『好き嫌い』や『ワガママ』では片付けられないことがある
誤解を恐れずに言いますと、この作品の登場人物は、全員マイノリティです。
シュウイチもワタルもカケルも、スイトもポストもライムも、すれ違ったナギもです。
みんな身体のどこかにアンバランスを抱えています。
ちなみに、シュウイチは不自由を心と脳神経に抱えています。
カケルは足の機能がアンバランスですが不自由は抱えていません。
シュウイチが自分なりのバランスを取れるようになるまで、しばしお付き合い願います。
一旦帰宅(帰城?)し、買ってきた荷物を部屋に置く。とりあえず昼食を食べようと、食堂へ向かった。郵便組から聞いた話では、食堂の料理が出されるのは朝晩のみ。今朝アルバが言っていた通り完全予約制で、昼は各自で調理するらしい。ということは、今日の俺の夜食分までアルバは予約してくれたのだろうか。感謝しないとな。食堂の重たい扉を開けると、そこにはポストとカケルが待っていた。カウンターにはスイトさんと、先程すれ違った少年のライムの姿も見えた。ライムは、カウンターでなにかのシャーベットを食べているようだった。
「待ってたぜ、シュウイチ!」
「我々、アナタとご飯を食ベタイ。お昼ヲご一緒してもヨロシイデスか?」
「えーっと……」
誰かとご飯を食べるのは苦手だ。喋りながら食べることができないから。でも、断るのは感じが悪い気がして、どうしようかと悩む。すると、スイトさんが声をかけた。
「まずは、お料理してから決めてはどうかな、シュウイチくん」
「あ、そ、そうですね、そうします」
「ほら、ポスト、カケル。シュウイチくんにキッチンセットの使い方教えてあげなよ。お喋りするチャンスだよ?」
「オヤ、本当デスね。デハここは僭越ナガラ私が」
「じゃあ俺はそんな二人を見て応援してる係の人な!シュウイチ、お前ならやれる!お前なら無事キッチンセットをマスターできるはずだ……!」
「いやどんな係だよ!」
思わずカケルにツッコミを入れれば、カケルもポストも笑った。ああ、こんなんでいいんだ。こんな風に軽く喋ってもいいんだな。少し、心のもやが晴れた気がした。そのとき、ふと、ライムとスイトさんの会話が聞こえてきた。
「……スイトさん、ソルベ美味しかったです、ありがとうございました」
「いえいえ、ライム君には毎日お世話になってるもの」
ライムがちらりとこちらに目をやる。え、なに、俺何かしたかな?
「良かったら今度、ソルベのお礼に、一緒にお食事でもどうですか?」
ああ、義理堅いやつなんだ。スイトさんならきっと二つ返事でいいよって言うんだろうな。そんな予見は、思いっきり外れた。
「ありがたい申し出だね。だけど、お食事の誘いには行けないかな。僕、誰かと食事をするのはあまり得意じゃないんだ」
「そうなんですね。では、好きなものを教えてください。今度、それを持ってきますから」
「うーん……、好きなものかあ。難しいな……」
「スイトは、果物が好きよ!特に苺や桃の、甘いやつ。でも、キウイやスターフルーツみたいな緑色の果物は好きじゃないから、覚えておきなさいよ、ライム!」
「サクラか。……ああ、覚えておくよ。ありがとな」
「そうだったね。サクラちゃん、ありがとう」
「と、当然じゃない!私はスイトのツクモなんだから!」
……そんな会話に、思うところがあった。スイトさんみたいなタイプの人が、誰かと一緒の食事を嫌がるなんて、意外だった。ああいう人って、そういう場が好きそうなイメージだったのに。あれ、でも昨日の立食パーティには参加していたような……?
「シュウイチさん」
「あ、ああうん、何?」
「……もしや、アナタも、複数人での食事が得意ではないですか?」
「えっ……、い、いや、食事自体が苦手ってわけじゃないんだけど……」
「……なにが苦手なんだ?」
「ほ、ほら。一緒に食べると、喋らなきゃいけないけど、俺、そういう食べるのと喋るのがうまく一緒にできなくて……」
大丈夫かな。受け入れてもらえんのかな。じゃあ一人で食べたがいいな、とか言われない?
「……そうだったのか。もー、そういうことは早く言えよ、シュウイチ!俺わかってなかったよ!言ってくれてサンキュな!」
「私ドモ、言われるまで他の人の求めるコト分からないデスからね。シュウイチさん、ありがとうゴザイます。……デハ、改めてお尋ねシマス。私ドモ、席を同じにスルだけでも、嬉しいデス。お喋りは、シタイときにシテください。それなら、ゴ一緒デキマスか?」
「い……いいのか?」
「もちろん(デスとも)」
こうして、2日目の昼は郵便屋の友人たちと楽しく過ごしたのだった。食堂を出るとき、スイトさんが俺に向けてウインクをしているのが見えた。……誰かと食べるのが苦手同士ってことで、共感したのだろうか。まだ答えは出ないまま、俺はポストが待ち受けているであろう図書室へと向かった。
【ポスト、カケル、シュウイチが去ったあとの食堂にて】
「ライム君、さっきはありがとうね」
「なんのことです?」
「しらばっくれてもだーめ。……シュウイチくんに助け船を出すため、僕を食事に誘ったでしょう?」
「……別に、アイツの為じゃないです。どっちかっていうと、貴方の弟たちに、貴方みたいな人が他にもいるって教えるためだ。僕は単に、そのためにアイツを利用しただけです」
「それでもやっぱり、ありがとうね。お城で働く子はみんな、僕の弟みたいなものだから」
「……そうですか」
「もちろん君もだよ、ライム君」
「あ、ありがとう……ございます」
「わあ、真っ赤。溶けちゃいそうだね~」
「洒落にならないんで、やめてください……」