余計なことまで言わんでいい!?」
ここまで話してようやくクラスメイトたちの理解が追いついてくる。
「え、神楽さんが勝ったの?」
「白浜じゃなくて? マジ?」
「レベルってそんな簡単にあがんのかよ」
「5の壁と10の壁って大したことねえんだな」
「おーい。Fクラス、勘違いすんなよ。簡単にレベルを上げられるわけがねえんだ。もしも簡単にレベルを上げたって言ってるやつがいれば、そいつがすげえ。レベル10まで挑んだってことはだな、少なくとも命のやりとりが何度かあったって意味なんだよ。そこらへん、まだわかっちゃいねえだろうが……ぶっとんでるぜ、あいつら」
Bクラス代表の兵頭の言葉は重い。冷や水をかけたように静かになる。
「白浜、すこしだけ確認してもいいか。まだ胸中穏やかではないだろうし、俺のことは嫌いだろう。だが、聞いてくれ。クラス代表になってまで、やりたかったことを教えてくれ。SクラスやAクラスと協定を組んで仲良くレベル上げをするよりも、ほかのクラスと争ってでも強くなっていきたいって思ってたってことでいいのか?」
「……ああ、そうだよ。モンスターだけでなく対人戦でもほかのクラスに負けねえように。ほかのクラスと対等に戦えるような扱いを受けられるようにしたかった。それだけだ」
「対人戦も行いたかったんだな?」
白浜は頷いた。
「咲耶、こういう提案はどうだろうか。Sクラスと手を組まない。ほかのクラスとの競争を受けるという選択肢を。理由もある。SクラスやAクラスと手を組みたかったのは10レベル以上の冒険者がいなければクラス全体のレベル上げが滞ってしまう可能性があったからだ。いま、このクラスにはレベル10に達している人間が3人いる。咲耶とアルヴィと俺だ。半分とはいかないが大勢をダンジョンに連れていけるようになった。白浜も、すぐに10になるだろう。同じようなレベル帯であるEクラスはもとより、Dクラスとの勝負も見えてくるんじゃないか? 将来プロを目指す志があるなら対人戦は良い経験になる。クラス代表は咲耶だ。考えてみてくれ」
「俺は賛成だぜ! やろうぜ、クラス対抗戦。つか、挑んで来いよ。なりてえやつ、いるんだろ。対人戦のプロ選手に!」
Bクラスの兵頭はやる気だった。
「ふむ。その提案には私からも条件がある。本来は白浜に受けてもらおうと思っていたのだが……大和がクラスの副代表になれ」
「白浜、それでいいか?」
「……礼はいわねえ。ただ、文句はもういわねえよ」
「Fクラス副代表の柳楽だ。よろしく」
「わあーっ、最強クラスの誕生だーっ!」
アルヴィ、Bクラス代表が喜ぶからやめてあげなさい。
「うん、決まりだね。まとめる役をきみに押しつけてしまったようですまないね、大和くん」
「藤森がいなきゃこの場はなかった。朝からありがとう」
「おもしろいものが見れたよ。そしてこれからも、おもしろいものが見られそうだ。今年のFクラスにはとくに期待しているよ。神楽代表、よろしくお願いします」
「藤森学年代表、どうぞよろしくお願いします」
Fクラスの代表は咲耶になり対人戦も解禁された。
あぶねえ。対人戦を禁止にされたらクラス移籍を考えるところだったぜ。
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