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練習って大事っすね

 たかがジャンケン。されどジャンケン。しかし二人にとっては大事なジャンケン。大切な一勝になる。



 「いやー、やっぱり外に限るのです。子供は外で遊ぶのです」



 和也の肩辺りを飛んでいるセラミー。その声といい、気分といい、高いものだった。それに対して、反対の気分になっているのは和也の方。歩いているが、その足取りは重い。



 「そんなこと言われる年齢じゃねーよ。あ~あ、あの時にグーを出してればなぁー。つか、どこに向かってんだ?」



 嘆きながら歩いているが、肝心なことがわからなかった。いったいどこに向かっているのか。


 そもそも気が乗らない。変身しなくても魔法が使えるようにするために外に出てきたのだが、いかんせん良い思い出がないからだ。



 「まぁまぁ、散歩だと思って歩いていれば良いのですよ」



 そう言って飛び回っていたセラミーは、和也の右肩に着地をし、座り始めた。一番座り心地が良いらしい。


 そのまま歩いていたら、通行人とすれ違った。特に変わった様子もなく。その様子を見て和也は、ふと思った。


 

 「なぁ、お前の姿って、他の人には見えているのか?」



 「そんなの決まってるじゃないですか。見える訳が無いのですよ」



 と、自信たっぷりと答えた。


 その答えを聞いた直後は何も感じなかったが、翌々考えてみたところ、汚点に気がついた。



 「じゃあ今こうやって話をしているのも‥‥‥」



 「普通の人には私の存在自体が見えてないのですから、勿論姿も、私が話す言葉も、見えないですし、聞こえないのですよ」



 つまり今まで気づいていなかったが、普通の人には見えていないので、和也が話しかけている相手がいないことになる。それは、和也が独り言を喋っていることになる。他人の目からみれば、おかしな子と思うのは必然的になる。そう考えただけで、背中がゾッとした。



 「それ、早く言えよ……」



 今の和也には、そう返答するしかなかった。それ以上、何か言う気力は失われていた。



 「まぁまぁ、気になさんなって旦那。……あっ! あそこの公園がちょうど良いのです」



 何故か時代劇の口調になったのかはわからないが、そう言って指を指した先には、確かに公園があった。


 それは小さな公園だった。二人用のベンチが一つあり、小さなブランコが一つあるだけだった。滑り台も砂場もない。


 

 「……! そういやここ……」



 その公園を見た瞬間、和也の進んでいた足が止まった。和也の微かな記憶が蘇った。まだ小さかった時に、ここに訪れていたことを。


 ここに訪れるのは、いつぶりだろうか。思い出そうとしたが思い出せなかった。ただ訪れていたことがあるとしか……。


 考えていたが、肩にいたセラミーがいないことに気がついた。目で探してみたら、近くの水呑場で蛇口を捻ろうとしていた。一生懸命に蛇口を捻ろうとしている姿を見て、思い出そうとすることを止めた。手伝うのではなく、ベンチに座った。



 ベンチに座った和也は、セラミーがいる水呑場を見てから、空を見上げた。今日も空は曇っている。



 (平和なもんだな。もっと何かが変わるのかと)



 こう思った。劇的に生活が変わるものだと思っていた。セラミーとまだ出会ってからそんなに時間は経ってないが、何やらいろんな出来事に巻き込まれると思っていたのだが、散歩ついでに、魔法の練習とは……。



 「では、そろそろ始めるのですよ。とりあえず目を瞑ってほしいのですよ」



 セラミーが近くに来ていた。どうやら、水を飲めたらしい。力を入れて回しすぎたのか、服が濡れている。

 幸いなことに、この公園には和也とセラミー以外には誰もいない。この会話が聞かれている心配もない。


 言われるがままに目を瞑る。数秒後に妙な感覚があった。中に何かが入る感覚。これが例のインフォームドというやつなのだろう。



 (大丈夫なのですよ)というセラミーの声が伝わる。昨日も体感したとは言え、慣れない感覚だ。腹の中にペットでも飼っている感覚なのかもしれない。


 そして右手には、例のステッキを持っている。これを使って魔法を発動させることが出来ると言っていたが、どうにも信憑性がない。



 (さてと、他の方々に見られたら、めんどくさいので結界を張っておくのです)



 そういうと、直ぐに持っていたステッキから光が発せられた。ステッキが光っただけなので、「大丈夫なのか? 」とセラミーに問うたが、自信満々に、(大丈夫なのです)と返ってきた。

 にわかに信じがたい話だが、確めることができないので、このままで練習をすることに決めた。




 (では、簡単な魔法から練習をするのですよ)



 この前の必殺技は変身しないと出来ない。変身をすればほとんどの魔法を使えることが出来ると言うが、変身する気が無いので、インフォームド状態でどのくらいできるかの練習。


