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第八話 地下牢で……

今回も少し長編です。


         ザッボーーン!!!


 地下道で追い詰められたジェシカは、寄り掛かった壁のトラップに引っかかり、奈落へと落ちて行った。そしてジェシカは、地下道よりも更に深い場所にある地底湖にまで落ち、受け身を取れず、大きな水音と水飛沫を生み出した。水の中でジェシカは冷静さを取り戻し、心の中で詠唱して明かりの魔法を発動し、岸辺を見つけて、そこに向かって泳ぎ始めた。


「はぁ……はぁ……」


 なんとか安全な場所にたどり着いたジェシカは、慣れない泳ぎをして疲労状態となり、息を切らして仰向けになる。落ち着いた後、ジェシカは自分の失態を恥じていた。


(私としたことが……あんな罠に引っかかるなんて……。しかもよくよく考えたら、欺きの魔法じゃなくて、短距離のワープをすればよかったじゃない。……はぁ〜〜、こんな失敗するなんて……)


 焦った事で生まれた失態をジェシカは猛省し、反省点と改善点を考えてまとめた後、両頬を叩き、自分に喝を入れた。


「ーー!! 切り替えていこう!!」


 やる気を出したジェシカは立ち上がると、自分の荷物や、先ほど落ちて来た穴と地底湖を確認する。


(よかった、中身は大丈夫。事前に防水の魔法をかけて正解だったわ。さて、……あんな高い所から落ちて来たのね。落ちた先が串刺しの針とかじゃなくてよかったわ。……それにしても、不気味なくらい静かな湖ね)


 ジェシカは広大な地底湖の放つ強い静寂に困惑していた。水音も無く、生気を感じさせないその地底湖には、静寂だけじゃなく、"()()()()()()()()()()()()()()()()()"、ジェシカはそう感じずにはいられないかった。


(この場所はすごく気になるけど、……今は出口を探さなきゃ。あんな仕掛けが設計されているんだから、どこかに出口があるはず)


 ジェシカが明かりの魔法で周りを確認すると、前方に何かの影が動いた。


「ーーっ! 誰!?」


 ジェシカが先を照らして身構えると、影の正体が暗闇から姿を現す。しかしその正体は、()()()()()()()()()()()()()()()



「……え? あなたは、スライムくん……?」



 ポヨンという弾む音を鳴らし、ジェシカの前に現れたのは、地下道で出会った灰色の不思議なスライムだった。予期せぬ遭遇者にジェシカは驚きながら、仮面を外してスライムに話しかける。


「あなた……どうしてここに……? もしかして此処は、あなたのお家? ……って、わからないよね」


 ジェシカは特定のスライムが水辺を住処にしていることを思い出し、スライムに質問した。しかし、スライムは感情があまり無い生き物だということも思い出し、ジェシカは質問を止めた。しかしスライムは、頷いている様な動作でジェシカに返答した。その様子を見て、ジェシカは驚きながらも、冷静に対応する。


「あれ? 通じている? ……改めて思い返すと、あなたとは意思疎通出来ていた気がする……。もしかして、前に別の誰かにテイムされたことあるの?」


 ジェシカの質問にスライムは、首を振る様な動作をし、否定と答えた。明確な意思を持ち、質問に答えられる不思議なスライムに、ジェシカは少し呆然していた。


「……あなた、随分人間味があるのね。……ねぇ、此処があなたの住処なら、出口がどこにあるか知ってる?」


 話が通じ合うことを理解したジェシカはスライムに道を尋ねた。するとスライムは、腕の様な部位を出し、暗闇の先を指す。ジェシカはスライムに道案内を頼むと、スライムの腕が旗の様な形に代わり、腕を振りながら先を進んでいく。ジェシカは後を付きながら、旗のことを突っ込んでいいのか迷ったが、突っ込まない事にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、スライムに案内されたジェシカは、岩壁に人が通れそうな割れ目の前にたどり着く。スライムと共に奥へと進むと、何故か金属製の丈夫な梯子が設置されており、上に続いていた。


「……なんでこんなものがこんなところに? でも、しっかりした梯子ね。これで出られるの?」


 梯子の安全性を確認したジェシカはスライムに質問すると、先程と同じ様に頷き、腕の様な部位を上の方に指す。するとジェシカは、膝を着き、優しい表情でスライムにお礼を言った。


