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俺の寝室がいつの間にか【女神が転生者を異世界に送る白い空間】になってた…。~転生の女神は今日も俺と添い寝する~  作者: 八゜幡寺


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16/20

16:必要な救急車の台数を求めよ

「おい、何見てんだテメェ、コラ」


 タバコのポイ捨てを見た。

 捨てた人物と目が合った。

 絡まれた。


 いや~な顔をしていたんだろう。実際、その光景に心底不快感を覚えた。

 お昼時を過ぎた街角の公園は、食後の一服を堪能するべく、喫煙所に群がる人々であふれていた。


 ポイ捨てしたのは、そんな喫煙所からあぶれた、ちょいとイカツい兄ちゃんだった。

 肩を怒らせてつかつかと歩み寄ってくる。ポケ〇ントレーナーってこんな風に勝負を仕掛けてくるのかと思えば、あの世界って割と治安悪いんだなと思った。


「やんのかオイ?」


 襟首をつかむ手がゴツい。殴られれば痛そうだ。

 険しく俺を睨む顔つきも合わさって、今にも暴力に訴えてきそうな雰囲気がプンプンだ。

 しかし俺は……いやに冷静だった。


 殴られる覚悟があるわけじゃない。痛いのは嫌だ。

 ただ単に、怖くないのだ。

 むしろ背筋を走るゾクゾクとする痺れの正体は……歓喜!


 正当防衛という大義名分を手に入れた絶好のチャンスに、打ち震えていた。

 先に手を出したのそっちだからマジで俺悪くないから! てことで遠慮なく──!


「古武術! 藤影流【流れ星】!」


 俺は全身の力を抜いて後ろに倒れ込んだ。

 襟首を掴む兄ちゃんは、反射的に俺を引っ張り上げようと試みるのだが、大の男一人を持ち上げられるほどの筋力はなく、また俺がちゃっかり脚を踏んでいたせいで踏ん張りが効かず、バランスを容易に崩して一緒に倒れ込んできた。


 そこに、待ってましたと膝を立ててやる。

 流れるように、俺の膝めがけて、イカツい兄ちゃんの肛門……シワの多い星が降り注ぐ。


「ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ッッ!!!」


 ケツを押さえてのたうち回るイカツい兄ちゃん。

 絶対に鍛えることが不可能な内臓……直腸にダイレクトアタックする恐ろしい技だ。悶絶必至。

 しかもこの技、はたから見れば、イカツい兄ちゃんが俺を押し倒した挙句、単に自滅したようにしか映らない。


 師匠から習った古武術。あれから一人で練習したり、筋トレも地道に励んだ甲斐があった。

 中年太り候補生だったぽよんな肉体も着実に引き締まっていくし、古武術マジ最高。


 いつの間にか、辺りはスマホカメラを構えた人だかりができていた。嘲笑の声も上がっている。

 ……うっひょー! 決まった!

 気持ちいいいいっ!


「……タバコ、ポイ捨てやめたほうがいいですよ」


 ダメ押しに言葉を浴びせて、イカツい兄ちゃんが捨てたタバコの吸い殻を拾う。

 ごみ箱ないかなと辺りを見渡すが、なさそうなの

で、仕方なく、スーツのポケットに突っ込んだ。

 そしてイカツい兄ちゃんが回復する前にとっととその場を後にしたのだった。


 背後で拍手喝采を聞きながら……。




 ──そんな事があった数日後。仕事帰りの夕暮れ時。

 俺は囲まれた。

 イカツい兄ちゃんを中心とした六人グループに包囲されていた。


「よォー。オメーが健くんのケツ穴をヒーヒー言わせたってヤツ?」


「どーしてくれンだテメーよォ! 健くん痔になって毎朝泣いてンぞあーン!?」


「慰謝料払うかケツ穴交換するか選べやゴルァー!」


 マズった。

 対複数戦は師匠に教わってない。

 完全に有頂天になってた。誰かに尾行されてる気配はしてたけど、俺を狙うメリットなんてないし、取り越し苦労だとたかをくくってた。イザといいう時も古武術で抵抗できると思ってたんだ。


 一人ずつ潰していけば、何人かは道連れにできるだろうか。

 いいやそもそも痛いのがイヤだ。

 俺は別に、戦うことが好きなわけじゃないんだ……。

 勝つことが好きなんだよ……。

 逃げようにも、四方をしっかり通せんぼ。あれ詰んだ?


 流石に冷や汗が流れる。

 このご時世に暴力に屈してしまうのか……。いやむしろ半グレや裏バイトが横行してる昨今はもはや暴力の時代なのか……?

 世紀末かよ……。


「おい、アンタら、何している?」


 ふと、前方から歩いてくる二人組が話しかけてきた。

 人通りの少ない路地に連れ込まれたために、誰か通行人がやってくるなんて本当に渡りに船だ。


「すみません! 絡まれてて! 警察呼んでもらえます!?」


 すぐさま反応して助けを求める。

 暗がりであまりわからないが、シルエットは普通の学生のようだった。しかも一人は女学生。

 国家権力に頼るのが賢明だ。


「失せろやオラァ! 連れの女犯すぞ!」


「それともテメーが健くんのケツ穴補填してくれんのかぁー!?」


 誰彼構わず恫喝するチンピラ集団。女学生の方は既にスマホを取り出して耳に当てているというのに、逃げるそぶりも見せないとは、こいつら、なかなかにキマってる。


「あー、サキ。呼ぶのは警察じゃなくて、救急車のがいいみたいだ」


 しかし、隣の男が、せっかくの電話を制した。


「ギャハハハ! 彼氏よぉ! そりゃ賢明だぜ! すぐに治療してもらえりゃ死ぬことはねぇだろうからな!」


「おいおい呼ぶならちゃんと二台にしときな! このオッサンと、ついでにテメェも確定なんだからヨォーーーー!」


 最高潮にイキり散らかす六人。絶対に覆らない数の利は、そのまま自信に直結している。

 しかし男子学生の落ち着きようが、俺には不思議だった。

 チンピラ共を丁寧に指さし確認。そして、隣の女学生に伝える。


「サキ。救急車は六台だ。俺とあの藤影流のお兄さんを殺人犯にしたくなけりゃ、早めに頼むぜ」


「ああ!? んだとゴラァ!」


 おお、煽る煽る。男子学生、この数の差にもものともしない自信にあふれているようだ。

 というか俺も戦力の数に入ってる? 俺の古武術の流派もなぜか知ってるし……。あの現場に居合わせてたのか?

 しかし、俺は多勢に無勢で戦うつもりはない。

 なんとかこの場を無血でしのげればいいのだ。


 俺がスマホを取り出して通報しようものなら、それがすぐに開戦の合図となる。どうしたものか……。

 この中で、俺以外で一番マトモそうな女学生に助けを求めるのが一番いいだろう。


「すみませーん! 警察! 警察お願いします!」


「え!? 藤影流のお兄さん、戦わないの!?」


 女学生の代わりに、男子学生が驚きの声を上げる。


「いや俺、戦いが好きなわけじゃないし……一方的に蹂躙できるならともかく……」


「ええ……? もーしょうがないなあ。じゃあこの俺が、お兄さんの分まで相手してあげるよ。ほら、じゃあかかって来な、ザコども!」


 男子学生が強者ムーブをかまして、それに呼応してチンピラ共が一斉に彼に駆けていった。もうこの争いは止まらない。

 そう思った刹那――!




 ――トラックが!

 全員巻き込んで突っ込んできたァーーーー!!!

 俺はすぐさまスマホを取り出して、119番通報した。


「救急車あと二台追加で至急おねがいします!!!」

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