 流石のセラミーでもインフォームド状態だと、和也がどれくらい使えることができるのかがわからない。


 変身後の状態であれば、セラミーの力を余すことなく使えるらしいのだが、インフォームド状態では、もともとの姿の状態なため、妖精たちの恩恵を受けることが難しいため、どのくらい使えるのかは、人によって異なってしまうらしい。


 もっとも、センスがある人だったり、恩恵を受けやすい体質になっている人だと、あまり関係なかったりするだとか。そんな話を聞いても、和也には確かめようがない。



 「それで、何をどうすれば良い?」



 (そうですね。まずは簡単な火の玉(ファイヤーボール)でもやってみるのです)



 簡単な説明は実は自宅でジャンケンをしたあとに少し聞いていた。


 何かを呟いたり、詠唱するのは強い魔法に行う行為であり、セラミーが言うには火の玉(ファイヤーボール)程度の魔法には必要がないと言う。もし必要でもセラミーの力によって必要が無くなるとかなんとか。


 魔法を使用するには、まずは頭の中でその魔法のイメージをすることが大事らしい。そうすることで発動しやすくなるとか。ちなみになれている人であれば、イメージしなくてもできるそうだ。


 次に魔法を発動するために必要な道具に魔力を注ぎ込む。和也の場合だと右手に持っているステッキに、魔力を注ぎ込むことになる。


 実はこの作業が一番大事になると言う。勿論注ぎ込む魔力の量によって、魔法の強さは変わってくる。沢山注ぎ込めば強い魔法を使えることが出来るが、少なすぎると、威力が弱まったり、魔法そのものが発動しなくなる。


 無論、普通の人間が魔力なんか持っているはずもないので、魔力は妖精から貰うことになる。中にいる妖精から魔力を貰うことはセラミーから言うには簡単なのだが、妖精から直接、道具には魔力を注ぎ込むことが出来ないらしい。道具に魔力を注ぎ込むのは人間の役割なんだとか。中では注ぎ込めるように手助けはしているそうだが、あくまでも注ぎ込むのは人間。


 そして最後に発動させる。この行程にくれば、ほぼ間違いなく成功したと言っても過言ではないのだとか。


 大事なのは、二番目の魔力を注ぎ込む行程。



 「んじゃ、とりあえずやってみるわ」



 そう言って和也はまず、頭の中で火の玉(ファイヤーボール)のイメージをした。赤い玉のイメージ。暑そうなイメージ。飛び出すイメージ。


 次に魔力をステッキに注ぎ込む行程。右手に持っていたステッキを体の前に出しながら、体の中にある何かをステッキの方へ移動させる。たぶんこれが魔力なのだろう。するとステッキの先端が赤い光を発しながら、渦巻いていく。



 (おおっ! 以外と上手なのです。あとは発車するだけなのです)



 渦巻いていた光が、丸くなっていく。どうやら火の玉になっていっているようだ。セラミーの言葉を聞いて直ぐに



 「ファイヤー!」



 と叫んだ。和也が叫んだと同時にステッキの先端にあった火の玉は、ゴゥッと音をたて、真っ直ぐに放たれて近くの木の中心部に当たった。


 当たった木はメラメラと燃えている。出た火の玉(ファイヤーボール)はまずまずの大きさだった。直径十五センチぐらいだろうか。


 それよりも、魔法が使えた感動が和也の体を動き回る。燃えている木を見て、初めて実感した。魔法を使ったことを。



 (おおっ! なかなかセンスがあるのです)



 さりげなく上から目線なのは置いといて、我ながら良くできたと和也は思った。一回必殺技を放っているから、発動しやすくなっていたのかもしれない。経験は大切なのだから。



 (この調子で、バンバンやるのです!)



 「おうよ!」



 最初は渋っていた和也だが、いざ魔法が使えることがわかると、感動と共にやる気も生まれたらしく、乗り気になっていた。


 雷の魔法、風の魔法などの攻撃魔法から、何かがあったための回復魔法まで、ありとあらゆる初心者が使える魔法を試し、練習をした。


 結果、和也はある程度の魔法なら、インフォームド状態でも使えることがわかった。

 


 「聖なる時 白き波動(ホーリーヴァイス)!!!」



 和也は叫ぶが、ステッキには反応がない。

 こちらはいくら練習しようとも成果はまるでない。


 変身状態でなければ使えないことは、セラミーから何度も言われているが、それでも試さずにはいられない。


 セラミーいわく 聖なる時 白き波動(ホーリーヴァイス) は変身後も含めて、和也が使えるなかでは一番威力があるのだとか。数ある魔法の中でも、その威力は上位に位置するらしい。


 結局、インフォームド状態でも和也はある程度できることがわかったので、日が暮れるまで、必殺技をどうにかして出そうと練習をしたのだった






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