「……あなたのこと色々気になるけれど、優しいスライムだってことはわかったわ。どうもありがとう、スライムくん。また同じのだけど、これどうぞ」


 ジェシカは再び水の魔法を唱えて水球を生み出し、ふよふよと浮かばせながら、スライムに渡す。スライムは両手の様な部位で受け取ると、またもや豪快に飲み干し、ジェシカは二度目の賛辞を送る。


「ふふ、ホント良い飲みっぷりね。……ところでスライムくん。あなたはこれからどうするの? さっきの地底湖に戻るの?」


 ジェシカの質問にスライムは否定し、ジェシカに指の様な部位を指して自分に指し、上の方に指を指した。


「もしかして、一緒に来てくれるの?」


 ジェシカの質問にスライムは頷く。ジェシカは内心喜んだが、自分の作戦に巻き込まれる可能性を心配し、同行の申し入れを断る。しかしスライムは激しく跳ね始め、ジェシカに付いて行く気満々の意思を示す。説得しても折れない様子のスライムに、ジェシカは溜息をつきながら根負けした。


「わかった。一緒に行くのはいいけど、私の側からあまり離れないでね。……あっ! そうだ! あなたはここに入ってて。ここなら安全だから」


 ジェシカは腰のポーチの金具を外すと、封を開けてスライムの前に出す。ポーチの中は、外見とは異なりとても広く、スライムが余裕で入ることができていた。中の広さを確認したスライムはジェシカに疑問の視線を送り、ジェシカはその疑問に答えた。


「これは魔法の袋(マジックバック)って言う魔道具よ。中の空間魔法のおかげで、見た目以上の収納が可能なの。私のこれは、大人の男が五人位は入れる広さだから窮屈じゃないはず。だから安全な場所に辿り着くまでは、しばらくここに入ってて、ね?」


 ジェシカの心配する表情を見たスライムは、大人しく要求を飲み、マジックバックに入り込み、中でジェシカに向けて手の様な部位を振っていた。


(中は快適そうね。よし、行きましょう)


 スライムの確認をした後、封を閉じて再びポーチを装着し、ジェシカは梯子を登る。しかし、梯子はそれほど長くはなく、一、二階ほどの高さを登ると、あっという間に出口を閉じている石の蓋に辿り着いた。


(この距離だと、出る場所は地下道かしら?)


 ジェシカは考察しながら蓋に手をかけた。しかし。


(……ッ! この蓋、重いわね……)


 石の蓋は想像よりも重く、梯子に掴まりながら片手で蓋を開けるに、ジェシカは苦戦する。


「ん〜〜〜〜っ!!」


 ジェシカは片手に渾身の力を込め、蓋を横にずらして出口を開き、息を切らしながら外に出てきた。


「はぁ、はぁ……な、なんとか出れた……

 って、ここは……牢屋?」


 周りを確認するジェシカがたどり着いた場所は、誰も居ない獄中だった。座ると軋む音が鳴りそうなボロボロの椅子と、寝具として床に敷かれている布は、カビと血の跡で汚れており、牢屋の中は最悪な環境を作っていた。しかしジェシカは、廃教会と書庫といった不衛生な場所を続けて潜入した経験からか、牢屋の酷い環境を目の当たりしても、一切動じることは無かった。


 そしてジェシカは、自分の現在位置を確認する為に周りを散策し始める。幸いにも牢屋には鍵がかかっておらず、難無く出る事が出来た。


 しかし、牢屋を出たジェシカは、辺りを見回すと、ある違和感に気づく。


(あれ? 他の牢屋も誰もいない……? というより、これは地下道にあった牢屋とは違う……もしかして、ここは……城の地下牢!?)


