黒の少年
公園の利用客は島がいなくなった後、ぶっ倒れているタールに恐る恐る近寄った。
「気絶している……コイツを殺せば、俺が英雄だ」
彼はヒーロー能力者だった。腰に携帯していた刀を抜いて、タールに向ける。
だが状況はいつのまにか一変した。
「……あれ」
手から刀が無くなった。彼は何が起きたのかわからない。
次の瞬間、右の胸から彼の持っていた刀の刀身が突き出て来た。後ろから何者かに突き刺されたのだ。
「ガッ! な、なにが……」
「安心しろ、殺しはしない。だが……」
真後ろから低めの少年の声が聞こえて来た。利用客は振り返った。彼はそれなりに腕の立つ者だったが、背後に来ていた何者かの気配を察知できなかった。いつの間に自分の刀を奪ったのかさえわからない。
後ろの少年、黒い制服を着る彼は突き刺した刀の上から、瓶から水を垂れ流してかけた。その水はなんと突き刺された利用客の胸を修復した。刀が突き刺されたまま。
「この街の名物『大きな湖』の水は治癒効果がある……右胸に刀を突き刺したまま、生きていけ」
最後に後ろから睡眠薬を染み込ませたハンカチで口と鼻を覆われて、利用客は眠らされた。これから右胸に刀が突き刺さった彼の人生はどうなるのか———いつのまにか現れた黒衣の少年、桜は興味がないのでその辺に彼を転がして捨てた。
「タールさん、タールさん、起きてください」
そして桜はタールなら駆け寄り体を抱え起こした。しばらくしてタールは目を開けた。
目を開けたタールは桜を見てキョトンとした。
「ん……あれ、桜?」
「はい、桜ですよ。無事で何よりです」
「なんでここに?」
「私の通う学校は街の南側にありまして、この丘はちょうど私の通る道だったのです。なので“弟”と共にここに入っていくタールさんの姿を見つけて、こうして」
「弟?」
ぽー、とタールは桜を見つめた。そこに先ほどまで戦っていた島の面影を見た。
「あ、もしかして……」
「はい。島は私の弟です」
桜は、静電気で逆立ってしまったタールの髪をすいて、整えていく。
「そーか、アイツとどっかで会ったと思ったけど、お前の弟だったか。島は? どこにもいないが」
「多分、家かと。後で私が面倒を見ておきますのでご安心を。あの子もタールさんと戦って成長して行くのでしょう」
「ふぅん……」
目線を地面に落としたタール。
「どうしました?」
「……オレも、一段階レベルアップする頃かなって」
「どう言うことです?」
「魔法、覚えようと思って。屋敷に行く、まだ体が痺れるから、付き合ってくれるか?」
「はい、喜んでお供します」