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灰色大戦  作者: 灰色のネズミ
第一章 炎路のラスボス
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黒の子

 赤高校入学式後、真田村雲はオレンジ色の空を廊下の窓から仰ぎ見ていた。入学式の挨拶はなんの問題もなく終わらせられたが、教室で行われた担当教師からの学校説明の間、ずっと青髪の少年から言われたことを思い返していた。

 そして思い出す、実の姉から“逃げる”事を決めた日の、姉から向けられた言葉。


 ———穢らわしい。


「……ふぅ。帰るか」


 いつまでも考えていても仕方ないと、真田は歩き出す。もう夕暮れの放課後であり、誰も生徒は残っていない。オレンジから黒に変わる時の中で、真田は階段を降りる。

 すると踊り場、窓から外を眺める少女がいるのを見つける。さっきまでの自分と似ているな、と思い降りていた階段の途中で足を止めた。


「……スタイル良いなぁ」


 思わず呟いてしまう。

 後ろからでも、少女の腰が細くくびれており、透けて見える薄生地の黒タイツに覆われた脚も細くしなやか。そして何より目を引くのが腰まで伸びた一房の三つ編みに結った黒髪。

 どことなく雰囲気を感じる少女であった。


(っと、こっち見てないうちに立ち去ろう)


 こちらを見られては気まずくなってしまう。図体の大きい人間が多くいる街のお陰で、踊り場はかなり広めに作られている。黒髪の少女に接触せずに通り抜けられる。

 だが真田はあろう事か、自分が立っていた階段で足を滑らせてしまった。踏ん張りも効かず、ドスン!と尻餅をついてしまう。


「いて!」


 当然、すぐ近くにいた黒髪の少女もそれに気づく。


「あ……」


「ん……」


 振り返った少女は、とにかくクールだった。高貴な印象を受ける鋭くも邪な雰囲気が一切ない綺麗な目と、端正な顔立ち。彼女は振り返ってこけた真田の姿を見ても、窓の外を見ていた時と変わらず憂いを纏う儚げな雰囲気を纏っていた。

 真田はこけた事にショックを受けていて、黒髪の少女と見た目合うことしか出来なくなっていた。

 黒髪の少女もジッと真田を見つめていたが、綺麗な姿勢と所作で歩き、真田に手を伸ばした。


「大丈夫かしら? お尻、痛くない?」


「え、あ、だ、大丈夫!」


 立たせてもらいながら、真田はごまかすようにスカートのお尻部分をはたく。そして意味もなく前髪をいじる。


「は、ははは」


「ん。大丈夫そうね。これからは気をつけなさい」


「は、はい」


 少女の厳かな雰囲気に、思わず真田も身を縮こませる。


「それじゃ、私はこれで」


「あ! ま、待って! 今日学校にいるってことは新入生よね! 私は真田! あなたは?」


「わからない?」


「え?」


 友達になれるかも、と思い呼び止めたが、意外なセリフが返ってきて首を傾げる。

 わからない、と言うことは何か有名な子なのだろうかと真田は一瞬考えた。が、さっぱりなのですぐに諦めて聞き返す。


「ごめんなさい、わからないわ」


「そう。私の名前は茂木加奈子。も、ぎ、か、な、こ」


「茂木……加奈子、か。可愛い名前ね」


「あら本当にわからないんだ。私はあなたをわかるけど、あなたが私を知らないのは不公平かしら?」


「え、と……思わせぶりだから、教えてもらえるなら教えてほしい。わからなくて」


「私の祖父の名前は、山の助」


「え……ええええ⁉︎⁉︎」


 タールの正体が魔王だったと知った時以上に驚いたかもしれない。


「山の助って、この学校の校長じゃないの⁉︎ しかも! 三傑!」


 三傑とは人間界でも指折りの、魔界との戦争で活躍した英雄達三人の呼び名である。そして三傑はこの街に三人ともいる。

 赤高校の校長山の助と、隣の緑高校の校長。そして後一人、赤校緑校の保険医を担当する、『光の手』と呼ばれる治癒の能力の持ち主。三人とも一級ランクの実力者で実績もとんでもない。


「あ、あなたが、あなたが、校長の孫娘⁉︎」


「そういう貴女も真田家でしょう? お互い様じゃないかしら」


「え、知ってるんだ。朝、青髪の男子にも言われたけど」


「……ん? 青髪?」


 茂木加奈子は、青髪と聞いて思い当たる節があるのか考え込む素振りを見せてから、あ!と大きな声を上げた。


「桜さんが貴女にそんな事をわざわざ言うとは思えない……でも、言うとなれば、弟くんかしら。しかしなぜ、どんな経緯で……」


「え? どうかした? あの青髪の男子のこと知ってるの? もしかして友達とか? あ! だったら不味いかも!」


「不味い?」


「今、タールがその男子と戦って……いや、もう何時間も前の話だから終わってると思うけど、もし何かあったら友達の貴女は……」


「ッ! いいえ、安心して。別に島くんの存在は私が一方的に知っているだけだから、お兄さんの方と縁があってね。でも急ぎの用事ができたから私はもう行くわね、それじゃ」


 それだけ言って、真田の返事も待たずに茂木加奈子はツカツカと早歩きで立ち去っていった。残された真田は首を傾げる。

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