 ジェシカは自分が行き着いた場所が城の中だと気づくと、再び牢屋の中に入り、隅の方へ身を隠した。隠れた理由は、城の中という意味もあるが、先ほどの失態による過敏になった警戒心によるものがほとんどだった。


 そしてなぜか、自動作成地図を取り出し床に広げる。自動作成地図は、家蜘蛛達の活躍により二十階までの見取り図が描かれていたが、ジェシカは完成間近の見取り図よりも、別のものを気にしていた。


(この自動作成地図は魔力を込めると、持ち主が地図の描かれた場所の中にいれば、現在位置を示しす事ができるのよね。確か、赤い点で示されるはず)


 自動作成地図の便利機能を活用し、ジェシカは自分の現在位置を確認しようとしていた。しかし地図には、どこにも赤い点は表示されておらず、ジェシカは困惑する。


(私の居場所が表示されてない? 地図の作成地域は城だけに設定しているから、他の場所は写らないはず。……う〜ん。ここは城じゃないないのかし……ん?)


 ジェシカが地図を隅々まで凝視していると、一箇所だけ奇妙な見取り図が描かれていた。それは地図に描かれては薄らと消え始め、そしてまた描かれては消えるを繰り返しており、まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、ジェシカが奇妙な見取り図を発見すると、その場所に薄らと赤い点が表示されており、ジェシカは自分が地図が示す奇妙な見取り図内に居る事に気づく。


(なんなのかしらこれ。……城の中なのは解ったけど、私、今どこにいるんだろう……)


 自分の居場所を確認するかの様に、ジェシカは牢屋の中を見回した。そしてその時、ジェシカの視界に気になる物が映った。


(ん? 椅子に何か……)


 牢屋の中にあるボロボロの椅子の裏面に、何かが垂れ下がっているのをジェシカは見つけ、椅子に近づき裏面を確認する。


(これは……紙? たくさん貼ってある……。あれ? 何か書いてあるわ)


 血糊でくっついていた紙を剥がしたジェシカは、紙に書かれている内容を目読する。

   

 

『俺は情報屋のハイネ 諸事情により全ては書けないが、ここでの出来事を、ここに記す。



 一月十三日


 帝国上層部の裏金の情報を入手したが、奴等の配下に襲われて気絶してしまい、目が覚めると、ここに閉じ込められてしまった。


 俺が居るこの牢獄は『隠蔽監獄』という場所で、情報屋の間で幻と言われている秘匿された場所だ。噂では国や著名人の機密を知り過ぎた人物を収監する場所で、城の地図には載っておらず、認知しているのは一部の城の人間のみだ。


 それにこの場所には魔封じの魔法がかけられており、無効化のバングルを身につけている兵士以外は自分の魔力が扱えない。だが俺は、もしもの時の為に、髪紐に魔力を潜ませ、それを使って紙と筆を召喚できる『執筆の魔法』を使える様にしている。おかげでこうして書き残す事ができたんだ。


 二月五日


 ここを出る二つの方法を、仲良くなった隣の囚人から聞くことができたが、成果は良く無かった。(ちなみに、最初にこの場所にぶち込まれた時に隣の囚人が話しかけてくれて、その時にここが隠蔽監獄だと教えてもらった)


 一つは、罪を認め、過重労働を課せられる囚人奴隷になる。

 

 二つは、廃人化になるまで、記憶消去の魔法を受け続ける。


 結局ここを出るには、諦める覚悟をしなければならないという事だ。これは俺が生きてきて一番の絶望感だと思う。

 

 だが、俺は死んでも諦めない。


 今の帝国は、あのクズ勇者イエガーと一緒に、悪逆の道を歩んでる。人として大事なものを切り捨て過ぎている。こんなのは俺の愛する故郷の姿じゃない。


 だから俺は情報屋としての武器で、帝都のクズ供を醜聞で倒そうとした。捕まって処刑されても、大切なものを守るためなら、後悔はしない主義だからな。


 三月十日


 兵士から聞き出せたのだが、近々俺を含めた()()()()()()()()が、別の場所へ移送されるらしい。なんでも、俺とは桁違いの重罪人が収監されるらしく、囚人達にすら姿を見せる訳にはいかないらしい。


 ここの囚人全員を移送してまで秘匿される重罪人とは、情報屋としてすごく気になるが、移送された後に収監される様だから、確認するのは不可能みたいだ。



 三月二十四日

 

 明日、俺を含めた囚人全員が、予定通り移送される事が発表された。ただ、発表した見張りの兵士達が妙に慌ただしい様子だったのが凄く気になった。例の重罪人の対応に追われているかと思っていたが、どうやら違うらしい。兵士から聞き出してみたら、驚きの内容だった。例の重罪人の捕獲と連行は、あのクズ勇者イエガーが直々に担ったらしく、しかもこの場所を占拠して、例の重罪人だけを閉じ込めるという計画を発案したのもイエガーらしい。


