チョコ色の少女
屋敷から一人戻って来たタール。同行していたメリーも桜もいない。そして棲家としている大きな車庫の目の前に、一人の少女が立っていた。
チョコ色の髪。背は小さく、細くて、左手には手提げ鞄、右手にはキャリーケースを掴んでいた。
「……? 誰?」
タールはその子が何者なのかわからなかった。
時刻は夕刻前。
学校もまだやっているはずだが、彼女の着ている服は緑高のものだ。それでいて旅行用のキャリーケースを掴んでいるのには違和感があった。
ちなみにタールがキャリーケースのことを知っているのは、魔界にやって来た桜と茂木が持っていたのを見たことがあるし、よく行く街の服屋にも売っていて知ったからだ。
「わ、私は花村キツネと言います! 炎路君の………と、友達です」
彼女はタールが声をかけた瞬間に体を飛び跳ねるほどにビクつかせ、顔を真っ赤にして、一生懸命に口を開け閉めして自己紹介をした。
パクパクと開いたり、閉じたりする口の動きは鯉や雛が餌を求める時と似ていた。
「……どっかで会ったっけ?」
「いえ、初めましてです」
「なら、なんでここに? 道に迷ったのか? だったら別れたばっかだけど街に詳しいメリーって管理局の人に頼んでみようか? 電話して呼べばすぐに……」
「いえ! 私はあなたに用があって来ました」
「用?」
「私を一日だけでいいので、あなたの住んでいるこの車庫に泊めてもらえませんでしょーか」
必死に頭を下げて頼み込む、花村キツネ。
タールは目を見開いて驚き、そしてすぐに「いいよ」と答えた。
それから一緒にご飯を食べたり、風呂に入ったり、着替えたり、寝たりした翌日。
夜が明けてすぐに花村キツネは設置しておいた隠しカメラを持ってある所に向かった。場所はなんでもないボロいアパート。
そこの一室のチャイムを鳴らした。
「起きてくれる、かな……」
二回チャイムを鳴らすと、少しして部屋の中から物音がして、扉の向こうに人の気配がした。
ゆっくりと内側から開けられる扉。
そこにいたのは目にクマを作った赤髪の少年、炎路だった。
炎路は朝早くに家にやって来た花村に、疑いの目を向ける。
「花村……? なんのようだ……まだ登校時間じゃないはずだが」
「これ、持って来ました。何かの役に立つかも知れないと思って……」
花村は隠しカメラを炎路に手渡した。
部屋着のゆるい服装にドキドキしながら渡し、花村はカメラの中にあるものが何かを伝える。
「昨夜私、魔界の王子の寝床に泊まったの。そして食事や入浴、着替えや、ちょっとした世間話などを撮影しました……」
「撮影……?」
「タールについての情報も少しだけですけど手に入れました。一ヶ月後の再戦の役に立てるかなと思って」
「………」
炎路は渡されたカメラを見つめて、ぼーっとしてるかと思いきや、急に動き出し扉を広げた。
入れ、と花村を部屋に来るよう短く言う。さらにドキドキしながら花村は入って行った。
かなり整頓された綺麗好きの部屋。ちゃぶ台ですら顔が映るほどピカピカに磨かれていた。
「……とりあえず、見てみるか」
カメラをテレビに接続して、再生する。
ドカリと同級生の女の子がいるのにも関わらず、なんの警戒もなしに胡座を描く彼に、花村はさりげなく少しずつ座る位置を近づけていた。
映像を見ていると風呂場のシーンになった。
車庫の中に設置された質素な風呂桶にタールと、花村が入っている。もちろん二人とも全裸だ。
「わ、わ、わ。か、覚悟はしてたけどぉ、いざ見られると恥ずかしいなぁ……」
「あいつ、よくここまで気を許したな。それともこれもあいつのカリスマがなせるワザか?」
「え、炎路君……私の、裸見て、何も思わないですか?」
「……ん?」
炎路が何かに気づいて、動画を止める。そして食い入るように画面を凝視している。
画面はまだ二人の入浴シーンの最中だった。二人の裸が思いっきり画面いっぱいに写っている。
「え、え、炎路君⁉︎ そ、そんなに見つめられたらぁ……きゃあ〜!」
「……こいつの骨盤、ケツがでかいと思っていたがこんなに横に広がっていたのか」
炎路が注目していたのは花村の裸ではなく、タールの体だった。しかも体の構造を観察しているだけで、いやらしい事など微塵も考えてない様子だった。
「しかし花村の腰回りと比べても、やけに目立ってケツがデカいな」
「ひゃわっ」
「……何かある。そう言えば」
炎路は心底悔しいが、島の言葉を思い出していた。
魔王は何かの動物を元にして、魔神によって作られたもの。すなわち魔王には動物の特徴がある。
そしてタールも魔王の血を引いているのだから、見た目は人間の少女にしか見えなくても、どこかに魔王の要素があるはず。
炎路はタールの尻の大きさに注目した。
「エルフはウサギを元に作られてるって話だったな。そしてタールにもその血が流れているはず……てことは、この尻のデカさと骨盤の広さはウサギ由来のものか? ウサギが跳ねるために進化した太ももから腰にかけての構造を、コイツは人のナリして持っている」
見れば太ももも太い気がした。
島の話を参考にし、花村が持って来たカメラ映像からタールの秘密を丸裸にしようとしていた。
真剣な彼の顔を横から眺めて、花村は内心舌打ちつつも、それでもこの人のためになる事ならなんでもする覚悟で、また明日からもタールに接触しようと考えていた。