 俺は益々、例の重罪人の事が気になった。重罪人は俺みたいに国の精鋭に捕まったので無く、"イエガーが直々に捕獲した"という報告が、疑問を生ませたからだ。恐らく重罪人は、イエガーにとって、何か都合を悪くさせる情報を持っていると、俺は考察した。


 だがこの考察だと、当然別の疑問が生まれてしまう。それは、


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……と。

 

 重要な機密を知り過ぎてしまった人物の中には、身辺調査で証拠や記録を押収、又は揉み消された後、口封じで殺された(ケース)もある。


 仮にイエガーの不都合な機密を知っている人物に対してなら、その方が合理的なやり方なはずなのに、何故捕獲なのだろう? これから収監される重罪人は俺にとって、謎が謎を呼ぶ存在となっていた。

 


 さて、どうやらこれが最後の記述になりそうだ。


 

 これを見つけて読んだ者へ、もし脱出できたら、一つ頼みがある。



 俺が死んでた場合、俺の後始末を担ってほしい。



 裏金の情報は、三小大陸『ヒュサーピ』の都、 

『スイバイ』の酒場の倉庫に隠してある。霧が悪き者からを守ってくるあの国なら、絶対にバレやしない。


 その情報を手に入れて、苦渋の選択を強いられている者達を助けてほしい。お願いだ。


 それともし、例の重罪人に会えたら、イエガーの弱みを握れるかもしれない。接触し、奴の弱点がわかれば、イエガーだけじゃなく、帝国の屑どもを一掃できる可能性(チャンス)があるはずだ。



 どうか頼む。



 俺はこれ以上、愛する故郷が破滅の道を歩む姿を見たくないんだ。


 これを見つけた者が、正しき心の持ち主であることを、切に願う。  ハイネより』



 全て読み終えたジェシカは、ハイネの手紙にほんの少し、胸を締め付けられていた。


(すぐに協力は難しいけれど、いつか必ず力になるわ……)


 故郷の為に戦っていた情報屋に、ジェシカは近いものを感じていた。そして手紙をポーチにしまい、ジェシカは改めて、自分の居場所と状況を地図を見ながら確認する。


(この場所が『隠蔽監獄』っていうなら、地図にこの場所が描かれない理由が納得できるわね。魔封じの魔法だけじゃなく、この場所は調査や探知系の魔法を阻害する術も張り巡らしていて、外部から認知できない様にしているんだわ。……重罪人のことは気になるけど、一旦調査を中断して、戻った方が良いかもしれないわね。無理に散策すると、さっきみたいな目に会うかもしれないし)


 ジェシカは魔石を取り出し、『ワープ』を唱えて城を脱出しよう試みる。




 しかしその時だった。



 ガチャン!!


コツ……コツ……コツ……



 鉄製の扉が閉まる様な音と、誰かの足音が突如ジェシカの耳に入る。ワープの詠唱をしていたジェシカは詠唱を中断し、魔石の魔力を使って欺きの魔法で姿を消し、警戒態勢を取った。


(誰かしら……兵士、ではないわね。鎧の音は聞こえないし)


 ジェシカは牢屋から顔を出し、足音が聞こえる方を確認すると、明かりを持った人物が奥の通路へ歩いて行く姿を目撃した。



 この時、目撃した人物が兵士とかだったら、ジェシカは頃合いを見計らって、ワープの魔法を発動して脱出する予定だった。



 だが、そうはならなかった。



 目撃した人物が、ジェシカが心の底から会いたかった人物であり


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 





「イ……エ、ガー…………」







 奥の通路へ歩いて行ったのは、ジェシカの脳裏に絶望を焼き付けた憎き仇、イエガーだった。


 思わぬ遭遇者に、ジェシカはか細い声で仇の名前を口にした後、内に秘めた復讐心で呆然とする自身の体と思考を無理やり動かし


 

 今が絶好の好機(チャンス)だと妄信しながら



 イエガーの後を追った。



次のお話で、ジェシカの運命が大きく変わります。




読んでくれてありがとうございます!

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